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深遠の闇に愛されし夜の魔女  作者: 要 希沙良
第一部 運命の出会い
16/20

第15話 『和平 への 歩み』

 



 ヨルはレンと違って、歩きながらグレンを探すことにした。

 転移した場所が、取り込み中だったら、ものすごくいたたまれないからだ。


(前に、やらかしちゃったことあるし、あの空気は辛すぎる・・・。そんなに遠くないし、歩いて行こう。)


 戦場の方からは、グレンに刻んだ魔法陣の気配がするし、このまま歩いていけばグレンの鮮やかな(あか)は直ぐに見つけられると思った。


 まだ、戦場のあちこちで、小規模な争いが起こっていて、無国の兵達がホムラ兵に投降を促している。

 ヨルのローブは無国魔法部隊の支給品と同じ為、間違って仲間から攻撃される事はない。

 深い深い赤のローブだ。コレはヨルも大変お気に入りだ。

 念の為に結界を纏って、子犬に身を変えたステラを抱っこしながら歩いていると、1人の無国の兵がヨルに近寄ってきた。


「あの、ヨルさん・・・ですよね?グレン団長がお探ししていました。『ジラス将軍を捕らえ、ホムラ国皇太子殿下と共に本部天幕に移動したから、そちらに来てくれ』と、仰っていました」


 そう伝言を伝えてくれた兵に、ヨルはニッコリと微笑んだ。


「ありがとうございます。すぐにそちらに向かうことにします。では・・・」


 ヨルはその場で、ステラと共に転移した。

 そこに残された兵は、顔を赤らめたまま硬直していた。

 言うまでもなく、ヨルの笑顔を正面から見てしまったが故に。



 ***



 天幕から少し離れた場所に転移したヨルは、周りを見て驚いた。

 天幕の周りは沢山の兵達でごった返していたのだ。


 (天幕の前に、ぜんぜん転移ポイントがないと思ったら、沢山の人でスペースがなかっただけだったんだ・・・。でも、どうしよう?これじゃあ天幕に近づけない。)


 どうにかして人を掻き分けながら、天幕に近づかなければと歩み出そうとした時に、突然の大音量が鼓膜に響いた。

 それはもう、頭がクワンクワンとするほどの大音量だ。

 空気がビリビリと震えるような大音量に、騒々しかった辺りが一瞬で静まりかえった。

 ヨルは、音の発生源が自分の胸におとなしく抱かれているステラだと気付いた。


(ステラ!?なに?突然どうしたの?)


 ヨルの問いかけに、ステラは答えることなく、フフンと得意げな顔をしている。(所詮、ドヤ顔)

 ステラは何かに気付いたのか、勝手に納得して、ヨルの腕に抱かれたまま目を瞑ってしまった。


(ちょっと!ステラ!?)


 ヨルは、答えをくれないステラに、それ以上問いかけることをあきらめた。

 ふと、周りがやけに静かなのに気付いたヨルは、顔をゆっくり上げて周りを見渡した。


(ひぃー!!ステラ!なんてことするのよ!すんごい目立ってる!みんな見てる~(泣))


 動くにも動けず、注目された状態で固まっていると、ステラの声を聞きつけたミズトが天幕から出てきていて、ヨルを迎えに来てくれていた。

 おかげで、このいたたまれない空気からの脱出ができた。

 ステラのおかげ?でスムーズに天幕まで行けた。(事にしておく)



 天幕に入ると、そこにはグレンとシアン。そして、レンが立っていた。

 捕らえられたジラス将軍は、縄で拘束された状態で天幕の隅で気絶していた。

 ヨルとミズトに気付いたグレンは、一瞬ジラス将軍に視線を移して、すぐにミズトに戻した。


「ミズト、ジラス将軍を連れて行ってくれ。それと、城に通信で戦闘終了の報告と、事後は追って連絡をすると伝えてくれ。」


「はい。それではヨルさん、失礼します。」


「あっ、ミズトさん!迎えにきてくれて、ありがとう!」


 ミズトはすぐに部下を呼び、気絶しているジラス将軍を連れて、天幕から出て行った。


「ヨル、こっちにおいで」


 グレンに呼ばれて側まで行くと、ヨルの頭にグレンの大きい手がポンと乗せられ、優しく頭を撫でてくれる。


「今、レン皇太子殿下から話を伺ったよ。よく頑張ったな。2人とも(1人と1匹)ケガはないか?」


 頭を撫でられ、ようやく張っていた気が緩んだ。


「うん。大丈夫だよ。ステラも私も。それより、レンから話を聞いたって・・・」


「(レン?)あぁ、殿下の意志と、今後の方針だ。レン殿下?我々の一存で全ては決められないが、こちらとしてもあなたが王になられたほうが、これ以上の無駄な戦いをさけられそうです。今は、御身を無事に国に帰すことが大事ですね。あなた1人なら転移も可能かもしれませんが、軍を率いてならそうも行かないでしょう?」


「いや、私の話を聞いて、信じてもらえただけで充分だ。このまま、軍を率いて一度エンエンに立ち寄る。そこで軍を立てなおし、ホムラ国に戻ることにする。国内を平定するのは時間がかかるかもしれないが、必ずやり遂げてみせる!」


「はい、我々もすぐに陛下にこの事をお伝えします。平和を好まれるお方ですので、和平実現も夢ではないでしょう」


 グレンとレンがしっかりとお互いの手を握り合っていると、天幕にレンの従者シュウとミズトが入ってきた。

 必死で走ってきたのであろうシュウは、息も絶え絶えな様子だ。

 レンを見つけたシュウは、足をもつれさせながらレンに駆け寄っていった。


「で、殿下!レン殿下、ご、ご無事で・・・。心配したんですよ!!お1人で行くと言われて、その後何にも連絡がないまま戦いが終結してしまったんですから!」


 少し遅れて、ミズトがグレンに近寄ってきた。


「こちらに戻る途中でこの方が、必死でレン皇太子殿下をお探しだったのでお連れしたんですが、よろしかった・・・みたいですね。あと、ジラス将軍は拘束したまま、結界に封じてあります。城にも通信を入れました。入れたんですが・・・、通信に陛下がお出になられて、『はやく帰って来い!それと夜の姫も連れて来い!』と言われました。事後処理は団長達に任せるとのことです。」


「あぁ、わかった。・・・陛下の件は後でな。」


 レンを見ると、シュウに半泣きで縋られていた。


「色々と手が離せなくてな、とりあえず戦いは終りだ。シュウ、私は国に戻り政変を起こす。父君には玉座を降りていただくことにした。今頃は、敗戦の知らせを受け、さぞお心を痛めておられるはず。今後は玉座を降りて、ゆっくりと養生していただくことにしようと思う。」


 レンの言葉にシュウが、ガバッと顔を上げた。


「では、殿下・・・、はい。はい、わかりました。私は仕事ができましたのでこれで失礼致します」


 そう言うと、シュウはすばやく天幕を後にした。


「シュウは有能だ。手回しはあいつに任せておけばいい。後は、いかにしてスムーズに父君を玉座から下ろせるかだな。・・・そういえば、ヨル?」


 突然話を振られたヨルは、レンと向き合った。


「なに?」


「魔法の話なんだが・・・、アレは、魔法の仕組みというか、構成自体を無視してなかったか?ヨルの魔法は、魔力の揺れ(放出)とほぼ同時に発動していた。あまりにも早かったから、ガードする時間がなくて、転移して避けてたんだが・・・。」


「あぁ・・・、うん。・・・その話は、レンが王様になってから教えてあげる。レンが時間を取ってくれたら、約束通りお茶をしましょう?そのときにね?」


 ヨルの魔法は、この世界にある魔法の法則を完全に無視していた。

 あの時ヨルは、3つの魔法を同時に発動させた。精神が複数あるわけではないのだから、普通はできない。

 普通、風と火を同時に出したいなら、どちらかの属性魔法を先に魔石に込めておく。

 さらに、形態を竜巻に変化させるなら、両方の属性魔法を魔石に込めておく。

 それを同時に発動させ、竜巻として発動させる。

 一般的な魔法使いは、魔石をブレスレットやネックレスなどに加工して持ち歩き、常にいくつかの魔法をストックしている。

 ヨルのように風と火を同時に出し、竜巻にして打ち出すなんて、普通の・・・いや、この世の魔法使いで、そんなことができる者がヨル以外にいるのだろうか?


 ヨルの力はあまりにも絶大だ。利用しようとする者が現れるかもしれない。

 そうなってからでは手遅れだ。今のうちに確固たる力を手に入れ、ヨルを護れる立場を作る。

 そう、ヨルを護る。レンには、それがまるで自分の使命のように感じられていた。

 これは恋や愛ではない。それよりももっと崇高なものに思えた。


「了解した。必ず王になってヨルと茶をする、約束だ。」


 2人は向かい合って、互いの手を握り合った。


「はい、必ず。」


 レンは、前をしっかりと見据え、天幕を出て行った。

 本当の困難な闘いはこれからなのだ。

 政変を起こし、レンが王として立っても、国内を正常化するまでには大変な時間がかかるだろう。

 しかし、困難を目の前にしていても、前を・・・、未来を見ているレンの力はゆるぎないものだ。

 きっとレンはやり遂げる。何故かそんな確信がヨルにはあった。

 レンとは必ずもう一度会う。そして一緒にお茶をするのだ。

 そんな予感に心躍らせながら、天幕を後にするレンの背中を見送った。



「さて、戦争は一応の終結を迎えたわけだけど、どうするんだグレン?」


「今の時点では、国境はガラ空き、エンエンもほったらかし状態だ。臨時でここから兵を編成するしかないだろうな。・・・シアン、頼んでもいいか?」


「了解。エンエンには俺の副官のジンを、国境守備には俺が行こう。」


「あぁ、よろしく頼む。俺はスイエンに戻り、陛下に報告する。ヨル?」


 自分の思考に集中していたヨルは、突然のグレンからの呼びかけに驚いたのか、思わずステラを下に落としてしまった。

 落とされたステラは、見た目子犬でも、さすがは魔獣である。それは見事に着地をしてみせた。

 数秒ヨルの顔をじとーっと見つめた後、小さく息を吐くと、そのままポテポテと歩いて天幕の隅に置いてあった椅子の上に乗り、お昼寝の続きを始めた。


「・・・・ご、ごめんステラ。」


 2人のやり取りを見て微笑んでいたグレンだが、これからヨルに伝える事に、良い返事がもらえるかは自分にかかっている為、やや緊張気味に話し始めた。


「ヨル、レン皇太子殿下とも話していたんだが・・・、この戦いでヨルはちょっとした有名人になってしまったんだ。一般人レベルじゃなくて、騎士や兵、たくさんの魔法使い達がヨルの戦いを目撃している。このまままた、前のようにフリーの魔法使いに戻るのは危険かもしれない。強い力は守りの力にもなるが、破壊の力にもなる。ヨルにその意思がなくても、悪いことに利用しようとする人間はいるんだ。だから・・・、だから俺と一緒にスイエンに来ないか?」


「・・・・・・・・・・え?」


 まさかのグレンの言葉に、ヨル自身驚きを隠せないでいた。

グレンとレンは、ヨルが来る前に、ヨルを護る為の話をしていたハズです!

いよいよ、白の陛下とのご対面がせまってきました。

次か、次々ぐらいから、王城編になります。

ここまで読んでくださってありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ



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