第14話 『以外 な 終り』
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キィ―――――――――――――ン
ヨルは魔法で出した闇色の剣で、金の魔法使いの剣を真正面から受け止めていた。
金の魔法使いは、自らの体をすばやく結界で包み、魔力を感知できないようにした。
そして、視界が塞がっているうちに徒歩で回り込み、ヨルの後ろから剣を振り下ろしたのだ。
条件反射。まさにソレだ。
魔法学校では、魔法使いの弱点を補う為に、剣と体術の授業がある。
魔法を構成し、魔力を練っている間はどうしても無防備になりがちだ。
4年間の基礎が終われば、剣か体術、好きな方を選択して3年間みっちりと魔法と共に学んでいく。
深く飲み込まれそうな闇と、目が眩むほどの金の出会い。
このとき初めて、『闇』と『金』が互いをはっきりと認識した。
互いに、わずかに目を見張ったが、そのまま大きく後に跳躍して距離を取った。
初めてヨルを目にして、美しい少女だったことに驚きつつも表情は変えないままだ。
「・・・初めましてというべきか?闇の魔法使い。まさか剣も使えるとはな」
「そうね。うちの魔法学校は剣の授業は必修だったのよ!」
金の魔法使いに向かってヨルは駆け出した。
剣と剣がぶつかり合う硬質な金属音が辺りに何度も響きわたる。
「くっ!おまえ!魔法使いの癖して剣も強いなんて卑怯じゃないか?」
「自分の事、棚に上げて何言ってんのさ!『イカズチ!』」
ヨルの剣がスパークした。そのまま相手に向かって剣を振り下ろす。
金の魔法使いも、負けじと剣に魔力を流し込みイカズチの剣を受け止める。
バチバチと辺りに凄まじい音が響き渡った。
再び互いに距離を取るが、ヨルは沢山の光球を作り出し、金の魔法使いに向かって叩きつけた。
金の魔法使いは転移して光球を避けたが、それを読んでいたヨルも同時に転移して、再び剣を振り下ろす。
なんとかそれを受け止めた金の魔法使いは、自らの周りに炎を噴出させ、ヨルから距離を取った。
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・
互いににらみ合ったまま対峙していると、ヨルの背後からステラが現れた。
金の魔法使いに向かって低く威嚇している。
ヨルに加勢するためにきたようだ。
「な、なんだソレは・・・、銀の魔獣?クソッ!俺はお前に殺された何千という兵達の仇を討たねばならない!こんなところで負けるわけにはいかないんだ」
突然現れた巨大な銀の魔獣に、金の魔法使いは己の不利を悟りうろたえた。
ただでさえ魔法は互角、剣も使える相手に、魔獣の相手もするとなれば1人では荷が重い。
こんなとき、危険だからと置いてきた、己の従者の顔が思い出される。
金の魔法使いの言葉にヨルは、わずかに目を見張ったが、表情を変えることはない。
相手をジッと見据え、静かに口を開いた。
「・・・殺したくて、殺したわけじゃない。護りたいものがあったから戦っただけ。兵士達もそうでしょ?護りたいから戦う。家族を、恋人を、友を。戦った結果がそうなっただけ」
「敵だから、心は痛まないのか?アレだけの殺戮を犯して、あの場を見て、お前は何にも感じないのか!?」
「先に攻撃をしかけたのはあなた達でしょ?自分達は良くて、私達は駄目なんてそんなのは子供のわがままよ!傷つける覚悟をして戦ってるの!たとえ人を傷つけても護りたいものがある!あがいて何が悪いの?国を守るなんて大儀これっぽっちもないけど、ただ自分の大切なものだけは護りたい!エゴだと言われてもいい、それが『私』だもの!それが私の『意思』なの!」
「ッ!!」
金の魔法使いは、苦しそうに俯き剣を握る手に力を込めた。
ヨルも間合いを取りながら、いつでも攻撃できるように集中する。
いつまでたっても俯いたまま顔を上げない金の魔法使いをヨルは黙って見据え続けた。
「・・・やめた。」
「・・・・・・・へ?」
思わず間抜けな声を出してしまった。
「私自身に、この戦闘に参加する意志はない。ただ命じられたから、戦闘に参加しているだけだ。」
金の魔法使いは、そう言うと剣を鞘に収めた。
「そういえば、名も名乗っていなかったな、私はホムラ国皇太子、金を纏う者、レン・フォルド・ホムラだ。レンと呼んでくれ」
「・・・・・・・や、闇を纏いし者、ヨル・セラス・セラヴィーンです。・・・って、え?皇太子?」
ヨルとステラは、戦っていた相手が皇太子だったことに驚き隠せないでいた。
「では、ヨル。私は戻る。どうせジラス将軍の指揮では蒼の騎士と紅の騎士には勝てない。
この戦闘が終わるのも時間の問題だ。戦闘さえ終われば、しばらく無国にちょっかいを出す余裕もなくなるだろう。ある意味この戦闘は我々が握っていたようなものだしな。」
あまりの展開に頭がついていけない。
「ちょ、ちょっとまって、え?なんで?意味わかんないんだけど。私達さっきまで殺し合いをしてませんでしたか?」
「なんだ?おまえは私を殺したいのか?」
「殺したくないよ!!誰であろうと殺したくなんてない!」
「私もだ。命じられるまま魔法を揮い、沢山の人を殺した。だが、殺したかったわけではない。お前に言われて気付いた。いや、気付けたというべきか。いつからか自分で考えることをやめて、命じられるまま動いていた。それが当たり前だと思っていた。」
レンは肩から力を抜き、大きく息を吐いた。
「・・・・・でも、あなたはお人形ではない・・・?」
ヨルの呟きに、レンは初めて微笑んだ。
「そう、これからは皇太子としてできることを『考える』。とりあえず、戦争を終わらせ、兵達を国に連れて帰る、だな」
どこかふっきれたようなレンの様子に、ヨルも剣を消して警戒を解いた。
「でも、ホムラ国の王は戦争を、この国を望んでいるのでしょう?また、戦いになるんじゃないの?」
「確かに、今回の戦いは父が望んだことだ。だがしばらくは国が荒れる予定だから、無国に手を出す余裕はなくなるな」
「え?荒れるって、何か起こるの?」
意味がわからないといった様子で、首を傾げるヨルにレンは苦笑した。
「いや、起こすんだ。」
「へ?」
また、間抜けな声を出してしまった。
「この敗戦を機に、父には玉座を降りていただく。たとえ力ずくでもな。私は戦いを望まない。それよりもやらなければいけないことが沢山ある。」
レンの『意思』のこもった強い瞳に嘘はない。
「そっか・・・、レンが王様になったら戦争は起こさない?」
「しない!金がもったいない。そんなことをするより国交を正常化して商売をしたほうが国が潤う。」
希望に満ちたレンの瞳はキラキラと輝きとても綺麗だ。
人と人が分かり合うことは、とても難しいようで、実はとても簡単なのかもしれない。
「では、戦闘を終わらせてくるか。」
「あっ!私も行く。あそこには大事な人がいるから。」
二人向かい合って、微笑みあった。さっきまで戦っていたのが嘘のようだ。
どこか懐かしいような金の瞳。
どこか畏怖さえしそうな闇の瞳。
「次に逢えたら、王様だね?」
「ああ、だが、次に逢ったらゆっくり茶を飲もう。魔法の話をしたい。」
「はい。その時はゆっくり語り合いましょう。」
チラリと戦場を見れば、やけに静かなのに気付いた。
どうやら、ジラス将軍を捕らえたようだ。
「ここからが俺の仕事だな。じゃあな。」
レンは王になる為の道の第一歩を踏み出すべく、戦場に向かって転移した。
残された、ヨルとステラの間に重~い空気が流れる。
重い空気にいたたまれなくなって、ヨルは先手必勝とばかりにステラに頭を下げた。
「・・・ステラ、ごめん。飛び出さないように我慢してくれてたでしょ?ホント心配かけてごめん、そしてありがとう」
「まったく・・・冷や冷やしたわよ。ふ~んだ、グレン言ってやろ~」
「っな!!!卑怯だよそんなの!!ってゆうか、いつからそんなにグレンと仲がよくなったのさ!?」
「知らな~い(笑)。でも無茶はしない約束だったでしょ?怒られるわよ~?」
「~~~~~~~!!!」
戦場に向かって歩きながら、ヨルはどうやってグレンに誤るか悩み続けていた。
ヨルは剣を使うときは、剣に集中してしまうので、魔法の発動は簡易呪文を唱えます!