第13話 『戦い の 始まり』
今は昔、忘れられた神々の時代
夜と闇を司る、運命の女神『エカトゥリュシカ』
昼と光を司る、導きの男神『サクトゥリュース』
闇は全てを飲み込む最強の『剣』
光は闇を切り裂く唯一無二の『剣』
『エカトゥリュシカ』は『金の盾』を従え 運命を紡ぎ
『サクトゥリュース』は『銀の盾』を従え 人々を導く
夜と昼 昼と夜 決して重なることはない
闇を照らすのは光 光を翳らすのは闇
表裏一体、2柱の神
今は昔の忘れられた神々の名
今も識る『人』は、もういない・・・
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空が、闇に支配され始めた頃、絶対防衛線に第一報が届いた。
「ホムラ軍確認!数17000!指揮官はジラス将軍!距離200で展開しました!」
馬上にいるグレンとシアンに緊張が走る。
最前線にいる2人は厳しい目で前方を見据えていた。
「17000か、数はほぼ互角。後は指揮官の質と魔法部隊の数で決まるか?」
「確かに魔法部隊の数では、向こうが有利だろうな。ヨルも金の魔法使いに集中するし・・・。しかし、あちらの将軍はジラスだ。とても名将とはいえない貴族のボンボンだし、勝機はあるさ」
グレンは後を振り返り、高台に控える魔法部隊を見つめた。
そこにヨルがいるはずだが、ここからは遠くて確認ができない。
護衛を付けると言ったが、かえって足手まといになると断られた。
ステラが護ってくれるからと言ってはいたが、やはり心配だ。
心配そうに高台を見つめるグレンに、シアンがやれやれと肩をすくめた。
「そんな心配するな。契約魔獣もいるのだろう?しかもあれ程の魔法使いなら、むしろ俺達より安全だ。さて、俺は戻るぞ。指揮官はお前だ!感情にまかせてミスるなよ?じゃあな、死ぬなよ!」
両軍、一触即発の緊張は、ホムラ軍の攻撃魔法で解き放たれた。
開戦の合図とばかりに、炎の矢が大量に降り注いでくる。
「開戦!開戦!各隊散開!陣を崩すな!」
最初の攻撃は、結界に当たって消滅した。
更に第二派、第三派と魔法が降り注げば、結界にも綻びが生じてしまうだろう。
やはり魔法部隊の数の差が戦局を左右しそうだ。
地上では兵達が入り乱れ、上空では魔法が飛び交う。
ヨルの事は心配だが、ステラという心強いボディーガードがいる。
グレンも今は戦いに集中するべく、敵陣に突入していった。
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後方支援の魔法部隊がいる高台も、開戦と同時にすぐに慌しくなった。
支援する為にいる彼らは、結界の維持や、負傷者の治療に奔走している。
戦いが始まってからも、少し離れた場所に立つヨルは動くことなく、ただ1つの気配に集中していた。
ステラには後方援護を頼んでいる為、少し離れた場所で待機してもらっていた。
あたりが濃い魔力に包まれていく。
多くの魔法使い達から洩れ出た魔力が、重なり合い、濃霧のように漂い広がっていく。
「来たっ!!」
一瞬肌が粟立ち、すぐに刺すような鋭く強い魔力を感じた。
上空を見上げると、人間大の火の玉がいくつも降り注いできている。
いくつかを氷の魔法で相殺し、近くにいる魔法使い達に被害がないように壁を作りガードした。
そのまま距離を取りながら、雷の矢をいくつも作り、魔力の発動付近に力まかせに叩き込んだ。
バリバリと遠くで音がしたが、刺すような魔力は全く衰えない。
(手ごたえを感じない。障壁で防がれた?なら・・・)
ヨルは竜巻を起こした。が、すぐに向こうから、大量のかまいたちが飛んできて相殺されてしまう。
当然予測はしていたので、魔力の痕跡を辿って、もう一度大量の雷の矢を叩き込んだ。
そのまま数メートル後に転移して、新たな魔法を展開しようとしたら、足元に金の魔法陣が転移してきた。
ヨルは金の魔法陣を一瞬で闇に塗り替え、魔力を上乗せして相手に還す。
辺りに爆音が響きわたるが、手ごたえはない。
((強い!!))
姿は見えなくても、互いの魔力を感じ取りながら、ギリギリで避け、攻撃をする。
魔法使いの戦いは、魔力の量と集中力が要になる。
長引けば、魔力切れや、集中力切れで隙ができやすい。
だが、金の魔法使いには全く隙がない。一瞬でも気を抜けばこちらが危ない。
何度も、発動、相殺、転移を続けていても、相手が衰える様子はなかった。
チラリと戦場を見れば、かなり陣形が崩れている。やはり数で劣る魔法部隊が押されているのだ。
(この人さえ押さえ込めれば、駆けつけられるのに!!)
ヨルは、周りの魔法使い達を巻き込まないように、高台の横に広がる平原の方に移動した。
突如、至近距離から光の矢が大量に転移してきたが、障壁で防いだ。
障壁を展開したまま、魔法で水蒸気を発生させ、視界を塞ぐ。
その隙に火と風の魔法をイメージする。
真正面に炎の竜巻が発生し、金の魔法使いに向かっていった。
(こんなので、どうにかなるわけじゃないけど、時間稼ぎにはなって頂戴よ!≪ステラ!≫)
ヨルは視界をステラに繋げて、金の魔法使いの場所を正確に確認し補足する。
闇の魔力を開放して、金の魔法使いの足元に転移させた。
(捕らえた!?)
≪まだよ!ヨル!≫
捕らえたと思ったが、ギリギリで逃れられた。
そのまま発動したヨルの魔法が爆発し、戦場に激しい爆音が響きわたる。
ヨルは、爆風を障壁で防ぎながら、金の魔法使いの気配を探っていた。
(アレ??さっきまであんなに魔力を感じてたのに・・・どこに?)
さっきまで常に感じていた巨大なプレッシャーが急になくなったのだ。
爆発の影響で砂埃が舞い、視界が異常に悪い。
辺りに気を配りながら、神経を集中させていた時、ステラの悲鳴が頭に響いた。
≪ヨル!!!≫
ヨルの耳に、何かが空を切る音が届く。
振り返ったヨルの瞳には、剣を振り下ろす金の魔法使いが写っていた。
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「動きが遅い!右翼の魔法部隊が押されて陣形が崩れてるぞ!増援を送れ!」
グレンは、正面から来るホムラ軍の兵士を一刀のもとに両断すると、押されている右翼へ指示を出し、自らも右翼へ向かった。
「結界最大!押し返せ!」
結界石と結界の相乗効果で、中級魔法使いレベルの攻撃魔法では致命傷にはならない。
ヨルが結界石の強化をしてくれたおかげで、戦場でかなり楽に動ける。
ホムラ国の魔法部隊を、グレンは力技で押し返す。
「小さな魔法は気にするな!目の前の敵に集中しろ!押し込め!!」
兵と魔法使い達に指示を出していたグレンの耳に、後方からの激しい爆音が届く。
少し遅れて爆風が戦場を駆け抜けた。
(ヨル??)
ヨルがいるはずの高台の方を見ても、そこにヨルがいるか確認はできない。
先ほどの爆発は火薬ではなく魔法で起きたものだ。
だとしたら、あれほどの威力の攻撃をしなければいけない魔法使い同士が戦っていることになる。
ヨルは金の魔法使いと戦っている、そう確信した。
煙が上がっている場所は高台より、戦場に近い平原だ。
他の魔法使い達を巻き込まない為に移動しながら戦っていたとしても不思議ではない。
(大丈夫だ・・・ステラもいる)
次々と襲ってくる、ホムラ軍の兵を切り伏せながら、グレンはただ祈ることしかできなかった。