第12話 『新た な 決意』
ヨルが眠りについて半時ほどでステラが戻ってきた。
かなり急いで戻ってきたらしく、珍しく息が上がっていた。
「ヨルは眠ったの?心が不安定だったから少し心配だったんだけど・・・」
穏やかに眠っているヨルの顔を覗き込みながらステラはヨルに寄り添う。
「当然だよな。人を殺すということはとても辛く苦しいことだ。ヨルはそれを知っているから、悲しむ。そして、守る為にはまた命を奪わなければいけないから、苦しむ。」
「だったら、守ってあげて。その悲しみからも、苦しみからも。なんでも1人で頑張ろうとしてしまうから、心配だわ。でも、やっと私以外の人に甘えられるようになってきた。正しく導いてあげて。決して闇は不吉ではないと、闇は等しく誰にでも訪れる優しいものだと」
まるで母のように、ヨルを包み込み守るステラ。
「ステラにとって、ヨルは娘のようなものか?」
「いいえ、全てよ。魂まで繋がっているんだもの。・・・知ってた?人間はもう忘れたかもしれないけど、運命の女神の纏う色は『夜』なのよ?」
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ヨルの活躍から半日が過ぎた頃、国境のシアン率いる軍が最終防衛線・・・今後は絶対防衛線となる場所で合流した。
シアンの軍は、足止めと、時間稼ぎを充分果たしてくれた。
にもかかわらず、半数以上の兵が無事に合流できたのはヨルのおかげだ。
「グレン!助かったよ、君の魔法使いがいなければ、もたなかっただろう。それほどホムラ軍の勢いは凄まじかった」
シアンとグレンは、互いの無事を確かめ合うかのように、がっちりと握手を交わした。
「いや、シアンの指揮とタイミングが絶妙だったと、ヨルが言っていたよ。早くもなく、遅くもなく、完璧なタイミングだったと」
「ハハハ、お褒めに預かり光栄だ。それで、その魔法使いの姫はどこに?直接会ってお礼を述べたいのだが?」
「ああ、今は結界の最終調整で、見回りに行っているから、もう少ししたら戻って・・・と、言ってたら帰ってきたようだ」
グレンがシアンの後を見ながら笑顔で手を振った。
シアンがそれに気付き、振り返ると、目の前に絶世の美少女が佇んでいた。
「・・・・・・・!!!!」
思わず、グレンを引っ張りヨルと距離を置くと、シアンはグレンに聞いた。
「アレはなんだ?人か?お前そんなに面食いだったか?にしてもアレはないだろう・・・人外だよ、綺麗すぎるだろ、通信の時は映像が悪くてしっかり見れなかったが・・・」
「あぁ、もう煩いな。ヨルはれっきとした人間だ。普通の人間より少し可愛いだけだよ」
平然と惚気る同僚にシアンは諦めとも言えるため息を吐いた。
「お前、アレはやばいぞ。よしんば、この戦争が終わって無事に国に帰っても大変な事になる。陛下が放っておくわけはないぞ?間違いなく会わせろと言うし、下手したら手元に置こうとするかもしれない」
ムッとした表情になったグレンは、手持ち無沙汰に立ち尽くしているヨルを見つめた。
グレンと目が合うと、ヨルはニッコリ笑う。うん、可愛い。
「じゃなくて、わかっている。そんなことは真っ先に頭をよぎったさ。だが、今は緊急事態だ。そんなことを言ってられんし、こんな事を言い合っている場合でもないと思うぞ?」
グレンは立ち尽くしているヨルに手招きをした。
嬉しそうに駆け寄ってくる姿がたまらなく可愛い。
じゃなくて、シアンに紹介するべくヨルを自分の隣に立たせる。
「ヨル、紹介するよ、国境の軍を率いていたシアンだ。」
「改めて、初めまして。魔法使いの姫。私は蒼を纏いしもの、シアン・ソール・シランドと申します。以後お見知りおきを。そして、このたびはご協力に感謝いたします。」
若干緊張してた為か、ヨルは無意識にグレンの服の袖口を強く握っていた。
それに気付いたグレンがヨルを見て微笑んだ。
「初めまして、闇を纏いし者、ヨル・セラス・セラヴィーンです。お力になれてよかったです」
シアンの、騎士のわりに優しげな風貌と雰囲気が、ヨルの緊張を溶かしてくれたようだ。
ふんわりと微笑みながら、シアンに自己紹介をした。
「本当にありがとう。君のおかげで沢山の兵が生きてここにいる。だから、戦いの悲しみは君1人で背負い込まないように!戦争は1人でするものじゃないんだからね。力は使う人間の心で大きく変わってしまう、だから優しい心で使ってあげて」
シアンの暖かい言葉に心打たれたヨルは、ちょっぴり泣いてしまった。
上を向いてグレンの顔を見ると、複雑そうな顔をして笑っている。
こうしていると、もうすぐここが戦場になるなんて嘘のようだ。
暖かい人たちに囲まれて、より一層守りたいという思いが強くなった。
「グレン達はみんな優しいね。優しすぎるよ。優しい人達を守れるように私も頑張るね」
**************
―――――――ホムラ国軍 本陣
実際、焦っていたのは事実だ。
魔法で手っ取り早く終わらせて、さっさと国に帰りたかった。
無国とか領土とか、本当はどうでもいい。
ただ、自分は皇太子だから、人の上に立つ為に生まれたから、そんなことは言えなかった。
それが、ホムラ国皇太子レン・フォルド・ホムラだ。
「ホムラ様、ご無事でなによりです。」
(思ってもいないことをよく言う)
本陣を率いてきた、将軍のジラスはいやらしい笑みを隠すことなく、レンを正面から見据えていた。
先陣がほぼ壊滅し、わずかに残った兵達とレンが、本陣と合流したのはあれから半日ほどたった頃だった。
「相手に、あれ程の魔法使いがいるとは誤算でしたな。あなたの唯一の取柄である魔法も今回ばかりは役に立たなかったと聞きますが?」
要は、魔法しか役に立たないのにと言っているのだろう。
「そうですね、今回は後手に回りましたが、今後あの魔法使いを牽制できるのは私ぐらいでしょう?体調を整え、次の戦闘に備えます。では、これで失礼します、ジラス将軍」
どんなにレンが邪魔でも、魔法使いには、魔法使いでしか止められない。
ジラス将軍がどんなにレンを邪魔に思っても、これは変えられないのだ。
ジラス将軍が苛立ちで怒鳴りだす前に、レンはさっさと退散した。
疲れた体は今にも悲鳴を上げそうで、早めに休息を取らなければ次の戦闘に差し支えるだろう。
あの魔法使いに対する、対抗手段も考えなければいけない。
自らに与えられた天幕に向かう途中で、従者のシュウが跪いていた。
「殿下・・・。先ほどは申し訳ありませんでした。」
シュウはレンの足元に跪き、顔を上げないままレンに対する非礼を詫びた。
「何のことだ?おまえは従者としての仕事をしたに過ぎない。気にするな。もう顔をあげろ、おまえまで変わってしまえば私はどうすればいい?お前はそのままでいろ」
レンの滅多にない暖かな言葉に、シュウは立ち上がり、深く深く頭を下げた。
「シュウ、次は正面から戦う戦闘だ。相手も見えるはず。私は、闇の魔法使いに集中する。お前は私を守れ」
殿下が、自らを信頼し、背中を預けると言ってくれている。
「はい!我が命にかけまして、お護りいたします」
「お前が死んだら、私も危なくなるのだ、だから死ぬな。生きて私の側にいろ」
言うだけ言って歩いて行くレンの背中に向かって、シュウは再び深く深く頭を下げ続けた。
10月に入ってから、体調を崩し更新が今日までできませんでした。風邪をこじらせると怖いと思い知らされた、今日この頃です。
とりあえず、1話~10話まで、何箇所か手直しさせていただきました。
体調はよくなりましたが、仕事に復帰する為、またまた亀になりますが、よろしくお願いします。