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深遠の闇に愛されし夜の魔女  作者: 要 希沙良
第一部 運命の出会い
12/20

第11話 『戦い の 恐怖』

 

 

 ――――――無国最終防衛線 (あか)の騎士団陣営 指令本部天幕

 

「グレン団長!兵の布陣完了しました。それと、たった今ヒスイ団長から連絡がきました。国王陛下が、国民に現状を伝えたそうです。それほど大きい混乱はなく、戦えない者達の避難が始まったそうです」

 

 ミズトの報告を受け大きく頷いたグレンは、天幕に集まっている隊長達を見渡して口を開いた。

 

「皆も知っている通り、すでにホムラ国の攻撃で多くの犠牲者が出ている。誰もが非常に困難な闘いになることがわかっていたはずだ。だが、どうやら我々は奇跡的なタイミングで最強の魔法使いと出会えた。作戦の為とはいえ、今1人で戦場に立つあの()の為にも、我々はここを死守しなければならない!」

 

「「「「「「はいっ!」」」」」」

 

 

 

 報告会議が終り、それぞれの隊長達が出て行き、本部天幕にはグレンとミズトの2人だけになった。

 どちらともなく沈黙がつづいたが、ミズトが先に口を開いた。

 

「わかっていますよ、団長。本当は、1人にさせたくなかったのでしょう?」

 

 ミズトの言葉にグレンは大きく息を吐くと、天幕の中央に置かれている机に寄りかかり視線を下に落とした。

 

「ヨルは・・・ヨルの力は国の戦力になる。理解はしているはずなんだがな・・・。やはり心配にはなるさ。まだ18歳の女の子に、人を殺せと言っているんだ。」

 

「ヨルさんは、すべてわかっていて立ち向かっているんです。前に進むことを選んだのはヨルさんです。団長は、ヨルさんの背負う物を共に背負ってあげればいいじゃないですか」

 

 ミズトの言葉に視線を上げたグレンは、少し呆れた顔で笑っていた。

 

「ハハハ、おまえ、俺の母親みたいだな(笑)いや、さすがは『調和のミズト』か。」

 

 ミズトの言葉は素直に心に届く、優しい言葉だ。

 

「やめてくださいよ。こんなに手のかかる子供はいりません。」

 

 ミズトは、言葉とは裏腹に穏やかな表情で微笑んでいた。

 

 

 **********

 

 

 ジワジワと戦場を後退させられていくシアン達を、ステラの瞳を通して見ていたヨルは、視界の端にキラリと光る何かに気付いた。

 ヨルの意思を感じたステラは、視線をその光るものに集中させた。

 

 魔法で巻き上げられた土や水、焼け焦げた人や馬、敵味方が入り乱れる中に異質に見えるもの。

 よく目を凝らして見ていると、光るものが人の髪だと気付いた。

 

 (髪?・・・黄色?・・ッ!!違う!金色だ!金の髪!)

 

 戦場の只中にあるにもかかわらず、その人の髪は美しく輝いていた。

 間違いない、見た瞬間にわかる。違いは歴然だ。

 

 (あれが、『金の魔法使い』だ。でも、魔法を使わずに剣で戦っている・・・。やっぱり私の事警戒しているのかな?)

 

 あれほどの魔力を持っていて、人とは違う『特別』な『色』を持つ人。

 なのに剣で戦う様も一際鮮やかで、金の髪が舞う姿は、見とれる程だ。

 

 よく見ると纏っている鎧が他の騎士や兵士と違うようだ。

 

 (やっぱり幹部クラスの人?)

 

 金の魔法使いの魔力を探ってみても、魔法を使う気配がない。

 戦っている場所も、決して前に出すぎず後方をキープしている。

 常に周りに目を配り、渡河する為に最前線で戦っている兵達に細かい指示を次々と出しているようだ。

 

 ステラは視線を川に移動させると、川にはかなりの数のホムラ軍が渡河の為に押し寄せていた。

 自軍の優勢をみじんも疑ってはいない。

 そろそろ合図がくると、ステラもヨルも身構えた。

 まさにその瞬間、合図にと決めていた、蒼の閃光弾が大きな破裂音と共に空に上がった。

 

 ≪ヨルッ!!≫

 

 それは一瞬だった。

 

 閃光弾に気付いた無国の兵達は、一気に退却する。

 敵の異変にすぐさま気付いたレンが、兵達に退却指示を出した瞬間に、バチバチと凄まじい音と共に川が爆発した。

 

 ソレを目にした者は、まるで天から神の(いかずち)が落ちたようだったと言った。

 

 煙が晴れ視界が回復すると、ホムラ兵は愕然とした。

 河が闇に染まっている。

 いや違う。かつて人だった物が河に浮かんでいるのだ。それも何千と・・・。

 かろうじて人とわかる形を残してはいるが、ほとんどが炭のようになっている。

 

 言葉もなく、河を見つめていたホムラ兵達は、闇に染まった河の中のあちこちで動くものを見つけた。

 逃げ遅れた無国の兵だ。

 無傷とはいかなかったものの、持たせていた結界石がうまく作用し、無事だったようだ。

 

 辺りを見渡したレンは、目を見開いたままワナワナと体を震わせていた。

 

「・・・なんだこれは?なんなんだこれは?私の兵達がッ・・・!」

 

 主君を守る為に共に戦っていた従者のシュウは、すばやく状況を判断すると、レンに退却を促す。

 

「殿下!ここは一時退却を!本陣と合流しましょう!」

 

 シュウの言葉にレンは、カッ!と目を見開き、シュウを睨みつけた。

 

「こんな!こんな状態で逃げろと?私が、一方的にやられて逃げるというのか!!」

 

「そうです!このまま戦っても戦力に差がありすぎますます!それに、再び同じ規模の魔法攻撃を受ければ全滅してしまいます!」

 

「魔法・・・そうだ魔法だ!なぜ気付かなかった?あれ程大きな力に。なぜだ!?」  

 

 混乱し、理性を失った主君の瞳を真正面から見つめ、シュウは声を荒げた。

 

「殿下!レン殿下!しっかりしてください!あなたはホムラ国皇太子レン・フォルド・ホムラなんですよ?お心強くお持ち下さい!あなたが今すべきことはなんですか?」

 

 シュウの言葉にハッとしたレンは、ゆっくりとシュウに視線を合わせた。

 シュウは主君の瞳に理性が戻った事を確認すると、地面に膝を付き頭を下げた。

 

「殿下、緊急時とはいえご無礼を・・・罰は受けます。ですが、今は状況の把握と軍の立てなおしをお急ぎ下さい。」

 

 再び辺りを見渡したレンは、瞳をギュっと閉じて唇をかみ締める。

 そして、目を開いたレンは兵達に撤退する命を下した。

 

「一時撤退する!本陣と合流し体制を立て直す!」

 

 シュウは、レンが握り締めている拳から血が滴り落ちていることに気付いたが、何も言えず、だだ滴る血が地面に吸収されていくのを見つめることしか出来なかった。

 

「シュウ、頭を上げろ。お前のおかげで冷静になれた。」

 

 レンは前を向いたまま、従者に自分の言える最大限の礼を言った。

 

 

 

 ************

 

 

 

 一部始終を見ていたステラ。そして、自分の行った行為を目を逸らさずに見ていたヨル。

 念の為にと2段階で魔法を準備していたが、最初の攻撃で片が付いてしまった。

 

 ≪ヨル?≫

 

 ステラがヨルを心配して、心で喋りかけたが返事がない。

 まだヨルと繋がっているはずなのに、とても不安定な感じだ。

 ステラは急に不安になり、ヨルに何度も呼びかけた。

 

 ≪ヨル?ヨル!!≫

 

 何度呼びかけてもヨルから伝わってくるのは、不安と恐怖、そして混乱。

 

 ≪ヨル?作戦はうまくいったのよ?ヨルは沢山の命を奪ったかもしれないけど、それ以上に沢山の命を救ったわ。胸を張れとは言えないけど、戦争は1人で背負うものではないわ。私やグレン、共に戦ったみんなで背負うものなのよ?大丈夫よ?≫

 

 幼子に話しかけるように優しく話す。ステラは辛抱強く何度も大丈夫と繰り返していた。

 しばらくすると、小さくヨルの返事が聞こえた。

 

 ≪ぅん・・・≫

 

 返事が来たことに安心したステラは、すぐに戻るからヨルは転移でグレンのとこに戻っていなさいと伝え接続を切った。

 

 (初めての戦争であまりにも身近に感じる生と死が、ヨルに恐怖をもたらしたのね。何も感じないよりずっといいわ。戦いは悲しいと知っている方がずっといい・・・)

 

 ステラは、早くヨルのもとへ戻る為に真っ直ぐに駆けていった。

 

 

 **********

 

 

 作戦成功の一報は、すぐにグレンたちのいる防衛線に届けられた。

 敵が退却したことに一先ず胸を撫で下ろしたが、まだ本体がくるのだ。のんびりはしていられない。

 だが、もうすぐ一番の功労者であるヨルが戻ってくるはず。

 まずはゆっくり休ませよう。

 

 そんなことをグレンが考えていると、小さな泣き声が聞こえた気がした。

 気のせいかと思ったが、再び聞こえてくる。今度は小さな声で自分を呼ぶ声。

 

 ≪・・ヒ・・・ック、フ・・・グ、レン・・・≫

 

「ヨル?」

 

 思わず、声を出して呼んでみた。

 すると突然目の前にヨルが現れ、グレンの背中に手を回し、ギュウっと抱きついた。

 ヨルの突然の行動にグレンは驚きつつも、そっと頭に手を置き優しく撫でる。

 

「どうした?今日はありがとう。ヨルのおかげで沢山の仲間が助かった。」

 

 グレンの言葉にヨルはゆっくりと顔をあげた。

 ヨルの身長は平均より高めだが、グレンは更に高く、ヨルが見上げる姿勢になることは仕方なかった。

 涙で潤んだヨルの瞳が、グレンの燃えるような紅の瞳とぶつかる。

 

 そう、まだ18歳なのだ。自分達を守る為とはいえ、沢山の人間の命を奪ってしまったのだ。

 耐えられるわけがなかった。

 それに気付いたグレンは、ヨルの背中に手を回し、優しくヨルを抱きしめた。

 

「ヨル、ヨルは俺を人殺しと思うか?」

 

 腕の中で、ヨルが小さく首を振った。

 

「でも俺は、国を守る為に沢山の人を斬ってきたし、これからも斬るだろう。これからは、ヨルを守る為に人を殺すかもしれない。そんな俺を人殺しと罵るか?」

 

 今度は大きく首を振る。

 

「ありがとう。俺もヨルのこと人殺しなんて思わない。みんなを守ってくれてありがとう。ヨルの背負うものは俺も一緒に背負うから、そんなに泣かないでくれ」

 

 ヨルはグレンのぬくもりに包まれながら、だんだんと落ち着いていった。

 

 (強くならなくっちゃ。みんなをまもる為に、グレンを守る為にも・・・)

 

 暖かなグレンの腕の中は、とても安心できるようで、ヨルの意識は少しずつ闇に溶けていった。

 

 突然グレンの背中に回していたヨルの腕が緩んで、膝から力が抜けた。

 ガクンと体が傾ぎそうになり、グレンは慌ててヨルを抱き直した。

 

「ヨル?」

 

 そっと顔を覗きこむと、涙に濡れた顔で穏やかに眠っている。

 

「おやすみ、ヨル」

 

 せめて今だけは穏やかに・・・。

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