第9話 『グレン と ヨル 時々 ステラ』
なんでこの人は・・・、グレンはいつもヨルの欲しい言葉をくれるんだろう。
(やばい・・・涙出そう・・・)
守ってくれる、必要としてくれる。
『私』を必要としてくれる。
「・・・はい。これからよろしくお願いしま・・・・『ボソッ「敬語」』//////、うん。これから、よろしく。/////(照)」
真っ赤になって俯いてしまったヨルをグレンは愛しげに見つめる。
(真っ赤になって可愛いな・・・)
照れが治まったのか、顔を上げたヨルは、今の状況の説明をグレンに求めた。
「あの巨大な金色の転移魔方陣が消えた後、どうなりま・・・どうなった?何か変化はあった?/////」
まだ、照れはあるものの、なんとか普通に喋る。
「いや、現状はヨル・・・君のおかげで被害はない。城も国境も被害なしだ。ただ、今後あれ程の力が転移してきた場合、私達に防げるかはわからんな・・・」
「あっ!それなら大丈夫!」
ニッコリと自信満々に言うヨル。
「魔方陣を還すとき、相手の意思を少し感じたの。相手は1人だよ。しかも、あれだけ巨大な力を還されたんだから、今は起き上がることも出来ないんじゃないかな?」
グレンはわずかに目を見開いた。
「相手が1人とかわかるのか?」
「はい、あ、うん。あの魔方陣を還すときに少し探ってみたんだけど、あれには1人の意志しか感じられなかった。凄い人だよ?あの巨大な魔方陣を維持して転移させるなんてマスターランクどころじゃないよ。きっと、あの人も運命に選ばれた人なんだ・・・」
あの時、確かに感じた向こう側の・・・『金の意志』。
消滅させるよりも、少しでも向こう側を探る為に、あえて塗り替えて還した。
慎重に魔方陣を侵食しながら、向こう側に意識を集中して相手を伺う。
見えてきたのは目が眩むほどの『黄金』。
「次に攻撃してくるとしても、あれだけ強い魔力なら、発動前に私が気付きます。かならず、発動前に阻止します。」
強い決意を瞳に宿し、グレンをじっと見つめるヨル。
「あぁ、よろしく頼む。いずれ、ここは前線になる。戦いが始まったら必ず私の側か、ミズトの側にいてくれ。」
グレンはヨルの瞳を見返しながら、これでよかったのかと急に不安になった。
本当は、こんな戦いの場に置いておきたくない。安全な場所で大事に守りたい。
だが、ヨルほど強い魔法使いはここにはいない。
あの、金の魔方陣に対抗できるのは、現状ヨルのみだ。
グレンの葛藤にヨルは気付かない。
「はいッ!!任せて下さい!」
「ヨル、敬語。」
「あっ・・・(汗)」
*************
今後の予定を話し合ううちに夜も更けてきた。
そんな時、グレンを呼びにミズトが天幕にやってきた。
グレンの寝床をステラと共に占拠していたヨルは、あわてて魔法使い達に割り当てられているはずの天幕に移動する旨を伝えると、2人から即却下された。
今のヨルは誰に狙われるかわからないので、今日はこのままここで休めと言われた。
紅の騎士団長グレンの天幕に、おいそれと忍び込む輩もいないだろうということだ。
しかし、それではグレンが休む場所は?とヨルが問えば、グレンも護衛としてここで寝ると言う。
グレンの言葉に一瞬ステラが目を覚まし、グレンをジッと見つめたが、何を言うでもなく再び眠ってしまった。
結局、ステラの許可(?)を得て、ここにいる間はグレンの天幕で寝泊りすることになってしまった。
グレンが打ち合わせの為にミズトと共に天幕から出て行くと、ステラが目を覚ました。
いや、目を開けたと言うべきか・・・
「!!今頃、目を覚ましてっ!!どうせずっと起きて聞いていたんでしょ!?」
ヨルの拗ねた物言いに、ステラは実にいやらしい顔で笑った。
「だって、2人の邪魔しちゃ悪いじゃない?それにヨルだって、グレンのこと気になっていたみたいだし、いいじゃない。人の世界では人の味方もいたほうがいいわ。外の世界はヨルを利用しよとする馬鹿がたっ~~~くさんいるのよ?そんなとこで、おのぼりさんのごとくウロウロチョロチョロしてたら、あっという間に攫われて、戦争に利用されて使えなくなったらポイよ?」
ヨルの為だったと言われれば、何も言い返すことはできない。
「でも、今日会ったばかりなのに、なんでこんなに気になるんだろ・・・それに胸がドキドキするの」
「時間じゃないのよ。心が反応したなら、それは運命が導いているのかもしれない。2人は出会うべくして出会ったのかもね。グレンのことが気になるなら、知る努力をしなさい?ヨルはこっち関係は経験が足りなさ過ぎるんだから」
(知る努力か・・・グレンさん・・・グ、グレンの・・・あぁ!駄目だ、なんか照れる////名前呼ぶだけで恥ずかしい気がするのは何でだろう?)
ヨルが脳内で勝手に照れていると、外から喋り声が聞こえてきた。
どうやらグレンが帰ってきたらしい。
寝所の仕切り布の前でグレンがヨルに声をかけた。
「ヨル?まだ起きているなら、少しいいか?」
まだドキドキは治まらないが、あまり待たせてはと思い、すぐに大丈夫だと伝えた。
そっとヨルの側まできたグレンは、ヨルの横にチョコンとお座りしてこちらを見ているステラに気付いた。
「ステラと話していたのか?」
「はいじゃなくて、うん。ステラはスッゴイ人見知りなのに、グ、グレン/////、と話しをしたって聞いたから、私ビックリしました。じゃなくて、ビックリした。」
頬を赤く染めながら、一生懸命普通に喋ろうとしているヨルを見てグレンは固まった。
(なんだこの可愛い生き物は!我慢しろ俺!ステラもいる!)
脳内で葛藤しているグレンは、表面上は穏やかにヨルの話しを聞いていたが、しばらく毎日一緒にいるのに大丈夫か俺?と自問を続けていた。
「と、とりあえず今日はもう寝ること!夜に戦争は起こらないなんていう常識はないから、休めるうちに休んでおくこと!私は隣にいるから何かあれば呼んでくれ」
「うん。明日はいつ頃起きる?」
首を傾げながら聞いてくるヨルに、グレンは更なる精神ダメージを負った!!(笑)
「・・・起きる時間に外で鐘が鳴るからすぐに気付くよ。その後は起きた後で説明しよう。おやすみヨル」
「おやすみなさい、グレン」
寝所から出て行くグレンに微笑みながら挨拶を返した。
すぐには眠れないと思っていたが、寝床に潜り込むと一気に眠りに引き込まれていく。
「きっと朝早いんだろうね・・・ステラ、おやすみ・・・」
「おやすみ、ヨル」
ヨルが眠ったことを確認したステラは、子犬の姿から本来の姿に戻り、ヨルを守るように自分の体で包み込んだ。
「何があっても私はヨルの味方だから・・・思うように生きてね。」
ステラはヨルと揃いの瞳に深い慈愛を滲ませながら、今度こそ眠りについた。
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グレンは大きな精神ダメージを受けた結果、同じ天幕にいるヨルのことが気になりすぎて、ほとんど眠れなかったとか・・・。