固有属性の魔法使い〜世界に一人の星属性に目覚めた辺境の原石が王都の学園に入学するまで〜
ちょっと変わった
「王国の学園への推薦状?」
「あぁ、ワシの古い友人がその学園の学園長をしていてな。お前のことを話したらぜひ来てほしいと」
「それはいつ?」
「二ヶ月後だ」
ここは学園長室。目の前には机越しに座っている白髪、白い髭を生やしている学園長。そして、俺を取り囲むように並んでいる教師たち。
そんな中、俺は学園長が渡してきた推薦状を机に思いっきり叩き付けた。
俺の行動に周りにいる教職員は慌てていたが、学園長だけは動じていない。
「冗談じゃねぇ。俺はこの学園であいつらと約束したんだ!絶対に『親闘戦』を勝ち進んで、ジェネシネータの奴らと戦うって」
俺はそう言いつけて、身体強化の魔法で止めようとする教師たちを上回るほどの身体強化でなぎ倒し、ドンッ!と大きな音がするほど勢いよく扉を閉めて、学園長室から出た。
「…お前のその力を世界は見過ごせないんだ。私が夢見たその力は」
去り際に発した学園長の言葉は、今の俺の耳には入ってこなかった。
教室で皆と話している時に急遽呼ばれて来てみれば、こんな話だ。俺は帰りの廊下で拳を強く握りしめた。
ジェネシエータとは、俺宛てに推薦状を書いた王都の学園の名前だ。
ジェネシエータ高等魔法学園。
古くからの歴史を持ち、後の世に数多の名を残す生徒を輩出した世界有数の名門校。
そして、ジェネシエータ高等魔法学園がある、こちらも古くからの歴史を持ち、その影響力は全国家にも及ぶと言われている大国クロリアリティ王国。
クロリアリティ王国の周辺の村や町の子供の憧れは、ジェネシエータ学園の生徒たちだろう。もちろん、この村の俺の友達も皆、ジェネシエータ高等魔法学園とその生徒に憧れを持っている。
だから・・・
「お!ジェネシエータの生徒のご帰還だ!」
「よっ!俺たちの憧れのジェネシエータ様!」
教室に戻ってくるなり、皆は俺のことをそう呼ぶ。
俺の村は周辺に比べれば大きな村だが、同級生と呼べる人は十人も居ない。だから、学園では村の子供たち全員で授業を受ける。
俺より年下の生徒はもちろん、年上の生徒も俺に敬語だったり、様を付けてそう言う。
「からかうなよ。それに、俺はここを離れるつもりはない」
自分の席に着き、俺がそう言うと、教室中の生徒が大きな声を出して、目を丸くした。
「な、なんでだよ!?ジェネシエータだぞ?」
「それが何ですか?ジェネシエータなんてただの金持ちの学校ですよ?」
「ジェネシエータに入学するだけでも将来はそれなりに安泰って聞くけど?」
「この村でも将来は安泰だ。わざわざ行く必要がない」
「モテるぞ!」
「いらん。そんなことを考えているのはお前だけだ」
それからも一人一人の質問に答えていき、そろそろ面倒くさくなってきたので、俺の全身を囲むように消音結界と物理結界を二重に張った。
そして、昼休みが終わり、午後の授業が始まった。
『やはり、君は原石だ』
窓の外にはカラスが飛んでいた。
・・・・・・
・・・・・・
午後の授業も終わり、家へ帰る。
そこで俺は学園長に言われたことを考える。
この村に生まれて十二年。外の世界どころか、外に出ることすら考えたことがなかった。
今思い返すと、昔は楽しかった。勝負事は勝ったり負けたりと、勝敗に『絶対』はなかった。
だが、いつからだろうか。自分の魔法の才能が人より飛びぬけていると分かった。すると、急に爺ちゃんが厳しくなった。これまでのびのびと剣や魔法を練習させてくれていたけど、魔法のみの練習になった。
それからは、生徒との一対一、何十対一、先生を入れた勝負でも絶対に勝てるようになった。
・・・魔法が楽しくなくなった。
それは、この村に自分より強い人が居ないからだろうか。もし、居たらまた魔法が楽しくなるだろうか?
そんな疑問を抱いたまま家へ帰ると、食事をするテーブルの上に学園長室で見た同じような封筒が置いてあった。
俺は爺ちゃんの仕業と分かっていたが、その封筒を手に取り、中に入っている一枚の紙を見た。
『固有属性「オリジン」』
一枚の紙にはこの四文字だけが大きく書かれていた。
・・・・・・
・・・・・・
「もうすぐ『親闘戦』だな。まぁ、うちにはカルミアが居るんだし、それなりには戦えるだろうな」
「あぁ、でも聞いたか?カルミア、戦わないって噂だぞ」
「はぁ?そんなわけないだろ。あいつが一番楽しみにしてたんだぞ『親闘戦』」
「そうだよな。所詮、噂は噂だよな」
あれから二ヶ月。
親闘戦とは年に一回、クロリアリティ王国の魔法訓練場にて行われ、クロリアリティ周辺の村や町にある学校や学園で行われるトーナメント戦。そのトーナメントの勝者にはジェネシエータ高等魔法学園のトップの実力者と戦える権利を与えられる。
本当にジェネシエータの奴らは何様なんだと言いたくなる。だが、皆はそのために頑張る。俺は・・・・・・
『次に戦う人たちは準備してください』
アナウンスで女性がそう言うと、俺たちクラディア学園は準備に入る。
準備は革装備を着たり、ストレッチなど。
元々準備室に居たので移動する必要はない。
約五分の準備時間が過ぎ、アナウンスが鳴る。
『それでは両校、出場』
アナウンスに合わせて、何故か俺を先頭に出場する。特に列など気にしなくていいが、何故かここだけは拘るらしい。
俺たちの相手は去年のトーナメントで決勝戦まで進んだ強い所。それに対して俺たちは予選敗退。
端から見たらワンサイドゲームになると思うのが当然である。
出場して、お互い好きな位置に行き、試合開始の合図を待つ。
『両校、準備はできたようだな。では、試合、開始!!』
開始早々、敵に突っ込む者も居れば、魔法を放つ者が居る。
その中で俺だけが、何もせずに突っ立ていた。
・・・・・・
・・・・・・
俺たちの試合には、疑問にも似た空気が流れていた。
崩れている壁や床。これは試合中に起こったものだが、そのほとんどが俺を倒すためのものばかり。
昨年の決勝進出校が予選敗退校のたった一人の生徒にここまで苦戦しているのだ。
ただ、敵は流石は決勝に進出した学校というべきか、相手はほとんどが無傷でこちらは誰一人として満足に動ける者はいない。
しかし、ただ一人――
俺だけが、その場に立っていた。
「カルミア……」
倒れている仲間から、そう弱々しい声が聞こえてくる。
視線を落とすと、仲間の一人が地面に横たわったまま、こちらを見上げていた。
「頼む……カルミア、戦ってくれッ」
その言葉に、胸の奥がわずかに揺れる。
分かっている。
俺が動けば、敵を圧倒出来、こちらの士気も上がることで皆が身を粉にして戦い、この試合は勝って終わるだろう。
誰よりも速く、誰よりも強く、誰よりも正確に。
圧倒して終わらせる。
それだけなのに……なんで、動けねぇんだ。
いつものように攻撃魔法を使おうとしても魔力を練れない。
自分では分かっている。一緒に親闘戦を勝ち進むと決めたのに自分をあんな簡単にジェネシエータに送り出す皆のために力を使いたくない。そんなクソみたいな理由。
戦う意志がないわけではない。
ただ、何かが足りない。
胸の奥に引っかかる違和感が、どうしても拭えない。
「おいッ……頼むよッ……」
倒れた仲間の一人がそう言う。
「こんなとこで……終わってたまるか……!」
また一人、怒りと執念が混ざった声でそう言う。
その目は、まだ諦めていない。
それでも、胸の奥に引っかかる違和感は拭えず、俺は何もできない。
だからか、観客席から俺に向かっての怒号が飛ぶ。
「何してんだ!」
「ちゃんと戦えよ!やれよカルミア!!」
「お前の魔法なら終わらせられるだろ!!」
皆の言っていることはすべて正しい。
俺がこんなクソみたいな感情を捨てて、動けばいい。簡単なことだ。
それなのに足は、一歩も踏み出せない。
相手が弱いところなら「この勝ちはまぐれ」と言い訳が出来たが、今回の相手は昨年の決勝校。
だから、今、この絶体絶命の場面を勝ってしまったら、ジェネシエータの目にも留まるのは必然。
それが分かってしまったからこそ、動けない。
・・・その時だった。
「カルミアァァァ!!!」
裂けるような叫びが、空気を震わせ、俺に耳にまで届いた。
そして、その声の主が学園長であることが一瞬で分かった。
声がした方へ顔を上げると、観覧席の上段で学園長である"爺ちゃん"が立っていた。
普段は決して声を荒げない爺ちゃんが、身を乗り出して叫んでいる。
「何を迷っとる!!」
その一言で、深く静まっていた心臓が強く跳ねた。
「お前は何のためにその力を手に入れた!!」
言葉が、胸に突き刺さる。
だが、答えは出てこない。
いや、出そうとしてこなかった。
「勝つためか!?違うだろうが!!」
否定される。
でも、それは自分でも内心で分かっていたことを。
「思い出せ!!初めて魔法を使った日のことを!!」
思い出そうとしていないのに、その言葉で勝手に思い出される幼い頃の記憶。
初めて火を灯した時。
チョロッ、と水が流れた時。
小さな風が起きた時。
当時はただそれだけで、興奮して、楽しくて、嬉しくてたまらなかった。
負けても悔しくて、でもまた挑みたくて。
・・・本当に楽しかった。
「お前があの時、感じたものは何だ!!」
胸が、強く鳴る。
「……楽しかった、だろうが!!!」
その一言で、何かが壊れた。
ずっと張り詰めていたものが砕け、抑え込んでいた感情が溢れ出す。
……あぁ、そうだ。
俺は魔法が好きだった。
ただ純粋にそれだけだった。
「ならば見せろ!!」
爺ちゃんの声が、さらに強く響く。
「誰のためでもない!お前自身のための魔法を!!」
――ドクン。
そう、皆にも聞こえているのではないかと思うくらい、心臓が大きく鳴った。
その瞬間。
「……カルミア」
優しい声が頭の奥に響き、はっとする。
この声は・・・
「……父さん?」
視界の端に、二つの影が浮かぶ。男と女。
顔はぼやけているのに、不思議と分かる。
俺が小さな頃に亡くなった両親だ。
「俺たちはな」
父の声が、静かに能に響く。
「ジェネシエータに行きたかった」
「……え?」
その言葉に思考が止まる。
それは初めて聞く話だった。
「でも、無理だった」
次は母が続ける。
「才能が足りなかったの」
その言葉は、優しいのに重かった。
「だから、この村の学園に残った」
俺は胸が締め付けられる。
両親は、最初からここにいたかったわけじゃない。
夢を諦めた結果、この場所にいた。
「それでも、後悔はなかった。大切なものを見つけたからな」
「でもね、やっぱり見てみたかったの。自分たちが届かなかったあの場所を」
心臓の鼓動が強くなる。
ジェネシエータ。
ただの名門校だと思っていた場所。
だが今は違う。
そこは・・・両親の夢があった場所だ。
「「だから」」
二人の声が重なる。
「お前は、お前のまま進め。縛られる必要はない」
父さんがそう言う。
「でも…」
ほんの少しだけ強くなる声。
「「その先にある景色を、見てほしい」」
二人の声が重なり、胸の奥が熱くなる。
ここですべてが繋がった。
爺ちゃんのあの時からの厳しい指導や言葉。
両親の想い。
そして・・・自分の感情。
――ドクン。
今まで練れなかった魔力が練れるようになり、練った魔力が溢れ出す。
だが、今までとは違う。
その魔力は荒れない、暴れない。ちゃんと俺が操っている。静かに、そして身体に確かに満ちていく。
導かれるように空を見上げる。
昼の空。雲一つない晴天。その中で星なんか見えるわけないのに、その奥に――無数の星が見えた。
「……これが」
声が漏れる。
「俺の……」
足元に魔法陣が広がる。
深く、澄んだ光。
夜空そのもののような輝き。
その魔方陣は観覧席に居る教職員たち、爺ちゃん、そして・・・
『素晴らしい!これが彼の「固有属性」か!!』
皆、この魔方陣を見たことがない。なぜなら、それは・・・
「星属性……」
言葉にした瞬間、すべてが確定した。手を空にゆっくりと上げる。
「オリジン……」
オリジン。この世に生まれた者が数千万人に一人の確率で持っている神からの祝福。それは、他人には扱うことが出来ない自分だけの武器。
光が生まれる。
小さな星が、一つ、また一つと生まれ、晴天の空を覆っていく。
『アストラ』
その瞬間、俺たちを囲うように宇宙が生成された。そして、味方を護るように、敵へ向かって無数の星が流れる。
防御魔法は通用しない。星は触れた瞬間、すべてに干渉する。
一人、また一人と相手が倒れていく。
そして魔法が消える。
存在が静かに空へ還っていく。
音もなく、すべてが終わった。
周りを見回せば、この戦いの場に立っているのは、俺一人だった。
静寂。そして次には歓声。
だがもう、その音は遠い。
「……父さん、母さん」
俺はそう小さく呟く。
数分前までは冷めきっていた胸の奥が、今では信じられないくらい温かい。
『ジェネシエータ』
両親が届かなかった場所。
でも、俺にはこの力がある。
俺は強く拳を握る。
「……行ってみるか」
・・・・・・
・・・・・・
俺がが放った星の光――『アストラ』は、音すら残さずすべてを終わらせた。
敵も味方も、もう立てる者はいない。ただ一人、俺だけがその場に立っていた。
空を見上げる。
さっきまで確かに存在していた『星』は、もう見えない。もう一度手を伸ばしても、掴めない。
だが、その感覚だけは確かに残っていた。
『か、勝ったのはクラディア学園!!』
「……終わった、か」
小さく呟いた、その瞬間だった。地面に淡い光が広がる。
地面に現れたのは複数の魔法陣。
これは回復の魔方陣ではない。転移魔方陣。学園へ帰還するためのものだ。
「カルミア……」
足元から声がする。
倒れていた仲間の一人が、かすれた声でこちらを見ていた。
「……あれ……すげぇな」
そう言って弱く笑う。
「今までと……全然違った」
俺は何も言わない。
ただ、黙って見る。
「ちゃんと……戦ってた」
その言葉に、ほんの少しだけ目が揺れた。
そして、そう言い残して、彼の身体は光に包まれて消えた。
それを境に次々と仲間も敵も消えていく。
・・・意図的にか、俺は最後まで残る。
ふと、視線を上げたのは観客席。
遠く上段に、爺ちゃんが立っている。ただ、じっとこちらを見ていた。
その表情は、厳しさの中に・・・微かな誇りが混じっていた。
「……行くか」
パッと、地面の転移魔方陣が光る。
視界が白に染まり、そして次の瞬間、見慣れた景色が目に映った。
・・・・・・
・・・・・・
ざわめきが広がる。
帰還した生徒たちがは戦いの余韻を口にしていたり、まだ戦いの疲れが抜けきっておらず、地面に倒れている。かくいう俺も、魔力が底を尽きていて、今にでも倒れそうだ。
ふらふらしながら皆のもとへ行くと、皆からの視線が集まり、次々に俺の話題へとチェンジしていく。
「おい……カルミアだぞ」
「最後の何だよあれ……」
「星、だったよな……?」
俺を見る皆の目は興奮と戸惑いと、わずかな恐れ。
そのすべてを受けながら俺は前に出た。
もう、逃げない。
そのまま、皆の前で足を止める。そして、頭を下げた
「……悪かった」
一瞬で場が静まり返る。
「今まで、適当に戦ってた。勝てるから、それでいいと思ってた・・・でも、皆と同じ場所にいるつもりで……ちゃんと立ってなかった」
顔を上げる。
その瞳は、もう以前の空虚なそれではない。
「だから、謝る」
それだけだった。
だが、それだけで十分だった。
静寂のあと・・・
「はぁ!?今さらすぎるだろ!」
「むしろ分かってたならちゃんとやれよ!」
そう言うのは戦いについて話していた者や、まだ地面に倒れている者。自分が初めからちゃんとやっていればこうはならなかった。だが、そんな俺を皆は罵らない。
「……でもまぁ」
「さっきのは普通にヤバかったな」
「正直、ちょっとカッコよかった」
空気が少しずつほどけていく。
だが、完全な許しではないことは分かる。少しはまだ怒りの感情があるのだろう。
俺は小さく息を吐いた。
「……じゃあな」
それだけ言って、その場を離れた。
もうやることは決まっている。
・・・・・・
・・・・・・
夕暮れ。
皆と別れて自分だけジェネシエータに行くための身支度の準備のために家へ帰る。
毎日通って、見慣れた風景が、今日は妙に鮮明に見える。
……こんなだったか。
これまで何の感情も湧かなかった景色。
だが今は違う。
見るものすべてが新鮮で、すべてが懐かしく感じる。そして、確かにそこにあったものとして感じられる。
家に着いて扉を開ける。中には誰もいない。だが、それでいい。
もう心に決めたことだが、これ以上村の人たちの顔を見ると、決心が鈍るかもしれない。
無言で荷物をバックまとめる。
向こうの服や必要は現地で貰う予定なので、手間なく荷物をまとめれた。そして、ずっと机の引き出しに入れていた両親の写真が入ったペンダントを手に取る
「……行ってくる」
返事はない。そんなことは分かっている。だが、それをしまった胸ポケットは妙に温かかった。
バックは思いのほか重くなく、これから遠くに行くとは到底思えない。
家を出て、振り返る。
産まれてから十二年間。俺を育ててくれた家。
そして、しばらく見つめて・・・
「……ありがと」
それだけ言い残し、俺は村の入り口に向かって歩き出す。
もう戻らない。
前へ行く。
・・・・・・
・・・・・・
村の入口にそれはあった。
豪華な馬車とそれを引く立派な馬。そして、四角形でその馬車を守るように馬に乗っている装備を着た騎士たち。
馬車は黒と金の二色だけの装飾。だが、それには様々な色が入っているかのように美しかった。
こんな物が、この村にあるわけない。ジェネシエータ高等魔法学園からの使者であることは皆にも分かるだろう。
すでに村人たちは集まっていたが、誰一人として騒いでいない。
ただ、静かに待っている。
俺は皆に視線を向けられるが、背にバックを背負い、真っすぐ歩く。
誰とも目を合わせない。
そして、豪華な馬車の前に立つ。
その瞬間、気が揺れた。
誰かの嗚咽。
それをきっかけに、涙が広がる。子供も、大人も、皆、泣いている
それでも、誰も俺に言葉をかけない。止めない。
送り出すために、何も言わない。
だから、俺も振り返らない。
二段上り、扉に手をかける。
・・・その時。
「カルミア」
はっきりとした、力強いが後ろから聞こえてきた。そして、声の主は爺ちゃんだとすぐに分かった。
元々、誰とも目を合わさず行こうと考えていたが、俺はわずかに顔を向ける。
爺ちゃんと視線が合う。
祖父は皆のような涙を流していない。
ただ、まっすぐに見ている。
そして・・・
「……がんばれよ」
たった五文字。だが、重い。
すべてが込められた一言。両親やジェネシエータを憧れている村の友達。その全員の思いが込められた一言は今の俺ではまだ重すぎる。
しかし・・・
俺はしばらく黙り、ほんのわずかに口元を緩めた。
「……あぁ」
それだけ返す。五文字よりも少ないたった二文字。
それ以上はいらない。きっと、皆にも伝わったはずだ。
俺は馬車に乗り込む。中には誰も居らず、今の俺には最適な場所だ。
馬車を引く人が扉を閉めて、外の音が遮断される。
そして馬車は動く。
ゆっくりと、村から離れていく。
窓の外を見ると、誰も追ってこない。
音一つしない馬車の中で俺はただ、無音の涙だけが流れている。
皆の姿が見えなくなるまで――
そして、完全に消えるまで――
・・・・・・
・・・・・・
馬車の中。そこは静かな空間。
俺は窓の外を見る。
完全に皆の姿が見えなくなり、だんだんと生まれ育った村から遠ざかる景色。
戻らない場所。
俺は胸ポケットにあるペンダントに触れる。
「ジェネシエータか・・・」
そう小さく呟いて目を閉じる。
そして、開いた時にはもう、窓の外には別の世界が広がっていた。
クロリアリティ王国。そして、ジェネシエータ高等魔法学園。
両親が届かなかった場所。
自分がこれから向かう場所。
退屈だった世界は終わった。
これは、後に『星魔者』と言われる「星属性の魔法使い」の話の序章である
少しでも面白い、入学後が続きが気になると思ったら、ブックマークや評価☆☆☆☆☆、感想やリアクションをしていただけると励みになります!




