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第四話 スキルのおかげで安全になるとは限らない

4話目にしてやっと主人公のスキルが覚醒します。

 混濁とした意識の中で、アリアは自分の身に何が起こったのかを分析しようとする。

 手足を動かそうとすると、ざりざりという音を立て麻と土が擦れる音が聞こえる。曖昧な意識の中でも自分が何者かに囚われている事はすぐに分かった。


(早く家に戻らなくて...お父様が心配してしまいます...。)


 何とか動こうとするも思ったように体が動かない。目も霞んでいる状況で、感覚だけで現状を把握しなくてはならない。意識を集中させる口元から顎にかけて乾いた感覚がある。恐らく筋弛緩剤のようなものを液状で飲まされたのだろう。次第に意識ががはっきりしていくのに体は言うことを聞かない。

 薄暗い洞窟の中に、天井に人一人分ほどの小さな穴から月明りが差し込んでいる。

 戻ってきた視界に映った光景は、大量のゴブリンと、その奥で座る巨大なゴブリンロードだった。


 醜い笑顔を浮かべたゴブリンロードがゆっくりと近づきアリアの体を舐め回すように見つめる、至高の一品をじっくりと堪能するように、王の子種を注ぐに相応しい雌か吟味しているのだ。

 アリアにはこれから何が起きようとしているのか容易に想像が出来た。純情が奪われ貞操が穢される、何者にも負けぬように鍛えた技も、相応しき相手を追い求めた乙女心もゴブリンには通用しない。

 美しい一輪の花も少しの力で簡単に手折られるように、アリアもまたゴブリンロードに穢されようとしていた。


(あぁ嫌だ...こんな汚らしい魔物に触れられるなんて...!悔しい...あれだけ息巻いていたのに、今の私は何も出来ない...誰か、誰か助けて......お願い...ルークフェルト様...!)


 ゴブリンロードがアリアの服を引き裂き、柔肌へ触れようとしたその時、入口の方から大勢の鬨の声が聞こえてきた。鈍い金属音とゴブリンの叫び声、明らかに交戦している。

 ゴブリンロードは側に控えるゴブリン全員に入口を守備する仲間の加勢に行くように指示を出し、自分はアリアを弄ぼうと再び醜い笑顔を浮かべて近づく。


「その醜い顔で俺のアリアに近づくな!!!!」


 上から怒号が聞こえる、見上げるとそこには鬼気迫る顔つきで剣を振り上げ急降下してくるルークの姿だった。


「ルークフェルト様!?」


 突然の登場にアリアは思わず声を上げる。あの天井の穴から落ちてくるとは想像もしていなかった。

 それはゴブリンロードとて同じことだった。無防備に空を仰いだゴブリンロードは、落下の勢いそのままに振り下ろされた剣の一撃を食らい、苦痛に満ちた大声を上げて倒れ込む。


「助けにきたよアリアさん!さぁ、急いでここから逃げよう!!」


 ルークは素早く縄を斬り、アリアに立つよう促すが、薬物の影響でアリアはまだ体に力が入っていない。


「ごめんなさいルークフェルト様...まだ足に力が入らず...私の事を助けにきてくれたのは嬉しいですが、ここは危険です...!私のような足手まといは置いてお逃げください...!」


 自分がゴブリンロードの首を獲ると豪語しておきながら敵に捕まり、許婚を危険に晒して助けられている。それはアリアにとって恥辱だった。だが、命の危険の前にプライドなど何の価値も無い、ルークは半ば自棄になっているアリアを叱りつける。


「ふざけるな!危険など百も承知で君を助けにきているんだ!俺は君の夫になる男だ!妻の危機に命を張って助けられないほど軟弱な男じゃない!確かに頼りない男かもしれないけど、いつか君にとっての居場所が俺の側だと胸を張って言えるような男になってみせる!だから生きる事を諦めようとするな!ここは絶対に俺が生かしてみせる!」


 そこにこれまでの優しさは無かった。いや、優しさはあった。だがそれは、嫌われまいとする打算的な優しさではなく、本気でアリアを大切に思う力強く荒々しい優しさであった。

 その言葉にアリアはハッとする、これがこの人の強さなんだと...。


(とは言ったものの、どうしたものかな)


 ルークは苦悩していた。奇襲による一撃で怯みはしたもののゴブリンロードは倒れていない。

 騒ぎを聞きつけた配下のゴブリンたちも数体戻ってきていた。アリアを守りながらゴブリンを相手にするのはルークにとって至難の業であった。


(なにか打開策を、一瞬で良い...この場のゴブリン達から逃げ出せれば入口にいる仲間と合流できる。

 そしたら態勢を整えて戦える...何かないか、この場を切り抜ける打開策は...!)


 思考を巡らせるも良い案は浮かんでこない、ここはゴブリンの巣穴、地の利も数の利も敵にある。

 アリアを背負って逃げ出そうにも囲まれていてはどうしようもない。絶体絶命だ。

 奇襲を仕掛けたまでは良かったが、アリアの状態がここまで酷いとは予想が出来ていなかった。

 どんな乱暴な策でも良い、何か思いついてくれ!そう願うルークの頭に謎の声が響く。


 《演算開始 作戦経路シミュレーション実行

 目標:洞窟からの脱出

 特筆箇所:前方のかがり火の付近に火薬が存在

 推奨:直剣の投擲

 作戦成功率:66%》


 脳内に謎の声が聞こえると共に視界が赤くなり、声と同じ目標ポイントがハイライトされる。


(そうか、狙いが分かったぞ。かがり火に直剣を投げて火薬に引火させるつもりだな!

 爆発による崩落から逃げつつ、ゴブリンを一掃する作戦か...!ずいぶん危険な策を用意してくれるじゃないか!)


 躊躇ためらってる暇なんてない。俺は声の導きに従うまま直剣を投げ、アリアを抱えて逃げる。

 直剣とぶつかったかがり火は真下に倒れ、下に置かれた火薬に引火し大爆発を引き起こした。


(くそ!とんでもない作戦だ!だけど、この声が一体何なのか考えている暇はない!今はとにかく走れ!足が千切れそうになっても走り切れ!!)


 天井から岩が落ちてくる、逃げている道中に出くわすゴブリンの攻撃を避けつつアリアを背負ってひたすら走る。背後から聞こえてくるゴブリンの悲鳴は崩れ落ちる岩に潰された断末魔だろう。

 走り続けていると目の前に光が差し込み、大勢の人だかりが見える。

 その中にエーゴンとレオ、そしてセリの姿があった。ラストスパートだ、俺は最後の気力を振り絞り全力で駆けだした。

 あと少しで出口という時に目の前から大岩が降ってくる。


(くそっ!あと少しなんだ!頼む!頼む!間に合ってくれ!!)


 俺は必死に祈りながら駆け続ける。しかし力みすぎたのだろう、踏み込む際に足を滑らせてしまう。


(あ、終わった。)


 ルークはそのまま勢い良く前に飛び出し、顔面から土まみれになりながら洞窟を脱出した。


「勇者様よ、疲労困憊ひろうこんぱいの姫君を抱えながら土にまみれるとは何とも情けない姿だな」


 ケラケラと笑いながら煽るレオに思わず赤面する。俺だってもっと格好良く救出できると思ったんだけどな。


 何とか立ち上がり、後ろを振り返ると洞窟は完全に岩で塞がれていた。この様子ならゴブリン達は全滅だろう。何はともあれ無事にアリアを救出できたのは良かった。ついでに依頼も達成できたのだから一石二鳥ってやつだ。


「あのう...ルークフェルト様?そろそろ降ろしていただけないでしょうか?

 その...このように大勢の方の前で破けた服のまま殿方の背に抱かれるのは恥ずかしいです...。」


 俺は慌ててアリアを背中から降ろす。幸い薬の効果は大分無くなっており、一瞬ふらつきはしたものの自分の足でちゃんと立てるまでに回復していた。セリは素早くアリアの側に近づき、神業と思えるような速さで一瞬で服を着替えさせる。あまりの速さにその場にいた全員が驚きを隠せなかったが、アリアはありがとうと一言伝え、皆に伝えたい事があると言い、注目を集めさせた。


「皆様、この度は私の軽率な行動により皆様に多大なご心配をおかけいたしました!大変申し訳ございません!そして、許婚であるルークフェルト様にはどれだけ感謝しても足りません。あなたが助けてくれなければ、私は私では無くなっていたかもしれません。本当にありがとうございました。」


 深々と頭を下げるアリア。今までと違う態度にちょっとくすぐったい思いはするが、何はともあれ無事で良かった。


「アリア嬢に外傷が無くて何よりだ。それよりもルーク、お前なぜここにアリア嬢がいると分かった?」


 俺はアリアのリボンを指差した。


「その仕掛けはアリアさんに送ったプレゼントのリボンだ。プレゼントとして渡す前に、俺は追跡魔法をかけていた。これは自分の周囲から一定範囲離れた時に発動する魔法で、アリアさんが森に入った辺りから発動してたんだ。思ったより距離が遠くて魔力が微弱だったから見つけるのに時間がかかったけどね。

 アリアさんは昔から気持ちを落ち着ける為に一人で出かける癖があって、ゴブリンによる被害が増大している状況で、俺が慎重に作戦を進めようとするのをアリアさんは嫌うと思ってたんだ。

 あえて怒らせていたわけじゃないが、怒らせる可能性が高いことと最近のゴブリンの活発な様子から、アリアさんもゴブリンの被害に遭う可能性が高いと思って念のための備えとして追跡魔法を付与してたんだ。」


 最初から計画通りではないにせよ、最悪の事態も考慮して動いた事が功を奏した。

 俺の考えにレオだけでなくエーゴンさんも感心していたが、一番予想外の反応を見せたのがアリアだ。

 普段なら、あなたのそういう所が気に入りません!と怒ってきそうだが何も言わない。これは相当怒らせたらしいぞ。


「えっと、アリアさん?その、プレゼントにこんな仕掛けをしてごめん。純粋にアリアさんの為のプレゼントでもあったんだけど、最近の状況的にアリアさんに万が一の事があってはいけないと思って保険をかけてしまった...素直にプレゼントとして受け取ってくれた君を裏切るような事をしたのは誤るよ。」


 アリアはまだ何も言わない。そして顔をあげてこちらを見つめてくるが、そこに怒りの表情は一切なく、顔を赤らめてキラキラした目で見つめてくる。


「これまでの事が、全てあなた様の想定の内だったなんて...それにあの洞窟内での逞しいお姿。

 ルークフェルト様...いえ、ルーク様、私、あなたを見誤っておりました。あなた様は知恵も勇気もある立派な御方。今までの非礼をお詫びします。どうかこのアリアを、あなた様の妻として迎えてくださいませ...。」


 あれだけルークを嫌っていたアリアの心変わりに一同は驚愕する。


「ア、アリアよ!ついにルーク君を夫として認めると...受け入れると言うのだな!?」


 エーゴンが驚きながら問いかけるとアリアは静かにうなずく。


「はいお父様。私はルーク様のことをずっと誤解しておりました。この方こそ私の夫に相応しい方。

 ここぞという時に立ち向かう勇気とどんな時も諦めない胆力、それにあらゆる事態を想定する知恵。

 こんなに素敵な方と添い遂げることが出来るアリアは幸せ者です。」


 ニマニマしながらレオは俺に耳打ちする。


「アリア嬢をよく落としたな。オスワルドの財を元手にすれば再起もより現実のものとなる。

 今夜、このままアリア嬢に手を付け、子種を注いでやれば生涯安泰だぞ」


 相変わらず余計な茶々を入れてくるレオに俺は顔を赤くして言い返す。


「お、お前!なんでいつもそんな事言うんだよ!!前も言ったけど、許嫁だからって手を出して良い訳じゃなくて!そ、そそそ、それに、アリアさんの気持ちだって!!」


 言い終わる前に俺は気付く、動揺のあまり大声でレオの提案に反対したせいで何のやり取りをしていたのかアリアにバレてしまったのだ。


「いや!アリアさん違う!アリアさんに魅力が無いんじゃなくて、むしろ魅力的すぎて辛いというか!あーいや違くて!違くないんだけどそうじゃなくて!アリアさんの気持ちとか、ちゃんとした手順踏むとか!!」


 釈明するほど苦しくなってくる。アリアは更に顔を赤らめてまんざらでもない表情で俺を見つめてくる。


「ルーク様...私、あなた様が望むならそういう事も受け入れます...。ただ、初めてですので...その、優しくしていただけると....。」


 ちょっと待て!今の状況でこの流れはまずい!周りに兵士もいるし、エーゴンさんだっているんだ!

 いや、なんだ?なんで皆優しい目で見てるんだ!?エーゴンさんは何で小さくガッツポーズをしてるんだ!誰か助けてくれ!!


 何とも言えない雰囲気を断ち切ったのはメイド長のセリだった。


「そこまでです!アリア様、ルークフェルト様との縁談を承諾いただいた事はアリア様に仕える者として大変嬉しく思いますが、そろそろ夜も明けてくる頃でございます。まずは屋敷に戻りお休みください。

 ルークフェルト様もアリアお嬢様を夜伽にお誘いするのはまた今度にしていただきましょう。」


 さぁ帰りますよ!セリの号令によって帰りの支度を始める。

 闇が消えきらない空に、東から僅かに陽が昇り薄明りが差し込んでくる。

 一夜の救出劇はこうして無事に幕を閉じたのだった。


「ルーク様...よろしければ屋敷に戻るまで、手を握っていただけませんか?まだあの時の恐怖が抜けず、安心したいのです。」


 そして一夜の救出劇が幕を閉じ、新たな恋が幕を開けることになる。


 5時間前、ローズロック邸応接室


「では、アーネント殿。本当にこの男に見覚えが無いのですな?

 最近このローズロック領で似た男を見かけたと知らせが入ったのですがな。」


 フォントルが顔写真をアーネントのもとに差し出し質問をする。


「何度も申し上げておりますがフォントル殿。儂はそのような男は知らぬと言っているではないですか。

 我が領地は小さいとはいえ、領民の数は千を超えまする。仮にそのような男が我が領地にいたとしても、領民全ての顔も把握できていないのに、最近来た男の顔など分かる訳もありますまい。」


 フォントルは少し怪訝な顔を見せるがすぐに表情を変え、失礼したと謝る。


「ではアーネント殿、この男を見つけた時は即刻拘束し私に知らせていただきたい。

 くれぐれもこの男を匿おうなどとは思わぬ事ですな。そのような事をすればオルドーレ様に弓引く事となる。王都勤めだった貴殿にはオルドーレ様の恐ろしさが良く分かっているはずですぞ。」


 アーネントは黙っている写真を見つめている。

 そこに写っているのはブロンドの髪に澄んだ海のような瞳をした青年レオ・オルディアだった。

ちょっと官能的に書いちゃったかな~と思いつつ、今後はこういうネタも随所に盛り込みたいです。

今後はどんどん暗くなっていくので、日常回やちょっとエロティックな回も用意していきます!お楽しみに!

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