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第三話 真面目な許嫁はお嫌いですか?

本編です。


ヒロインって大事ですよね。

「レオ•オルディアだって…なんで、なんで王子様がこんな田舎に…。」


 あまりにも衝撃的な内容に俺は言葉が上手く出てこなかった。

 只者じゃないことは分かっていた。どこかの御曹司という事は何となく分かっていた。

 だが、ジョン…いや、レオ•オルディアから告げられた言葉は予想を遥かに上回っていた。


「開いた口が塞がらないなルーク。だが無理もない。本来俺は王子としてこの大陸を背負う存在。

 両手で足りる程度の村を治める田舎の領主とは本来目を合わせる事すらない。」


 ゆっくりと近づく足取りは実に優雅で風格があり、見慣れた一室が、この瞬間だけ王に拝謁する空間へと様変わりしていた。

 レオは俺の肩に手を置き不敵な笑みを浮かべながら顔を近づけ、鋭い眼光で見つめて語りかけてくる。


「俺はお前を高く買っている。あの時、なぜ気付かれた瞬間に逃げなかった?

 ゴブリンは馬鹿じゃないが短絡的だ。気付かれた瞬間に逃げたとて、5、6体は連れ出せたはずだ。

 あと一歩遅ければお前は取り囲まれて殺されていたんだぞ?だが、お前がギリギリまで引き付けたことでゴブリンを全て誘う事に成功し、俺の部隊は無傷のまま疲弊したゴブリンどもを片付ける事ができたんだ。」


 レオはふっと笑いルークの肩をぽんと叩く。そして一歩下がって続けてこう言った。


「俺の首には懸賞金が懸けられている。軽く見積もってもこの大陸の半分は買えるだけの値だ。

 それだけ今のディッチ大陸においてオルディア王朝の最後の後継という肩書きは不都合なのだ。

 今はまだここまで捜索の手は及んでいないが、いずれ俺の命を狙う輩が現れるのも時間の問題だ。

 俺はこのような所で終わる男ではない、いずれは挙兵し、かつての栄光を...いや、それ以上の栄華を極める国を作る。その為にはお前のように知恵と度胸を兼ね備えた男が必要なのだ。」


 あまりにもスケールの大きい話が次から次へと出てくる。亡国の高額賞金首の王子様と一緒に大陸制覇だって?そうなったら命がいくつあっても足りないじゃないか!

 それに仮に全て上手くいったとしても、大陸全土を支配する巨大組織の中枢なんて権力闘争の温床でしかない!あぁ神様勘弁してくれ、俺は今度こそ争いとは無縁でいたいんだよ!


「なぁ、レオ、でいいのか?お前のことは嫌いじゃないし、良いやつだと思ってるけど、俺はそんな覇業に興味が無いんだ。悪いが、他を当たってくれないか?

 ほら、俺の才能を認めてくれるのは嬉しいけどさ?都市に行けば俺より優秀な奴なんて沢山いるし、うちの兵士なんて百人程度だから、ここから再起は厳しいんじゃないかなーって思うんだけど...?」


 何とかしてこのイケメン疫病神に早く出て行ってもらいたい。俺はその一心で必死に言葉を取り繕い、

 どうにかこうにか諦めてもらうよう説得してみるが全然効果が無さそうなのは火を見るよりも明らかだ。たどたどしい説得にレオはため息をついて呆れながら説明を始める。


「お前に興味があるかどうかは関係ない。お前の父アーネントは俺を匿い、然るべき時に兵を挙げると確約している。領主の息子であるお前が父に背けるか?

 それに俺がここから立ち去ったとしても、いずれはここで匿っていた事実は敵の耳に入る。そうなればどの道お前を含めて一族は皆殺しとなるだろうな。

 なにせ今のディッチ大陸の大部分はオルディア王朝で重臣を務めた者達が治めている。それも王朝を滅ぼした中核達が各地を支配しているのだから、俺という存在が生きていると知ればどんな犠牲を払っても始末してくるだろう。奴らは力こそあれど正当性は無いからな。渋々従っている者達だっている。燻っている火種が劫火となってはいけないんだ。

 俺という存在は世の中の不都合であり、その不都合を受け入れたお前達は俺の臣下となる道しか無いという事だ。」


 匿った時点で分の悪すぎる賭けだった。父上はなぜこのような危険な選択をしてしまったのか理解ができない。だが、それを今考えても仕方がない、どのみち俺に残された選択肢はレオに付き従う事しかなさそうだ。絶望と諦めが重くのしかかってくるのを感じる。

 そう思うと先行きが不安だ。今はまだ良いとしても、いずれレオの存在が明るみに出れば世界中が敵になる。危ない橋を渡るのは好きじゃないが、そうも言っていられない。

 だが逆に考えればチャンスでもある。もし、このままレオに従って大陸制覇が成し遂げられれば俺はもう用済みだ。莫大な恩賞と適当な土地を貰って平穏に暮らす事もできる。

 覚悟を決めるしかない。レオが俺を使って世界を支配しようというのなら俺もレオを利用してやる。


「いいぜ、お前の家来になってやる。だけどこれは忠誠を誓ったからじゃない。

 俺は安全な暮らしがしたい。だけどお前のせいでその望みも消えた...だから取引だ!

 俺はお前を世界の王にする。お前を頂点に導いた男として誰にも脅かされない絶対的な地位を手に入れる!いいか?お前が俺を一生守るんだ!お前という盾を誰にも壊せないほど頑丈にするからお前は絶対に死ぬんじゃないぞ!」


 ルークの決意は決して純粋なものでは無かったが、むしろそれはレオにとって心強かった。

 打算の上に成り立つ奇妙な友情は、ある意味で純情よりも固い絆で結ばれることもある。

 広大な大陸の矮小な領地の一室で、世界制覇を目指す王と配下がここに誕生した。


 その日の夜、俺とレオは二人で話した事を父上に報告した。父上は俺に家族を危険に晒した事を謝罪し、

 レオを匿う事になった経緯を話した。王国が滅びる直前、父は宮殿の護衛隊長を任されていて、

 国王からレオを宮殿から脱出させる命令を受けていた。王都脱出後、レオを守っていた父を含む5人がレオの居場所を敵に悟られないように順番で匿うことを決め、今は父の番という事らしい。いずれレオが成長した時に集い共に決起するつもりだったというのだ。今は時期尚早という事で表面上は変わらず俺達は義兄弟を続ける事になった。


 半年後、変わりない日常を過ごしていた俺の元に一通の手紙が届いた。

 それは隣の領主エーゴン・オスワルドからのものだった。


『拝啓、ルークフェルト殿。最後に会ったのは貴殿の誕生日だったな。

 また近々顔を見せてもらえるとありがたい。婿殿に会える日を娘のアリアも心待ちにしているぞ。』


 翌日、オスワルド領の市場に俺とレオそして従者の二人の合計4人で買い物に来ていた。

 理由は俺の許嫁アリア・オスワルドに渡す土産を買う為だ。

 オスワルド領を治めるエーゴンは、貴族や軍人上がりの領主とは違い商人の出身だ。

 自由で開かれた経済圏が国を豊かにすると主張し、各地の領主の下で財政官として経済を発展させ、税収を大きく上げた功績が認められて領主に取り立てられている。

 自領でもその商才を存分に活かし、連合内ではフォントル・アランドゥ会長に次ぐ税収を得ている。


 昨日の手紙の内容から察するに、そろそろまたアリアに会っておけって事なんだろう。

 父上とエーゴンが気の合う友人なのもあって俺とアリアの縁談がまとまったが、この婚姻に一番前のめりなのがエーゴンだ。というのも、オスワルド家は7つある連合の中で2番目に経済力があり、兵力もそれなりではあるけど練度が低く最弱と言われている。

 だからこそ勇名を馳せた父上とその配下を味方に引き込み軍事力を補おうとしている。

 一方で父もエーゴンの資金力で領地を潤わせたいから両者利点があるんだ。

 そういう事で、父もアリアとの関係を大事にするよう言うんだけど、俺はあの人苦手なんだよな。


「はぁ...気が重い...。」


 もしアリアとの関係が悪くなればローズロック家とオスワルド家の将来が危ない。

 だから悩みに悩んだ末に俺は純白のリボンを選び、オスワルド邸に向かう為に馬車に乗り込んだ。

 道中、悩んだ末にありふれた物を買うなど時間の無駄だとレオに言われたが、アリアの性格を考えればこれが最適だろう。俺は屋敷に到着する直前にある魔法を付与した。


「わざわざ贈り物に魔法を付与するとはな。まさか媚薬に類するものでもかけたか?」


 薄ら笑いながら邪推するレオに流石の俺も反論する。


「あのなぁ、許嫁っていうのはあくまで許嫁ってだけで手を出して良いわけじゃないんだぞ?

 それにそんな不貞を働いたらエーゴンさんどころか父上にも何をされるかわからない...。

 そんな危ない橋は渡れないよ。これはアリアさんにとってはお守りみたいなもんだよ。

 あの人とは昔から交流があるからある程度性格を把握してるつもりだ。俺の知っている通りの人なら、きっとこれが役に立つ時が来る。」


 そんな話をしている間にオスワルド邸に着き馬車を降りた。

 自分たちの屋敷よりも何倍も大きい大豪邸だ。庭だけで言えば10倍はあるかもしれない。

 屋敷のドアを叩き、使用人に到着した事を伝える。少し待っていると扉が開き、恰幅の良い男性と美しい少女、その奥に7人のメイドが控えて出迎えてくれた。


「ようこそルーク君!いやぁまた一段と精悍な顔つきの男前になったものだ!半年前の初陣の件はお父君から聞いている!君の作戦勝ちらしいじゃないか!これほど頭脳明晰な男が娘と結婚して子をもうけてくれればオスワルドとローズロックは繁栄する事間違いなしだ!なぁアリアよ!」


 恰幅の良い男性もといエーゴンは久しぶりの再開に大喜びし、隣にいる少女アリアに話しかける。

 透き通った肌に美しく伸びたピンク髪のポニーテールの少女はトパーズのように美しい瞳でこちらを一瞥いちべつしたアリアは、キッとした表情で父親を見つめて反論する。


「お父様、私はまだルークフェルト様と婚姻する事を認めたわけではありません。

 オルディア王朝が滅び、新たな世が訪れたというのに親同士が決めた結婚など古臭いにも程があります。

 それに、ルークフェルト様はまだ私と勝負事で一度も勝った事がございませぬ。女一人に勝てぬ軟弱な殿方の子を産むなど嫌でございます!」


 そう、俺が彼女を苦手とする理由は男勝りの武勇を持ち、誰に対しても物怖じしない態度にある。

 15歳という若さながら芯のある人で、何事にも真っすぐ向き合う真面目な人だからおべっかが通用しない。稽古では真剣に相手しても負けるのだから余計心証が悪い。

 娘の言動にタジタジになるエーゴンさんをよそ目に俺はアリアさんにプレゼントを渡す。


「久しぶりアリアさん、変わらず元気そうで何よりだよ。今日はアリアさんに似合うと思ってこのリボンを買ってきたんだ。喜んでくれると良いんだけど...」


 アリアさんは丁寧にプレゼントを受け取りお辞儀をした。せっかく頂いたものなのだからと今日一日はこのリボンを付けて生活するのだという。なんというか真面目を地で行くような人だ。

 立ち話もなんだからとエーゴンさんに客間に連れられ、4人で談笑が続く。


「ところで、そちらの青年が最近アーネントが養子に迎えたという子かね?」


 エーゴンの問いにその通りだとルークが答え、レオもジョン・ブラウンとして挨拶し、王子である事は隠しつつ王都で育った事や王国滅亡の事を手振りを交えて話し、エーゴンやアリアも時に笑い時に同情して穏やかに会話が進んだ。

 一通りの談笑が済んだ後、メイドが持ってきた地図をテーブルの上に広げ、エーゴンが真剣な面持ちで話しだす。


「さて、二人を呼んだ理由は既に手紙にも伝えた通りだ。この地を根城とするゴブリンロードの討伐を二人に任せたい。いくつか拠点と思われる地点を記載した地図を用意しているので作戦会議といこうではないか。」


 そう、あの日届いた手紙はもう一通あった。父アーネントに宛てた救援要請である。

 元々は父が向かう予定だったが直前になってフォントル会長の来訪が決まり、その対応に追われる事になり俺達にお鉢が回ってきたという訳だ。


「お話は伺っております。領内で暴れるゴブリンロードの討伐だとか...相手はゴブリンロードです。そう簡単に倒せる相手ではありません。兵や物資の損害も考慮し慎重に立ち回るべきです。」


 その後、様々な意見が出たが平行線を辿り、3時間に及ぶ会議のすえアリアが口を開く。


「簡単な話です。ゴブリンは人間の女を好むと言いますから私がゴブリンの巣窟に向かい、ゴブリンロードと対峙します。そして油断した隙に首を切り落としてみせましょう。」


 突然の言葉に驚きが隠せない。稽古では確かに強いかもしれないがアリアは実戦を経験していない。


「駄目だアリアさん!自分の身を危険に晒して無事で済む保証はない!それに実戦と訓練は違うんだ!

 そんな作戦は到底認められないぞ!」


 エーゴンはルークに同調して反対し、レオは良いじゃないかと笑う。アリアだって引き下がらない。


「あら?初陣で己の身を危険に晒す作戦を計画して勝利を収めたのはどなたでしょうか?それとも私には出来ないとでも?」


 ルークは閉口した、まさかここで自分の行いを指摘されるとは思っていなかったからだ。

 アリアはまとまらない会議に嫌気がさし、いつまでも慎重論を唱えるルークに臆病者と吐き捨て屋敷を出て行った。


「やっぱりあの方は私の夫になるべき方ではありません。男ならもっと勇気を出して行動すべきですのに」


 気を紛らわす為に散歩に出かけようとするアリアの背後からメイドが声をかける。


「しかしお嬢様、ルークフェルト様は許嫁であるお嬢様を心配しておいでなのですよ?」


 落ち着いた口調で語りかけてきたのはメイド長のセリ、アリアはセリに思いを露わにする。


「そんな事は分かっているのです!それでも私は嫌です!いつも保険をかけたような周到さが好きになれません...仮にも、私の夫になるのですから...好きにさせてほしいのです。」


 そう言い終わるとアリアはそそくさと屋敷を後にしていった。

 思わぬ本音を漏らした自分が恥ずかしくなり、ひたすら歩き続け気付いた時には森の奥まで来ていた。


 急いで帰らなくては!そう思った瞬間、周囲に気配を感じ囲まれていると悟る。

 腰に手を当て剣を抜こうとしたが、持ってきていない事に気付く。絶体絶命の中、一匹ずつゴブリンが姿を現す。一斉に襲い掛かってきたゴブリンに手出しが出来ず、アリアはそのまま気絶してしまった。


 アリアが飛び出して4時間が経過する。あまりにも遅すぎると1時間前にメイド長のセリが捜索に向かったがまだ帰ってきていない。心配するエーゴン、行動可能範囲を洗い出すルーク、有事に備え武具の手入れをするレオ、三者共に最悪の事態を想定しながら続報を待つ。

 そこに肩で息を切らしながら勢いよくドアを開けたセリが大声で急報を告げる。


「皆様、急ぎ捜索のご準備を!付近の森でアリア様のスカートの布が破れておりました!

 抵抗の末、何者かにより誘拐された可能性がございます!」


 一同に緊張が走る。しかし、ルークだけはまだ落ち着いていた。


思ったより長くなりました!


一気に新キャラが登場しましたね。

次回はアリアの捜索&救出、そしてルークに大きな変化が訪れます!

お楽しみに!

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