第三十四話 金で買えない命などない
ゴルト国の奇襲に辛うじて対処する事が出来たオルディア王国は鹵獲した残骸から解析を急いだ。
国内の学者を一斉に招集し、メティスとステラを中心とした研究チームを作り上げた。
「それではメティスさん、現況の報告をお願いします」
「結論から言うと、これを私たちが再利用する事は不可能。無力化する事は可能ってところだね。
連中かなりの金をつぎ込んで作ってるみたいでねぇ。
こっちでも作ろうもんなら莫大な費用がかかって現実的じゃあないね」
それだけの代物を10両も差し向ける事が出来たマモンザの財力は恐るべきもので、持久戦に持ち込まれれば敗北は必定だった。
評定の結果は、電撃戦にて敵を屠るというものだった。迅速果断を求められる戦術はレオが最も得意とするところであり、魔動戦車を無効化する兵器が完成次第進軍するという運びになった。
――評定から半月後のことであった。
研究チームから対魔動兵器用の魔動兵器が完成した報告が王宮に届く。
献上された魔動兵器はアサルトライフルのような見た目をしていた。
「それが開発した自動小銃アシッドライフルだよ。
名前の通り、弾丸には強力な酸が入ってて、着弾と同時に破裂して鉄を溶かす代物さ」
メティスはそう言うと、用意させた鎧に向かって数発発射し、5秒もしない内に鎧は溶けて消えていった。
「魔動兵器は魔力でコーティングされているから、大抵の魔法や個性の影響は受けない。
だから魔力を突破するんじゃなくて、鉄そのものを壊してしまえばいいって寸法さ」
レオはアシッドライフルの出来栄えにひどく感心し、量産体制に移行するよう命令を下す。
それから3か月後、2万挺のアシッドライフルが完成しオルディア全軍に配備される。
1ヶ月の訓練を経て、オルディア軍はゴルト国へ侵攻を開始。
対するゴルト国も国境付近に魔動兵士と魔動戦車を配備、両雄がまさにぶつからんとしていた。
「視界、感度共にクリア。装填準備――いや待て、あれは一体なんだ?」
戦車兵がオルディア軍を捉えたその時、奇妙な鉄の棒のような物を確認する。
オルディア軍は一斉に腰を落として片膝をつき射撃体勢に移行した。
「全軍......時代にそぐわぬ鉄屑を塵と変えよ!」
レオの号令のもと、一斉に発射される。その弾は魔動兵士を貫き、魔動戦車の装甲に着弾した。
「敵の魔動兵器だと......!? 一体いつからそんな物を......! だが、こちらにまだ分がある!
装填準備急げ! 敵陣に風穴をあけろ!」
「車長! 装甲が......装甲が溶けていきます!」
鉄を張り合わせただけの装甲は、酸に弱くゆっくりと溶けていった。
突如現れたオルディア王国の新兵器に苦戦するゴルト国軍、100万の兵士を有していた大国も兵の練度と新兵器の登場により被害が拡大し、国土の3分の2を失う結果となった。
オルディア軍は東西に戦線を張り、中央に本軍、東部にブレイブ、西部にアーネントと武闘派の家臣を筆頭に前線を押し上げていた。
***
「新型魔動兵器、ですか。王子も中々思い切った事をするものです。
魔動兵器はこれまでの常識を一変させる代物、莫大な財が無ければ到底扱いきれないものだというのに」
マモンザは苦虫を嚙み潰したような顔で報告書に目を通して呟く。
戦況を覆すにはどうすれば良いか、城下を見下ろしながら思案に耽ると一つの考えが浮かぶ。
マモンザは側近の黒服を集めて指令を下す。
それは、アンケートに答えてくれれば100万Gをプレゼントするというものだった。
***
――ゴルト国北部、地方都市オウゴーン。
「おい聞いたか? アンケートに答えるだけで大金が貰えるって話」
「あぁ聞いた、城に行ってアンケートに答えるだけで良いなんてマモンザ様もお人好しだよな」
多くの領民が富を求めて城へと出向く。
兵士の誘導により、多くの民が整列して次々と入場していく。
「ラウム様、本当にこれでよろしいのでしょうか......?」
「愚民どもは父上の富を欲しがって自らの意志でここへ来たのです。
彼らは富と引き換えに相応の代価を支払うだけの話ですよ」
ある日、ゴルト国から約1000万の民が一夜にして消失したという。
同時に、ゴルト国軍の魔動兵士の数は10万人から1000万人に増えたという。
***
オルディア軍本陣、ルークとレオは今後の戦局と支配について議論を重ねていた。
既に3分の2の領土を獲得し、電光石火の殲滅戦を成し遂げたオルディア軍相手にまともに戦おうと思う者はいない。
二人の見立てではそうなっていた。初戦の段階で敵の戦意を挫く、それこそが最も効果的な戦術だと。
「伝令! 東部戦線にて敵の増援です! 約30万、兵力差が大きく苦戦しております!」
「伝令! 西部戦線が一部崩壊! 敵の魔動兵士が突如現れ、その数およそ20万!」
次々と急報が告げられる。
掃討戦へと移行しようというタイミングで50万の増援を送れるだけの余力がどこにあったのか。
だが、ルークの頭の中には、それ以上に心配な事があった。
「今、西部戦線の一部が崩壊と言ったな? そこの指揮は誰が執っているんだ?」
「はっ! 引き続き、アーネント様が指揮を執っておられます!」
ルークは直感的に嫌な気配を感じていた、引き続き西部の情報を伝えるよう命令を下す。
「ごめんレオ......俺、ちょっと......」
「構わん、行け」
ルークは急いで飛び出し、自分の陣地へ向かう。
アーネントは歴戦の古強者だ。だがそれ故に、新しい時代との戦いは最も危険な戦場となる。
タイムリミットが迫る、ルークの頬に一筋の汗が伝っていた。




