第三十三話 魔動戦車アン・フェール・ソルセルリー
鋼鉄の巨体が木々をなぎ倒し、大地は沈み抉れていく。
「目標補足、標準を合わせろ」
「ラジャー、目標ハラタ村。装填完了......発射」
雷鳴のような轟音と共に、巨大な銃口から一発の砲弾が射出される。
長閑な生活を謳歌していた村は一瞬にして焼け野原と化していた。
「目標沈黙、進軍を再開」
冷たい駆動要塞は無機質な唸りを上げながら前進する。
立ちはだかる全てを火の海に変えながら、人間が蟻を躊躇なく踏む潰すように。
***
「我らは天に背きて天を崇拝し、大地を呪いて大地を敬愛する。
修羅の如き人道において、穢れしこの身を守り給え――防御魔法発動」
「すごい......こんなに高濃度な防護壁が一瞬で形成されるなんて。
これなら殆どの攻撃を受け付けないんじゃないか?」
刃物や矢玉は肉体を傷つける。
その常識がある以上、防御魔法はダメージを軽減する程度の気休め魔法だった。
「お前さん達の知ってる魔法は本来の魔法じゃない。
凡人が扱えるように長い年月をかけて矮小化していったものだ」
メティスは主要なメンバーに防御魔法を付与していった。
「私が即席で作れる魔動兵器は数が限られている。
魔動兵器は魔法でしか破壊出来ないから気を付けろよ」
限られた武器で魔動戦車に対抗する為、オルディア軍はレオを始めとした主力のみで対処に当たる事になった。
――ユリウス・クランジヌスはオルディア王国で最も北に位置するクランジヌス領の領主であり、ゴルト国の国境を守備していた。
その為、クランジヌス領は十両の魔動戦車によって大きな被害を受けていた。
「皆さん聞こえますか? 皆さんの耳元には、小型通信魔動品が装着されているはずです。
聞こえたら返事をしてください」
『ブレイブだ。ルーク君の声はバッチリ聞こえているぞ!』
『モミジどす。ちゃんと聞こえておりますえ』
『こちらユリウス、問題ございません』
『メティスだ、こっちも問題ないぞ』
その他、アリア、ソラ、クロウ、ステラとエストリヤも問いかけに応じる。
感度は良好、ノイズも無くクリアに音声が伝わってくる。
「よし、陛下も問題ございませんか?」
『あぁ聞こえている。ルークよ、時代にそぐわぬ鉄塊を棺桶にしてやろう』
「......あぁ!」
各員、戦闘態勢に移行する。魔動戦車は静かに巨体を震わせていた。
***
――クランジヌス領東部
「さて、お前の力を見せてもらうぞルーン武器よ」
レオは眼前の魔動戦車を視界に捉えほくそ笑む。
「前方に人影、照合開始......っ! 照合完了! レオ・オルディアです!」
「S級カテゴリーの最重要人物か。装填準備! 王を討ち取れ!」
砲身に魔力が収束する。
「発射!」
発射された魔力弾は着弾と同時に周囲を溶かした。
一木一草も残さない残酷な力は地獄の業火のようであった。
「生体反応なし......やったか?」
「改良案は、生体反応とやらの探知範囲を上に拡大する事だな」
上空へと逃げたレオは大きく振りかぶり、全身に魔力を込める。
しかし、その力は全てルーン武器に吸収されていった。
(これは!? ルーン武器が俺の魔力を喰らっている!?)
ルーン武器が製造されなくなった主な理由、それはルーンの力が所持者を支配する事にあった。
揺るがない意志と絶対的な魔力を持たないと人格すら飲み込まれる危険な代物だったからだ。
「喰いたければ好きなだけ喰うがいい! その程度で俺を支配できると思うな!」
レオはさらに魔力を込める。魔力を解放するほどルーン武器がそれを吸収する。
魔力が尽きかけた時、ルーン武器の吸収が止まり、逆に大量の魔力がレオへと流れ込んだ。
「良い判断だ......お前の主はこの俺だ。永劫変わりなくだ!
個性発動、ただ一つの大厄災!」
漆黒の斬撃が戦車を裂く。電流が迸った刹那、巨体は火に包まれ爆散した。
「ルーク、敵は沈黙した。俺は本陣に戻る」
***
レオの戦闘地点から5Km西、メティスと魔動戦車は激戦を繰り広げていた。
「これが師匠の世界の産物か......」
被害の拡大を防ぐ為、空中にて応戦する。それがメティスの狙いだった。
戦車兵もその狙いを察してか、連射式に変更。メティスは弾幕の嵐に晒され続けていた。
「雷の精霊よ、我が怒りを聞き給え。天地山海に跋扈する諸悪を無双の槍先にて穿ち給え。
古代魔法、鳴神浄天」
暗雲が立ち込め、稲光が激しく光る。雷鳴が轟き、無数の稲妻が戦車に降り注ぐ。
爆発する間も無く、鉄の巨体は溶けて崩れ去った。
***
――クランジヌス領西部
ステラとエストリヤは怯えていた、ステラに至っては初めての実戦であった。
「お、お、お姉ちゃん何あれ......!? あれ家!? 馬車!?」
「お姉ちゃんが分かる訳ないでしょ!? とにかくステラ、これ解析できる!?」
エストリヤは背負っていた大砲を取り出す。それはメティスが生み出した簡易魔動兵器だった。
「うーん......解析できるけど、ちょっと時間欲しいかも。お姉ちゃん、あれを引き付けられる?」
「鬼畜な事を言うねステラちゃん、お姉ちゃん普通に死んじゃいそうなんだけど......?」
「私のお姉ちゃんだから大丈夫!」
(なんて純粋な笑顔! 眩しくて見てられない!)
エストリヤは戦車の前に姿を現す。
鋼鉄の巨躯と相対した事の無い非力な乙女は、あらゆる小細工で抵抗を試みる。
「敵影確認、個体名エストリヤ、B級カテゴリーです」
「大した敵じゃない、散らせ」
戦車から無数の魔弾が射出される。文字通りの鉄砲雨がエストリヤへと降り注がれた。
エストリヤは懐から煙玉を取り出し煙幕を張る。
乗り物であるならば人が操縦しているはず、そう読んだエストリヤは煙に乗じて戦車に近づこうと画策していた。
「赤外線に切り替えろ」
煙幕の中を動く人影が映し出される。照準を再度合わせた砲身から再び鉄砲雨が降り注がれる。
(なんで分かってんだよ!?)
盗賊神を発動し、必死に弾幕をかいくぐるエストリヤ。
弾切れしない無機物とのスタミナ勝負は圧倒的に分が悪い勝負だった。
「お待たせお姉ちゃん! 解析が完了したよ!」
エストリヤが背後に目を向ける。
そこには、元のサイズの数十倍にもなる大砲が形成されていた。
「なんじゃその馬鹿デカい大砲!? あんた、そんなに大きくしても扱えないでしょ!」
「私が撃つんじゃないよ......創造魔法、ゴーレム!」
周囲の土が隆起しステラの下に集まる。それは次第に巨大な人型へと変形し、10メートルを超えるゴーレムが誕生した。
「よーく狙って......せーの、発射!」
巨大な大砲から放たれた弾丸は、戦車を跡形もなく吹き飛ばし塵に変えた。
その後、各地で応戦していた将から戦勝報告が上がり、いくつかの町村が破壊される被害を受けながらも、オルディア軍は撃退に成功した。
***
――ゴルト国の首都トレゾール、マモンザ城最上階
「マモンザ様、魔動装甲戦車アン・フェール・ソルセルリーが全損、魔動兵士と合わせ、3億4000万Gの損失となりました」
「構いません、もとよりこの程度で倒しきれるとは思っておりませんから。
レオ殿下が即位した祝い金代わりとしましょう」
黄金の海の中でマモンザは不敵に笑う。
彼にとって全てはただの損得に過ぎない、前哨戦が終わり両者は全面戦争へと向かいつつあった。




