第三十二話 火蓋を切る
メティスはレオに謁見する。
「面を上げよ」
王の呼びかけに応じる。
メティスの目に映ったその姿は、為政者としての後光が差し込むかのように輝き、しかしその中に漆黒よりも暗い炎が渦巻いていた。
(ほほう、これは中々......)
「何か面白いものでも見えたか魔法使い」
「いえ、何も我が君」
謁見は粛々と行われた。
トレゾールで起きたこと、メティスの実績などが読み上げられる。
魔法使いメティス•アトランティスタはオルディア王国に亡命。対魔動兵器の研究に取り組む事となった。
――王宮近くの崖に、一人の少女が佇んでいた。
その目に光は無く、ただ静かに謁見を眺めていた。
「骨董品の分際で、マモンザ様に逆らうなんて」
掌から零れ落ちた結晶が砕け、兵士が姿を現す。
「さぁ、獅子へ挨拶に行きましょう」
***
「では、メティスさんにはこれから対魔動兵器のスペシャリストとして、対策や装備の改良などを手助けしていただきます。
研究室などはまた後ほど作らせますので、一旦は待機してください」
その時、王の間の扉が開く。
鋼鉄の兵隊を従えた少女がレオに近づく。
「お前さん......どうしてここに......!?」
「骨董品に用は無いの」
少女はメティスを一瞥するなり吐き捨てる。
更にレオに近づこうとした時、近衛兵が一斉に刃を向ける。
「これ以上陛下に近づくな。僕が貴様らを斬る事になる」
「別に良いわ。私は伝言係だもの」
少女は映像機を取り出しボタンを押す。
画面の中には中年の男性が映っていた。
『御機嫌よう諸君、私はマモンザ・ゴルデリオ』
一同に緊張が走る。敵の大将が一体なんの用で連絡を取ってきたのか。
『おぉ殿下、いや失礼しましたレオ陛下。
陛下もご壮健なようで何よりでございます。10年ぶりでございますな』
「お前も変わらず薄汚い商売をしているようだな」
『薄汚いなどと......先代と変わらず頭の硬い御方だ。やはりオルディアは滅ぼした方が世の為ですな』
玉座から身を乗り出し、怒りに震えるレオをルークは必死に静止する。
『我がゴルト国は、あらゆる個性、魔法を凌駕した。
我が国は、我が軍は完全勝利を収める下地を作った。
これより我が国は、貴国に宣戦布告をする。
気に入ってくれたまえ陛下、富が全ての才覚に勝る瞬間を』
その時、衛兵が大急ぎで王の間へと駆け付ける。
「急報! 国境付近に謎の砦......いえ、鉄の馬が10体! 王宮に向かっているとの報告が!」
動揺が広がる。鉄の馬など聞いた事がない。一体何がこちらに向かっているというのか。
『鉄の馬など無粋な呼び方はやめてくれたまえ。
これは私から陛下への手向けの品なのだよ』
「......答えろマモンザ! 貴様、何を仕掛けた!?」
『超広域制圧用魔動装甲戦車アン・フェール・ソルセルリー!
世界を破壊する鉄火の砲声を存分に堪能してくれたまえ!』
(戦車だと!?)
マモンザの発言に何よりも驚いていたのはルークとメティスだった。
「マモンザ! 私はそんなものを作った覚えはないぞ!」
『当然だなメティス。君が作ったのは簡素な魔動火器と、戦争の役に立たん魔動品のみ。
だから我々は見た! 君の師匠のアーカイブを! 君の設計図を!
君が凡人と侮る我々は、その愚かさ故に研究を重ね、君達の叡智を吸収し改良した。
凡人を侮った報いだなメティス、君の驕った知恵の前に死にたまえ』
映像が途切れる。少女の指示により鋼鉄を纏った兵士が戦闘態勢に入る。
「ふざけた輩共だ! 陛下に仇なす全ては僕が切り伏せる!」
一閃で切り伏せる――はずだった。
「ブレイブ・キリア、武勇SSS、知略A、対象をS級カテゴリーの認識」
斬られたはずの兵士は無傷で立っており、衣服が斬られただけだった。
「なに!? ならば......!!」
ブレイブは渾身の力を振り絞って兵士に斬りかかる。
しかし、その体に傷をつけるのみで倒すことは出来なかった。
「流石S級カテゴリーね。魔動兵の肉体に傷をつけるなんて......でも、所詮はその程度ね」
ブレイブの猛攻は魔動兵には届かなかった。個性も魔法も超越した力、それはハッタリでは無かった。
王国最強の刃が毀れようとしていた。
「くだらんな」
レオが剣を振り下ろす。青く輝くルーン武器が鋼鉄を豆腐のように切断される。
「個性も魔法も凌駕した? だから貴様は薄汚いと言うのだ。
人間の積み上げてきた歴史を、研鑽した個性を、ただの通貨が凌駕するなどありえん!」
「魔動兵が斬られた!? あの剣は一体......!」
少女は残存している魔動兵を連れて退却しようとする。
「古代魔法、夢幻回廊」
突如、王の間の扉が閉まる。
「逃がさないよお嬢ちゃん、お前さん達のような存在は見たことがない。
禁断の秘術を躊躇いもなく使いおって......!」
「くだらないモラルで人類の発展を阻害する老害らしい物言いね」
メティスと少女が構え、呼吸を整える。
「我ら天に加護を受け地に生まれ、黒鉄の刃を以て運命を殺す。
億万の精霊が我が肉体を寄る辺とし、我が心の成すままに力を振るわん。
古代魔法、炎鎖双竜!」
「第三攻撃術式解放」
拮抗した弾幕戦が繰り広げられる。ルーク達は弾雨を避けながら魔動兵と斬り合う。
しかし、その体を切れるのはレオの刃だけだった。
(これ以上は埒が明かないわね)
少女は周囲を見回す。連れてきた魔動兵は全滅しており、少女一人となっていた。
「分が悪いわ、じゃあね」
少女の足元に魔法陣が展開され強い光を放つ。刹那、少女の姿が消え、鉄の残骸のみが残った。
「取り逃がしたか......私の結界魔法が破れるなんて」
「あれは......何者なんだメティスさん」
「あれは人造兵士......師匠が封印した禁断魔法の産物だ」
人造兵士、前世でさえ存在しなかった物がこの異世界で存在している。いや、存在できるようになったんだ。
想像が創造になった時、クリエイターとしての欲が生まれ、そして封印したんだ。
「相手が誰であろうがどうでもいい、敵は我らに宣戦布告した。
ならば剣を取れ! 槍を持て! 馬を引いて攻め立てよ!
己が喉元に剣を突き立てる不届き者を、血の一片すら残さず殲滅しろ!」
号令が轟く。
史上最も凄惨な戦争の幕が上がる。




