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BOOK

作者: 眞基子
掲載日:2025/11/20

               『BOOK』


                 (一)


原田理子は吉祥寺駅の北側にある成葎大学文 学部の三年生。子供の頃から警察官の父親に剣道を習わせられ、今では兄の遥祐共々剣道四段の腕前。埼玉県浦和市に実家があるが、大学入学を期に吉祥寺駅南口を五分程歩いた所にある一DKのマンションに越してきた。酷暑の夏が秋風に季節を譲ってきた日、授業が終わってからアーケイド街の店先を見ながら歩いていた。そして何気なく古本屋にぷらっと入った。推理小説が好きな理子は西ノ内太郎の推理小説を見つけ買った。夕食後、バッグから本を取り出すと、中程のページが他より微妙に波打っている。もちろん古本だから新書のようにはいかないが、そこの何ページかが浮いているのが気になる。いつもは最初から読み始める理子だが気になって真ん中あたりを開いた。そこには行間に小さな文字がボールペンでびっしりと書いてあった。「あらっ、やだわ。いくら古本でもこれじぁ」と、ぶつぶつ言いながら書いてあった文字を読んでみた。狭い行間に書かれた文字は、ただでさえ読みにくいのに独特の字の下手さである。

『一九九九年九月九日午前二時十五分、私は江東区のアパート真珠荘二○三号室の高田良太さんを刺殺しました。寝ていた良太さんの顔に座布団をかぶせると同時に胸を二箇所、太ももを一箇所刺しました。でも、私と高田さんとの間には何の接点もありません。これはゲームです。この本を手にした人は私を捕まえられますか?私は時効になるまで絶対に逃げ切ってみせます』

「何これ、いたずら書きじゃない。気味が悪いわ」

理子は本を処分しようと思ったが何となく気になり、ついつい恋人の佐々木愼司のラインに電話が欲しいと入れた。愼司は警視庁捜査一課の刑事なので、仕事中の場合もあり簡単に電話を掛けられない。でも、すぐに返信があった。

 「どうした、何かあったのか?」

 「今、大丈夫?」

 「ああ、うちの班は待機だ。そろそろ帰ろうかと思っていたんだ」

 愼司のマンションは何か事件が起きた時すぐ駆け付けられるように、警視庁へ地下鉄一本で行ける四谷にある。

 理子は簡単に古本の事を言った。

 「分かった。これから理子の所に行くよ。実物の本を見たいしな。何か食べるものあるか?」

 「大丈夫、作っておくわ。でも、事件じゃないのに、わざわざ来るの大変じゃない」

 「理子に会うのは事件より重要な案件だな」

 理子は笑いながら電話を切ると、料理を作り始めた。一時間もしないうちに愼司が来た。愼司はハンバーグやサラダ、コーンスープが並んだテーブルで食べ始めた。一息ついてコーヒーを飲み始める前に言った。

 「例の本を見せてくれ。理子も本を相手じゃ竹刀で叩く訳にはいかないからな」

 「もう」

 理子はテーブルの端に置いていた例の古本を愼司の前に滑らせた。愼司はいつもの習慣でビニールの手袋をしてから本を取り上げ、本の真ん中辺りを開き、例の文字を何度か読み返した。

 「まあ、完全に時効だな。いつ書いたのか分からないが、きっと書いた時は新書だったのかな。しかも、二十六年も前の事件だ。一応、事件が本当に発生していたのか明日調べてみよう」

 愼司は丁寧に本をビニール袋に入れ、バッグに仕舞った。理子はポットから二つのカップにコーヒーを注いだ。

 「明日、これを買った古本屋さんに聞いてみようかしら。でも、いちいち売りに来た人の名前なんか聞かないよね。ましてや、ボロボロの本なんて、いつ仕入れたなんて分からないだろうし」

 理子はコーヒーを飲みながら言った。

 「そうだな、悪戯書きの可能性もあるし、内容がハッキリするまで関わらない方がいいよ。古本屋さんには、関係がないことなんだから」

 「そうね。それより私、来年四年でしょう。いよいよ就職活動が本格派するみたいだわ。しかも、友達なんか今から動いているみたい。私、お父さんやお兄さんみたいに警察官になろうかな。愼司の同僚になったりして」

 理子の父親の清義は埼玉県警大宮署の署長で兄の遥祐は埼玉県警捜査一課にいる。愼司の父親は北海道警の交番勤務だった。両親が歩行中、飲酒運転の車に撥ねられ即死した。愼司が中学二年の時だった。一人っ子の愼司は祖父母の家で高校まで過ごした。父親と同じ警察官を目指した愼司は東京の大学に入り、遥祐とは大学で出会った。遥祐は愼司の事情を知り、二人して警察官を目指した。その後、二人は警察学校の同期になり、お互い切磋琢磨して刑事を目指した。理子は小学六年の頃から愼司を知っている。二人と一緒に食事なんかに連れて行ってもらったりしていた。愼司も兄妹がいないせいか理子を妹のように可愛がった。その意識が変わったのは、理子が埼玉の高校から成葎大学に入り一人暮らしを始めた頃、遥祐に理子を頼むぞと言われた事がきっかけだった。休日に理子を誘うようになり、妹から恋人に変わった。遥祐と愼司は共に二十七歳だが、遥祐は埼玉県警に入り、川越署に配属中に二歳下の新人警察官の志保に惚れて、二十四歳であっという間に結婚、今では柚という女児の父親である。結婚式に出席した川越署署長はじめ署員全員から、これは誘拐罪ではないかと揶揄された。遥祐は自分の事は棚に上げ、愼司に理子を泣かしたら詐欺罪だぞと言っている。愼司は、その前に俺が理子に竹刀で打ちのめされる暴行罪が成立しそうだと笑って答えた。

 愼司は理子を引き寄せてキスした。

 「理子の就職先は決まっている。卒業したら俺の妻になる」

 「えっ、それって横暴じゃない」

 「いやか?」

 「そうじゃないけど、それって結婚の申込でしょう。何かもう少しロマンチックな雰囲気で言うんじゃないの」

 「よし、今日は泊まっていこう。ベッドの中でロマンチックに囁くよ」

 一年前から愼司と理子は肉体関係がある。しかも、いつでも泊まれるように着替えなど一式置いてあるなど、同居同然だ。理子は愼司に甘い言葉を期待するのは無理かなと思いつつ、理子も久し振りに愼司に抱かれる事はチョット嬉しかった。でも、その夜、愼司の仕事用スマホに事件発生の無粋な機械音が入り、慌てて帰って行った。それから愼司は事件にかかりきりになり、理子も授業が忙しくなり、冬休みに突入していった。 

 理子は愼司とクリスマスイブに新宿のホテルでランチを摂ったのが事件発生以来で、久し振りに顔を合わせた。

 「事件が特捜になって忙しいから、プレゼントは終わってから二人で探しに行こうな」

 「うん、いいよ。事件はネットで見たけれど難しそうだね。それより身体に気を付けてね。もう、歳なんだから」

 「何だ、久し振りに会ったのに嫌味か」

 「正月になったら実家に帰るわ。可愛い柚ちゃんに会いたいし。それまでに解決できるといいね」

 「ああ、でも結構難しい事件だからな」

 勿論、事件の内容は極秘だ。

 「呼んでくれれば、私も竹刀持って応援に行くからね」

 「そんなことをしたら、俺は事件より理子に張り付いてるよ」

 愼司は笑いながら、事件に戻っていった。


                 (二)


 事件は北新宿の老朽アパート黄金荘一〇一号室で野田太郎さん(七十九歳)が殺害されていたのを発見された。十月一日の昼前、金融会社の男がチラシをドアの郵便受けに入れようとして何となく異臭を感じた。そっとドアのノブを回すと開いたので少し覗くと足が見え、怖くなって慌てて警察に電話した。それから北新宿署から捜査員や鑑識などが大挙して押しかけた。このアパートは一階に五部屋、二階五部屋ある。新宿駅西口界隈から少し離れ、その一画が取り残されたようにごちゃごちゃした場所である。検視の結果死亡推定時間は九月二十九日の午後十一時から三十日午前二時頃とされた。死体には複数の刺し傷があった。室内には争った後が無く、物色されたような形跡も見当たらかった。特捜になったのは、同日全く同じような状況の死体が真上の二〇一号室で発見されたのだ。捜査員が二〇一号室に行った時は施錠されており留守だと判断された。午後二時過ぎ再度行った別の捜査員が微かな異臭を感じ、大家に鍵を開けて貰い、同じような死体を発見した。殺害されていたのは吉見ふみ(八十三歳)。一〇一号と同じように争った後も無く、物色されたような形跡も無かった。検視の結果死亡推定時間は九月二十九日の午後十一時から三十日午前二時頃とされた。この遺体にも複数の刺し傷があった。これにより、二人の殺害は、ほぼ同時刻に行われたと決定づけられた。

 この異常な殺人事件に際し、北新宿署に特別捜査本部が立ち上がった。第一回の会議は北新宿署の大会議室で行われた。

 正面に並んだテーブルには、警視庁の本部長      戸島克人、その横には北新宿署の署長 澤井勉、少し間を開けて警視庁の刑事課長 田辺忠、横には警視庁の管理官 杉本謙二郎が座っている。

 杉本は立ち上がると、目前に座っている三十人超の刑事達に向って話し出した。

 「皆も今回の事件の異常性については承知しているだろうが、まずは被害者について北新宿署の中村刑事から分かってことを説明していただきたい」

 指名された中村は立ち上がり、手帳を片手に話し出した。

 「事件の概要は皆さんのお手元にあるとおりですが、一番のネックは被害者二人の身元がハッキリしない事であります。大家に提出した二人の身元を証明する住民票は偽造したものだったのです。入居時期は二人共三年前。大家によると、野田太郎が入った一ヵ月後に吉見ふみが入った。アパートの老朽化で三年で建て替える予定なので、それまでの住民は全員退去した。その後、三年でいいから置いてくれと、野田太郎と吉見ふみが相次いで頼みに来た。それで三年後に出ていく条件で貸した。また、一年で定年になる六十歳の男性、今井源次が一〇五号室に入った。大家は三年間の小遣い稼ぎのつもりだったと証言している。勿論、今年の十一月末に退去する事を記入した契約書と身元確認の為、それぞれ住民証も提出してもらい大家が保管していた。今井源次は品川にある板金工場の夜勤で働いている。九月二十九日の午後九時から三十日午前六時まで働いていたのは確認がされている。つまり、二人が殺害された時間は他に誰もいなかった、犯人以外は。一〇五号室の今井は仕事が十月一日付けで定年退職するので仕事が終わった後、数人の仕事仲間が送別会を開いてくれ、アパートに戻ったのは三十日の午前十時頃で帰宅後すぐに熟睡し、起きたのは一日の夜中だったと証言した。夜勤の仕事柄、一〇一号室の野田さんと二〇一号室の吉見さんとも一度も会ったことがないと証言している。翌日十月二日に手荷物を持って群馬の実家に帰る予定で、殆ど無かった家具一式の処分を大家に頼んでいた。群馬の実家の両親が共に歳をとり、いつ介護になってもいいように帰郷することにしたという。今井は四十代の頃妻が病死。子供も無く一人で暮していた。自分自身の歳も考え、故郷に戻ることにしたと言った。今井のアリバイは完璧であり、群馬の実家についても本人の言う通りなので帰宅させた。何か思い出したことがあったら、連絡するようにと付け加えて。以上です」

 中村は礼をして着席した。杉本は、再度全員を見渡し言った。

 「捜査方針としては、班を二つに区切りたいと思います。一班は被害者の人定、二班は防犯カメラのチェックと付近の飲食店やスーパーでの被害者の生活状況について」

 捜査員たちは警視庁の刑事と北新宿署の刑事達の混合で、二班に分けられた。愼司は一班の被害者の人定に入り、北新宿署刑事の高橋昇と組んで吉見ふみの人定を調べることになった。まず、どのようにしていくか二人で話し合った結果、人は嘘を付くとき無意識に過去の記憶を浮かべる事もあるんじゃないかということで、吉見ふみが偽造していた住民票に書かれた住所、埼玉県入間市に行くことにした。まずは県境を超えるので警察の流儀として、埼玉県警に連絡を入れることにした。これには、愼司が遥祐に連絡し簡単に片付いた。遥祐は、いつでも援護するぞと一言付け加えてくれた。

 まず、二人は入間市役所に向った。ここで行方不明者の届け出を調べると一発でビンゴ。まだ確定ではないが四十年前に三井芳子という女性が突然姿を消した。当時、四十歳で今なら八十歳という。夫と当時十二歳の娘を残して行ったという。原因も分からず夫はすでに他界、娘は結婚して大阪に住んでいるという。後は三井芳子という女性の遺留品があれば確定できるのだが、なにせ四十年前の事である。当時十二歳の娘が母親の品を持っているとは考え難いが一応確認してみようということになった。遥祐に、お礼がてら連絡すると折角来たんだから、当時の娘のママ友に話を聞いてみたらどうだと言われた。遥祐が娘の通っていた小学校を割り出してくれたので行ってみることにした。小学校の校長先生が熱心に調べてくれ、七十八歳になる富岡基子の子供が通っていた事を調べ上げ、今も入間市内に住んでいるという。ママ友かどうかは分からないが、連絡先まで調べてくれた。早速、電話を入れると富岡基子に繋がり、午後三時過ぎに来てくれということで富岡の家に向った。基子は元気で居間に通すとコーヒーを入れてくれた。

 「三井芳子さんの事なら、よく覚えていますよ。子供が同じクラスで仲良くしておりましたから。ただ、突然いなくなって驚いていましたが」

 愼司は慎重に言葉を掛けた。三井芳子が殺害された吉見ふみと確認された訳ではなかったからだ。

 「三井芳子さんの物など持ってないですよね。四十年前の事ですし」

 基子は少し考え込んでいた。

 「そうねぇ。いなくなる少し前に貰ったペンダントくらいかしら。私、金属アレルギーで折角くれたから喜んで受け取ったけど、箱に入れたままになってるの」

 「それって、今でもお持ちですか?」

 「ええ、多分。仕舞いぱなしだから埃を被っているかも知れませんわ。ちょっとお待ち下さいね」

 基子は、そう言うと二階に上がって行った。高橋昇は小声で愼司に言った。

 「四十年前のペンダントからじゃ指紋は取れませんよね」

 「ああそうかもな。でも、娘の方に聞いても髪の毛なんか持っていない公算が高いんじゃないか。まずは、何でも調べてみるのが一番だよ」

 少し時間が経ってから基子は二階から下りてきた。

 「これですけど役に経ちますか?」

 煤けた箱の中にビニール袋に入っている青いペンダントが見えた。

 「これって出して触りましたか?」

 「まさか、さっきも言いましたけど金属アレルギーなので、貰った時のままですわ。ところで三井芳子さんが見つかったんですか?」

 基子の顔が少し怯えたようになった。

 「いえ、ただ、今は行方不明者の方が多いので。少しでも探し出したいと思っているんです。失礼ですが、このペンダントを少しの間、お借りできますか。勿論、なるべく早くお返しするようにします」

 「返していただかなくても結構ですわ。刑事さん達と話して思い出したくらいですから。それに、戻して頂いても捨てるつもりですわ、付けられる訳ではありませんから。あっ、警察の方ですものね。一筆書いておきますから。そちらで処分してくれるように頼むと」

 基子は本気で便箋に書くと、丁寧に富岡基子と署名して愼司に手渡した。一時間位してから基子の家を出た。果たして四十年前のペンダントから指紋が取れる可能性は低いが物証が出てきただけでも、埼玉県まで来た甲斐があった。遥祐に電話で礼を言ってから本部に戻った。

 本部に戻ると正面には戸島本部長と澤井署長の姿はなかったので、田辺課長と横尾課長それに杉本管理官の前に立ち、今日、愼司は高橋刑事と一緒に吉見ふみが偽造住民票に書いてあった埼玉県入間市に行った事を報告した。愼司は高橋に頷いて話し始めた。

 「四十年前に行方不明者の届け出が出ていた三井芳子さんが年齢的に合っていると思い、たまたま三井さんの友達だった人に会って話を聞いてきました。何しろ四十年前のことですが、この人が三井芳子がいなくなる四十年前頃、青いペンダントを貰ったのです。この人は金属アレルギーなので煤けた箱にビニール袋の中へ入ったまま、仕舞い込んでいたのを探して下さいました。これを借りてきたのですが指紋は難しいと思います。ただ、科捜研に出してみたいと思います。借りたのですが、この女性は四十年前に仕舞って忘れていたもので、しかも金属アレルギーなので処分して欲しいと頼まれました」

 愼司は、一応彼女が書いた書類を見せた。杉本管理官は書類を見てから二人に言った。

 「ご苦労だった。では、至急このペンダントを科捜研に出してくれ」

 愼司は、すぐに科捜研に行き、四十年前のペンダントだが一応指紋が検出できるか頼んできた。それから愼司と高橋は自分たちのテーブルに戻って今日の報告書を書いた。

 野田太郎の人定を担当した秋山刑事と北島刑事の方は難航しているらしい。野田が偽造していた住民票に書かれた住所は千葉県木更津市。こちらの方は木更津市役所には、行方不明者の中に男性で四十年前に四十歳前後の年齢に合致する者はいなかった。愼司達の方もペンダントからの指紋は科捜研待ちだった。夜遅く指紋が検出され、三井芳子と吉見ふみの指紋が一致したと連絡があった。身元が判明したのは大きな一歩だが三井芳子の四十年間の生活を解明していくのも大変な作業になる。だがどこかで、三井芳子と偽名の野田太郎の間に接点があるかも知れない。特捜の連中も一人の身元が判明したことで前進したとの空気が漂い始めた。もう一つ、二班が防犯カメラやスーパーでも被害者の生活状態が少しづつ分かってきた事があった。まず、当然ながら銀行などの通帳はなく、常にまとまった現金を持っていたらしく、家賃や電気代なども現金払いだった。でも現金の出処がハッキリしないし、殺害された現場には現金が残されていなかった。当然、殺害した犯人が持ち去ったということになる。それから三年間で防犯カメラやスーパーに一度も二人一緒にいるところが確認されていなかった。勿論、同時に殺害されたということは当然二人は関係がある。ましてや、二人共偽名で生活し、多額のお金を持っていたということは何らかの事件の共犯者か悪徳グループの一員か。まとまったお金を一度で手に入れるのには現金強奪が早いが、ここ四十年間に目立った事件は起きていない。後は、裏社会か政治の世界でひっそりと行われ、表に出ていない事件。年寄り二人も四十年前は四十歳そこそこ。闇の世界で動くには脂の乗り切った頃合いだったかもしれない。だが、夫と娘を捨ててまで入り込む世界。夫と娘の殺害を脅されて仲間に加わったとか。でも、それなら警察に訴えればいい。それが出来ない理由が三井芳子あったのか。一時、前進したとの空気が漂い始めた特捜の連中は、四十年間の闇の深さを思い知った。だが、立ち止まってはいられない。野田太郎の人定がハッキリすれば、三井芳子との関係も分かるかもしれない。三ヵ月近く動きが膠着状態に陥っていた時、吉祥寺署管内で殺人事件が発生した。愼司は第一発見者が婚約者だと言って、一日時間を貰い吉祥寺署に駆け付けた。


                 (三)


 事件は理子の近くで起こった。理子は十二月二十六日、正月に帰る時のお土産に姪の柚ちゃんへの可愛い洋服を買いに吉祥寺のデパートへ行った。洋服の袋を片手に持ち、久し振りにアーケイド街に行った。ふっと、あの古本が気になり、あれを買った古本屋に行った。扉が半開きになり、中は薄暗い。ああ、正月も近いから店仕舞いだよねと思いながら覗くと、奥の方に人の足が見えた。まさか店主の具合が悪くなり倒れたのかと思い、少し奥に進むと店主の村田孝が上向きに倒れ、胸にナイフのような物が刺さっていた。流石、警察一家産まれの理子は声を上げず、落ち着いて警察に電話を掛けた。そして、すぐに愼司へ電話を入れ、簡単な状況を説明した。それから吉祥寺署からどやどやと警察官が入ってきた。理子は発見当時の事を簡単に説明した後、吉祥寺署に連れていかれた。吉祥寺署に着くと同時に愼司が駆け付けた。愼司は自分が警視庁捜査一課の刑事と名乗り、警察手帳を示した。まず自分は理子の婚約者であり、理子の父親は埼玉県警大宮署の署長、兄は埼玉県警捜査一課の刑事だと告げた。このおかげで取調室に入らず、会議室に通された。その時、愼司はビニール袋に入った例の古本を差し出し、理子が事件の古本屋で三ヵ月前に買ったと言った。そして、この本の中に書いてある二十六年前の殺人事件が未解決であり、すでに時効になっている事を告げた。今回の事件と関係があるかどうかは分かりませんが、お渡ししますと言って古本を手渡した。

 吉祥寺署刑事課の成田課長が立ち上がり口火を切った。

 「この本が事件に関係しているかも調べてみます。事件の詳細は、これから鑑識などで調べていくが、また何度か話を聞くこともありますので、ご協力宜しくお願いしたい。警察一家なので事情は、お分かりだと思いますし、何といっても婚約者が警視庁捜査一課の刑事さんなら心強いでしょう。総力上げて犯人逮捕をしていきます。捜査課の堤刑事と山中刑事が担当します」

 成田課長の隣に座っていた堤と山中は少々緊張気味に立ち上がり礼をした。愼司の警視庁刑事の肩書が緊張させていたのかも知れない。愼司も立ち上がって礼をした。

 「事件は吉祥寺署にお任せ致します。第一発見者としての疑いもありましょうが、万が一犯人に狙われる事もありえるかも知れません。私として彼女は一応か弱い女性でありますので何かあったらと心配しております。私は今、特捜の事件を抱えておりますので、なかなか来ることもできませんので、見回りを宜しくお願いします」

 堤刑事は頷いた。

 「確かにアーケイド街は人が多く、ひょっとすると犯人が現場近くで見ていた可能性もあります。そうなると、店に入って行った原田さんに何かを見られたと思った可能性もあります。原田さんのマンションはオートロックですよね。でも、それを安心せずに注意して下さい。我々も見回りを強化します。後、実家など県境を超える時は、ご一報下さい」

 それでは指紋など細かい事が分ったら愼司に連絡すると言った。愼司は、そこまでしなくてもと思ったが、相手が言い出した事なので頭を下げた。それからマンションまで理子を送る事を言ってから、ようやく解放された。

 「マンションに戻る前に、スーパーで買い出しをしよう。暫く引きこもり生活があるだろうし。学校が休みで良かったな」

 二人で両手に袋を抱えて、マンションに戻った。理子は買ってきた食品を冷凍庫や食品棚にしまった。愼司はマンションの部屋に入ると、愼司はバッグから機械を出して、部屋や風呂場の隅々まで盗聴器でチェックしていった。理子は、それを見ながら言った。

 「そこまでするの?お昼は大分過ぎちゃったから、買ってきたパンでいいでしょう。コーヒーを入れるわね」

 「いままであまり考えて無かったけど、今回の事では入居する前にチェックすべきだと思った。俺の部屋は時々チェックしてるよ。事件のことじゃなくても、いやだからな。そうだ、コーヒーは後でいいよ。それより遥祐に理子の事件の事を話しておこう。吉祥寺署から連絡いく前に知らせておいた方がいいからな。それから、やっぱり理子は正月に実家へ帰った方がいいな」

 愼司は遥祐のスマホに電話を入れた。

 「ああ、俺だ。今、大丈夫か?」

 「駄目なら出ないさ。いや、お前からの電話は嫌な予感がするな。切るかな」

 遥祐は、笑いながら言った。

 「お前の予感は当たってるぞ」

 愼司は、理子が事件に巻き込まれた事情を話した。

 「俺もそっちに行きたいけど、県境を超えるとなると申請が必要だな。愼司、理子を頼むぞ」

 「勿論、理子に付いててやりたいけど、俺は今、特捜に入っているからな。出来れば吉祥寺署に申請して実家にいててくれた方が安心なんだけど」

 遥祐は少し考えた。

 「そうだな。こっちなら親父や俺の目が届くし。一応、親父に話して連絡するよ。お前は忙しいだろうから理子に電話する」

 愼司が話し終わったので、理子はコーヒーを入れ二人でパンを食べた。

 「私なら一人でも大丈夫よ」

 「いや、俺が事件に集中出来ないし。実家に行ってくれた方が安心だ」

 「そうだ、思い出したわ。吉祥寺署の人に一応か弱い女性だって言ったでしょう、一応って何。それに婚約者だって言ってたし」

 「そりゃ剣道四段で師範の腕前なんて言ったら警護してくれないだろう。もし、理子が襲われた時、竹刀を持っているとは限らないんだから。それに、俺だってベッドの中で理子に竹刀で襲われたら太刀打ち出来ないからな。それから婚約者って言ってた方が、ここに出入りしやすいだろう。ほぼ、本当の事だし」

 愼司は笑いながらパンにかじりついた。

 「それから、例の古本を渡したのは今回の事件に関係あると思ったの。あれを買った古本屋さんのご主人が殺されたから?」

 「それも少し考えたけど二十六年前の事だからな。でも、関係あるかないかは、吉祥寺署が調べるだろう」

 愼司は、パンとコーヒーで食事を終えると理子を抱きしめてから帰って行った。それから理子は遥祐から実家に戻るように連絡が入り、吉祥寺署の堤刑事に暫くの間、実家に戻る旨を伝えた。ある意味その方が吉祥寺署が理子に関わることなく事件に集中しやすいと思ったからだ。


                 (四)


 吉祥寺署は堤刑事や山中刑事を中心に店主の村田孝の周辺を調べたが殺害されるような恨みを買う人間ではない。父親が始めた古本屋を手伝い、父親が三十年前に亡くなってからは一人で店を切り盛りしていた。母親は孝が子供の頃、癌で亡くなっており兄妹もおらず、結婚した形跡もない。周りの店の人間関係も可もなく不可もなく付き合っていた。だから時効になっている二十六年前の殺人が書かれた古本を佐々木刑事から渡されたが、事件に関係しているとは思えず、その本を調べる暇もなかった。何しろ、古本屋に溢れる本に手を付ける事すら出来ない。だが、古書の中にも比較的新しい本も結構ある。読み飽きた人が幾ばくかの小遣いになればと売るのだ。そんな中に買ったばかりかと思われるような真新しい西ノ内太郎の推理小説があった。たまたま山中刑事の目に止まり、本を引き抜いた。現場では当然刑事達はビニールの手袋をしている。真新しい西ノ内太郎の推理小説をざっと捲ると、真ん中辺りのページに佐々木刑事から貰った古本のように、行間に書き込みがあった。

『二〇二十五年九月三十日午前一時、私は黄金荘一〇一号室で野田太郎さんと二○三号室の吉見ふみさんを刺殺しました。私は二人と面識があり、何の疑いも持たれず部屋に入りました。あまりにも不用心です。これはゲームです。この本を手にした人は私を捕まえられますか?今回は時効がありませんので逃げるスリルがあります』 

 この本が出てきたことは、すぐに特捜に伝えられた。そしてこれにより特捜の事件と吉祥寺署の事件がリンクされた。この驚きは愼司初め特捜の刑事達は勿論の事、吉祥寺署の刑事達をも引き込んだ。まず、特捜の会議に吉祥寺署の成田刑事課長と堤刑事と山中刑事の三人を加え、愼司が新宿で起きた殺人事件の詳細を話した。その後、堤刑事が古本屋の殺人事件について話し出した。

 「以前、佐々木刑事から二十六年前の殺人事件が記された古本を貰いましたが、その時点では今度の事件と関係ないかと思っていました。まさか、今回の事件に関連していると知り驚いています」

 愼司は立ち上がり、二十六年前の殺人事件が記された古本が手に入った経緯を説明した。 

 「新旧の本に共通しているのは、殺人の犯人であることを自供している事とゲームと言っている事でしょう。ある意味これは警察に対する挑戦ではないでしょうか。ただ、二十六年前の殺人犯が今回の殺人犯と同一人物との証拠はありません。そして、重要なカギは古本屋の主人である村田孝がなぜ殺害されたか。同じ店に犯行声明の本を置いていたのは村田自身何らかの関りがあるかと思います」

 北新宿署の高橋刑事が立ち上がった。

 「ということは、二十六年前の殺人と新宿管内の殺人と吉祥寺管内の殺人。この三件の軸に村田孝が存在するのでしょうか?父親が始めた古本屋をずっと守り続けた村田に殺人鬼の裏の顔があったとか」

 ざわざわした空気の中で杉本管理官が話し始めた。

 「今日は吉祥寺署の成田刑事課長始め、刑事課の方々に初めてお集まりいただき、一回目の合同捜査会議を開きました。これからは、それぞれの捜査員がお互い連携を密にし、情報を交換しながら事件解決に心血を注いで貰いたい。ゲーム等とふざけた犯人を絶対逮捕したい。事件が江東区と新宿区と吉祥寺に広がってきたので特捜を何度も開くのは非効率になる。ここは事件のハブとなり各陣営から上がってきた情報を整理し、また、それぞれの情報を纏め、還元していきたい。この後、特捜の刑事と吉祥寺署の刑事が集まり、事件の進め方を協議していただきたい」

 その後、特捜の刑事と吉祥寺署の刑事達は話し合い、それぞれの事件を調べながら、お互いの事件関係者と二十六年前の被害者、高田良太との関係。高田良太の事件は時効になっているので資料は少ないが、これについては警視庁の方で調べて、全員に報告することで決着した。また、愼司は新宿管内の被害者の一人の身元が三井芳子と確定したことで村田孝を調べるにあたり、三井芳子との接点がなかったかも注意して欲しい事を付け加えた。


                 (五)


 前進の兆しが見えたのは、年を越した一月四日。刑事達は正月も黙々と捜査に従事していた。その甲斐あったというべきか、新宿管内のもう一人の被害者、野田太郎の身元が村田徳次であることが判明した。北新宿署の北島刑事と高橋刑事が捜査中の昼食に江東区にある居酒屋に入り、独身の二人はミニおせち料理と名がつけられた料理を頼んだ。一応おせち料理の具材が少しづつ入っている。

 北島刑事は喜んで言った。

 「まあ、ちょっと間でも正月気分を味わえるよな」

 「そうですね。我々は正月でもカップメンを啜っているぐらいですから、今日は御馳走ですよ」

 そう笑いながら壁に貼ってあった小さな写真に目をやった。茶色に変色していたが写っていた人物は分かる。それを見た高橋刑事の目が釘付けになった。去年の九月に殺害された野田太郎だった。かなり若いが顔立ちはハッキリとしている。

 「どうした?」

 伊達巻を摘まみ上げていた北島刑事は高橋刑事の方に目を向けた。

 「これ見て」

 北島刑事は一旦伊達巻を皿に置くと写真に目を近づけた。

 「これは野田太郎だな」

 「間違いないよね」

 二人はさっさと食べ終わると、女将を呼んだ。店は正月ということで混んでいたが、女将は板長と店員に声を掛け、店の奥にある自室に二人を招き入れた。まず、高橋刑事が口火を切った。

 「お忙しいところ恐縮ですが、店に張ってある小さな写真に付いてお聞きしたいんです」

 女将は店に戻って写真を持ってきた。

 「ここに写っている男性ですが、どなたですか?」

 女将は写真の男性を見て言った。

 「ああ、村田徳次さんですね。この店は私の父親が起こしたんですが、その時からいる人で調理場で働いていました。父親は十一年前に亡くなったので詳しくは知りませんが。私は結婚して京都の方で料理屋をしていたんですが、十年前に父親が癌に罹ったので戻って来ました。その頃、私も夫と夫の家族と折り合いが悪く離婚を期に戻り、一年間介護していましたが父親が亡くなり私が継ぎました。父親が亡くなると村田さんは辞めていきました」

 「村田さんの履歴書など、住所が分かるものがありますか?」 

 「父親の友達だったと聞いていましたが、そういう書類の類は見たことがありません。住んでいたのは、このビルの三階の部屋です。先程言ったように、父親の葬儀が済むと荷物を纏めて出て行きました。行先も聞いてません」

 北島刑事と高橋刑事は野田太郎なる人物に辿り着いたと期待したが、その先は不明だった。

北島刑事は高橋刑事に向って頷き、店を後にした。

 「まずは、野田太郎の人物が分かっただけでも、正月を不意にした価値があったな」

 でも、高橋刑事は何となくスッキリしなかった。

 「村田徳次という名前もハッキリしませんでしたね」

 「だが、多尾豊次郎の店で三十年前から住み込みで働き、十一年前までいたことは確認された。後は、特捜に戻って皆の意見を聞くことにしよう。それに、二十六年前の殺人現場が江東区の真珠荘だ。同じ江東区にある店というのも、引っ掛かるね」

 特捜では、吉見ふみに続いて野田太郎の身元が判明したことで、少し安心した雰囲気もあった。だが、そこで高橋刑事から村田徳次である確証は得られなかったと言ったことで、落胆した声も出てきた。愼司は高橋刑事に笑いかけた。

 「吉見ふみの時もそうだったが、身元を確定させることは難しいと思う。でも、北島刑事が言ったように、多尾豊次郎の店で三十年以上前から住み込みで働き、十一年前までいたという事実が確定したことは、大きな進歩だ。それと二十六年前の殺人現場が江東区というのも偶然かな。だが、二十六年前の殺人事件の被害者、高田良太さんは、当時二十歳で地方から出てきたばかりで場末の店でアルバイトをしていたらしい。何しろ、二〇一〇年に時効が撤廃される前の事件だから時効が成立している事件なので、調書もうやむやになってしまっている。江東区だけの括りじゃ難しいな。でも、村田徳次の十一年間じゃなく、黄金荘に来る前の八年間の居場所を探すのは、大分短縮できるな。何しろ、吉見ふみが三井芳子と判明したのは良かったが、その後、黄金荘に来るまでの三十七年間については、何も分からないからな」

 愼司は自分で言いながら、三十七年間を調べるのは大変だなと思っていた。そんなことを考えていた夕方、理子からラインが入っていた。今、マンションに帰ってきたと。愼司は夜そっちに行くと返信のラインを入れた。身体より気持ちが疲れていた。また、特捜の杉本管理官から正月も休めなかった刑事達に、この事件は長期間かかるだろう。焦るより身体を休めて動く方が効率的だと全員一日の休みを与えられた。勿論、交代で休みを取っていたが、誰かが働いていると気が急くし、のんびり出来ない。そんな刑事達の気持ちを汲んでの処置だろう。

 夜、理子のマンションに行くと、会った瞬間理子を抱きしめていた。クリスマスイブにランチを取ってからだから、大分会っていない気がした。

 「どうしたの、大丈夫?疲れているみたいね。最も、今度の事件は大変そうだけど。今晩はビーフシチューを作ったのよ、体力改善に。それに、実家から色々貰って来たの」

 愼司はキスしてから、やっと理子を離した。

 「俺は理子を食べたい」

 「もう、コートを掛けてから手を洗ってね」

 理子はせっせとテーブルにビーフシチューなどの食事を用意した。

 「何時まで居られるの?」 

 「明日は全員に休みを与えられたんだ。だから明後日行けばいい。ところで、学校始まったんだな。でも、戻ってきたこと吉祥寺署に連絡したか。事件は終わってないから安心できないぞ」

 「大学の単位は殆ど取っているから行かなくても大丈夫なの。でも、いつまでも実家にいてもすることないしね、柚ちゃんは可愛いけど。吉祥寺署の堤刑事には連絡したわ。また、見回りしますって言ってくれたの。それに私も愼司を食べたい」

 理子は笑いながら愼司の言葉を真似た。それから、正月の様子などを話した。

 「それで兄が気になることを言ってたの。人が姿を隠すには東京なんか人が多い場所がいいけど、金を得るとなるとゴチャゴチャした場所に潜り込むしかないんじゃないかなって。でも、うちの事件じゃないからな」

 夕食を終えるとコーヒーを入れて、ソファに座った。愼司は遥祐の言った言葉を反芻してみた。ゴチャゴチャした場所、江東区には入り組んだ場所も多い。四十年前なら尚更だ。三井芳子の三十七年間は、そういう場末にある店なら姿を隠しやすい。二十六年前の殺人事件も江東区から始まった。被害者の高田良太と三井芳子に何かしらの接点があったかもしれない。確か高田良太は上京してから殺害されるまでの短期間、場末の店でアルバイトしていたという。この場末の店を割り出せば。村田徳次が働いていた場所も江東区だ。それも気にかかる。愼司は理子を食べることより、事件に集中しだした。理子は何も言わずに横に座っていた。父や兄も事件に集中しだすと、周りへの意識が無くなる。愼司は明後日まで待てず、明日から一人で動く事を決めた。朝はゆっくりしてもいい。そう決めると、改めて理子を抱きしめた。

 「さあ、風呂に入って理子を食べるか」

 理子は、やっぱり愼司にロマンチックを求めるのは無理かと首を振った。


                 (六)


 翌日、愼司は遅めの朝食を取ると江東区に向った。まずは、二十六年前の殺人事件の現場となった真珠荘に向った。今、アパートの敷地は駐車場になっていた。駐車場の管理は不動産屋になっていたので、まずは江東不動産を訪ねた。愼司は警察手帳を見せると、責任者に会いたいとの旨を伝えた。応対した五十代の所長は、今西貢と書かれた名刺を差し出した。

 愼司はどっぷりと太った今西に聞いた。

 「かなり昔の事になりますが、真珠荘で起きた殺人事件の事をご存じですか?」

 「勿論、私が本社から来て間もなく起きた事件でしたから。ショックでしたよ」

 「当時の真珠荘の持ち主は、今あの駐車場を持っているのと同じ人ですか?」

 「あの当時、アパートの持ち主は亡くなった夫から相続された轟愛子さんという方で、あの事件の後、気持ちが悪いからと当社に売り払いました。ですから駐車場は当社の持ち物で、勿論管理しております。確か轟さんは実家の方に帰ると言ってました。その後、亡くなったと聞いてはいますが。其の時、八十歳位でしたし」

 愼司は、当時の真珠荘の持ち主に話が聞けたらと密かに期待していたが、亡くなったとなれば仕方ない。

 「当時、真珠荘に住んでいた人は分かりませんかね?」

 今西は少し考えるように視線を上に向けた。

 「小さいアパートでしたし、管理も轟さんが一人でやっていたと思いますよ。私も先程言いましたように私が本社から来て間もなく起きた事件なので、詳しくは知らないんです。ああ、事件が起きる少し前に、高田良太さんが中年の女性とドアの前で親しげに話していたのを見たことがありますよ。私は母親かなと思った記憶があります」

 愼司は、意気追い込んで三井芳子の写真を見せた。

 今西は写真を凝視していたが首を振った。でも、それより大きな収穫があった。

 「話していたのが、この女性かどうか分かりませんが、この人吉見ふみさんじゃないんですか?」

 愼司は仰天した。ここで吉見ふみの足跡が掴めるとは思ってもみなかった。

 「あなたは吉見ふみの事を知ってるんですか?」

 「あの殺人事件から大分経って、たまたま一人で入った飲み屋で名前は『ぼろや』というんですが、建物も名前の通りぼろでしたね。狭い店でカウンターだけでしたよ。安いので何度か行ったんです。そこの店は中年の男と中年の女がいました。男は無口で女が飲み物やツマミをカウンター越しに出していましたよ。女も愛想は余り良くは無かったけれど、こっちも酔った勢いで夫婦かと聞いたら、女が私は吉見ふみよ、他人だからって店主を見て笑っていました。もっとも私は店主の名前なんか知らないし気にしていませんでしたからね。でも、中年の小母さんにしては元々美人だったかとチョット思いましたがね、こっちは酔っていたし」

 「その飲み屋を教えてくれませんか?」

 今西はÅ4のコピー用紙に地図を書いてくれた。

 「ここから南砂町駅に向う間にあったんです。細い道路で迷路のような所にあったんですが、今は店主が亡くなって閉店になっていますよ。建物があるかどうかも分かりませんが。ここ三年程あちらの方へ行ったことがないのでね」

 愼司は三年前というと、三井芳子が例の黄金荘に入った時期だ。愼司は今西に礼を言ってから書いてくれた地図を頼りに、まずは『ぼろや』へ行ってみた。確かに迷路のように道が複雑に交差していた。『ぼろや』は跡形もなく、更地になっていた。更地を見ても店が如何に狭かったが分かるようだった。近隣で聞いてみたが、三年で大分様変わりして小さな建売の家が並び、

『ぼろや』を知っていた人も迷惑に思っていた人が多く、夜間営業のせいか店主の顔を知らない人も多かった。愼司も先ずは店主の事を知ろうと、江東区役所に行ってみた。またしても驚かされた。最初、店の名義人は多尾豊次郎になっていたが、三年前、つまり山岡修が病気を発症した時点で多尾豊次郎から山岡修に変更され、『ぼろや』はすぐに解体された。死後、山岡修の全財産は芳子に渡されたと思われた。二十六年前の殺人事件の被害者、高田良治と三井芳子更に居酒屋の多尾豊次郎そして友人関係だという村田徳次が、江東区の狭い範囲で繋がっている。多尾豊次郎と『ぼろや』の店主との関係、これは確認が取れていないが高田良治のアパートで見かけた中年の女性が三井芳子だったかもしれない。迷路は道路ではなく、人間関係の方が複雑に絡み合っている。愼司は一人で動くのは無理だと判断し、明日の特捜で報告しようと頭を切り替え、理子のマンションに帰った。

 「おかえりなさい」

 理子は元気に出迎えた。

 「どうしたの。出掛けたときは張り切っていたのに疲れた?」 

 「身体より頭が疲れたよ。遥祐の言うようにごちゃごちゃした糸が絡まってね」

 「じぁ、今晩は鍋にするわ。ビールで頭を冷やしてね」

 理子は、いそいそと台所に立った。愼司は理子の後姿を見ながら言った。

 「後、一年待てないな。帰ってきたら理子が迎えてくれるとホッとする。うん、学生結婚しよう」

 理子は笑いながら振り返った。

 「そんなこと言ったら、お兄さんに怒られるわよ」

 「あいつは、二十四歳で結婚してるじゃないか」

 「あら、その分愼司は若い私をお嫁さんに出来るじゃない」

 警察官は事件を追い掛ける、犯人を逮捕し被害者の無念を晴らすために。それに生き甲斐を感じる、それは確かだ。だが、往々にして相対するのは悪人だ。ふっと心が疲れる時がある。その夜、愼司は風呂から上がると理子を待つことなくベッドで熟睡していた。理子は愼司の寝顔を見ながら、チョットな可愛いなと思った。


                 (七)


次の日、愼司は特捜に行くと、すぐに杉本管理官に昨日の事を報告した。

 「何だ、折角休みをやったのに。でも、その情報は貴重だな。よし、みんなが集合したら話せ。そこで、これからの動きを決めよう」

 全員が集合した時、愼司は立ち上がった。

 「三井芳子が『ぼろや』という飲み屋で三十七年間、働いていたこと。その『ぼろや』の店主は山岡修という人物。芳子と同じ位の年齢だが関係は不明三年前に死亡。そして『ぼろや』の名義人は、最初多尾豊次郎だったが、後に山岡修に変更されている。これは未確認だが、二十六年前の殺人事件で殺害された高田良太と芳子らしき中年の女性が知り合いだった可能性がある。村田徳次も『ぼろや』で芳子と顔見知りだったと思う。まず、『ぼろや』の店主の山岡修と、まだ未確認の村田徳次の正体。三年前に三井芳子と村田徳次が相次いで黄金荘に来たきっかけは『ぼろや』が廃業した事かも知れません」

 杉本管理官が立ち上がった。 

 「高橋刑事と北島刑事は、多尾豊次郎の居酒屋で娘の田代恵子に話を聞きに行く。『ぼろや』の一時期、名義人としていたのを聞いているか。そして、引き続き村田徳次の氏名確認。佐々木刑事と秋山刑事は『ぼろや』の店主の山岡修の死亡した後の遺体の引き取り手を調べる。四十年前、三井芳子が駆け落ちした相手かどうか。また、高田良太と関係があったかどうか。そういえば、村田徳次に前科なんか無かったんだよな」

 北島刑事が立ち上がった。

 「殺された時、司法解剖しましたが指紋は前科者リストには乗っていませんでした。それ以上チェックしていません。でも、不起訴だったり、少年法だったりした事までチェックしていませんでした。まず、大至急調べます」

杉本管理官の指示に従って、他の刑事たちもそれぞれ動き出した。愼司は秋山刑事と共に、三年前に亡くなった『ぼろや』の店主、山岡修の遺体の引き取り先を調べる為、江東警察署に向った。手こずるかと思っていたが意に反し、遺体を三年前に引き取ったのは、甥の山岡竣で修の兄の息子だった。兄の雄二は八十二歳で存命だが、滋賀県草津市の病院に癌で入院中だという。愼司は山岡修と三井芳子との接点を知りたくて、滋賀県草津市の病院への出張を強引に杉本管理官に頼み込んだ。もし、二人が駆け落ちしたとしたら、それなりの理由があると思う。特に芳子は夫と娘を置いて家を出ている。たまたま埼玉で出会ったとは考え難い。杉本管理官の了解を経て、愼司は秋山刑事と次の日朝一番の新幹線で米原駅で乗り換え、JR東海道線で草津駅へ行った。病院名は聞いていたので、タクシーで直行した。兄の雄二は癌と聞いていたので心配していたが、思っていた以上にしっかりしていて、ベッドに座って話しだした。父親は錦糸町で居酒屋をやっていたが、理由は良く分からないが多額の借金を背負い、雄二が高校に入ったばかりで修は中学二年だった時、夜逃げのように父親の知り合いがいた滋賀県近江市に来た。自分は高校どころではなく、父親と一緒に小さな町工場で働いた。母親は気疲れのせいか、脳溢血であっという間に亡くなった。その時、知り合いの伝手で小さな寺に墓を作った。今は母親と父親と修が入っている。いずれ俺も入るだろうと。息子の竣は俺に似ず頭が良く大学へ行き、ここ草津で食品会社を経営している。ああ、それから三井芳子さんは結婚前は中野芳子さんといって、近所に住んでいた。修と同じ歳で恋人同志になっていったんです。その頃、修は居酒屋で働いていたんです。必死に金を貯め込んで二十歳をいくつか過ぎた時、芳子さんに結婚を申し込んだが向こうの両親に大反対され、芳子さんは泣く泣く強引に関東の会社員と結婚したんです。その後、修は結婚したんですが続かず、離婚すると関東の方へ行きました。三十半ばだったと思います。場所は知りませんでした。あれから何十年も経って遺骨で戻ってきたんです。でも、芳子さんのご主人と娘さんには申し訳ありませんが、四十年近く一緒に暮したとしたら、修に取って幸せな人生だったと思います。

 愼司は雄二の話を聞いて、芳子が家庭を捨て、修と駆け落ちした理由が分かった。修が中学二年位まで錦糸町に住んでいたら、多尾豊次郎や村田徳次(仮)と幼馴染みだった可能性もある。

『ぼろや』で、飲み屋をやる下地も滋賀の居酒屋で働いていた事で分かる。愼司と秋山刑事は、その日の内に特捜に戻った。

 夜、八時の特捜会議で愼司は秋山刑事と一緒に滋賀県で得た情報を話した。

 「滋賀県で修の兄、雄二に聞いた修と芳子の馴初めを聞き、修が東京に戻り、どこかで芳子と再会し駆け落ちした。後は中学二年まで錦糸町に住んでいた修が、多尾豊次郎と村田徳次と接触があり、友達関係であったとしたら夜逃げした修の為に『ぼろや』を多尾豊次郎の名義を貸した事もわかる。資金は修が芳子と結婚資金として滋賀県で稼いだ金を貯め込んでいたという。他の女性と結婚も三ヵ月で破綻したというから、修は芳子への思いを捨てきれなかったらしい。『ぼろや』があった所は中古の家で最初は修が住んでいたらしい。関係者三人が死んでいるので細かい状況は分からないが、修が芳子と出会った事で飲み屋に改造し、芳子と暮しだしたと思われる。三井芳子と村田徳次は修を介して知り合いだった。ただ、その二人を同時に殺害する犯人との関係が分からない」

 高橋刑事は話し始めた。

 「多尾豊次郎の居酒屋で娘の田代恵子に聞きに行ったところ、『ぼろや』の事はまったく知らず、相続の書類も無かった。多分、固定資産税などは、ずっと山岡修が払っていたのではないかと。修は病気が発覚した時、名義を多尾から山岡に変更した後『ぼろや』を解体した。その後、土地は三井芳子に寄贈したらしい。もう一つ、不明だった村田徳次の氏名が判明しました。本名は田村次郎です。前科どころか十二歳の頃、倒れていた老女を助けたとして表彰されていました。歳は生きていれば修と同じ八十歳。多尾豊次郎と山岡修と田村次郎の接点は判明していません。それぞれ小学校は違いますが、遊び友達だったようで三人で錦糸町駅近くの裏道で一緒にいるのを見た人がいました。もっとも、何十年前の事でハッキリしていません。多尾豊次郎の父親が東陽町の方で食堂を経営していた事、山岡修の父親は夜逃げするまで錦糸町で居酒屋を経営していた事。田村次郎が表彰されていた時は母親が付き添い、父親は千葉県にいたらしいが、犯罪者ではないので表彰状を進呈した。何しろ、全て何十年前の事です。田村次郎が村田徳次の偽名には共通点あります。ただ、田村次郎が何故偽名を使ったのか、その理由が分かりません。だが、多尾豊次郎が亡くなってから、黄金荘で殺されるまでの八年間の居場所は山岡修の『ぼろや』だった可能性があります。三人の絆が強ければ。でも、幼馴染みの関係が何十年経っても続いていた事には疑問があります。もし、多尾豊次郎と山岡修と田村次郎三人の間に秘密にしなければならない事があるのかと思います。それには、何か事件に関わる臭いがします。田村次郎が偽名を使わらざる得ない事」

 話を聞いていた阿部刑事から質問が飛んだ。

 「老女を助けたとして表彰された人物が事件を起こしたという事ですか?しかも十二歳の頃です。山岡修は中学二年の時、父親の夜逃げで滋賀県に行っています。もし、何かの事件が起きたとしたら、偽名を使っていた田村次郎の単独事件ではないでしょうか。多尾豊次郎は父親の食堂を手伝い、亡くなった後、自分で居酒屋を始めています。順調な生活を送っていると言ってもいい。一つ気になるのは、田村次郎が表彰された時、母親だけが来て、父親は千葉県の方にいると言われたことです。勿論、犯罪どころか表彰された子供について、警察は何も関与しなかったのは当然ですが。万が一、田村次郎と母親が千葉県の方で父親を殺害していたら。考え過ぎですが」

 杉本管理官は、それぞれの話を聞きながら言った。

 「三井芳子と山岡修の駆け落ちについては、理由が判明したと言っていいだろう。多尾豊次郎が居酒屋を始めた理由もおかしな点は見当たらない。今、阿部刑事が言った事だが万が一、田村次郎と母親が七十年位前に父親を殺害したとしても、田村次郎も他の連中も子供だ。しかも、とっくに時効は成立している。今度の一連の殺人事件と関連づけるのは無理があると思う。まずは、三井芳子の偽名については理由が分かった。後は田村次郎一人に絞り、偽名を使った理由、使わざるを得なかった理由を重点的に調べる。また、吉祥寺署の古本屋の村田孝とも関係が無かったかチェックを行ってくれ。佐々木刑事は婚約者が第一発見者ということもあり、吉祥寺署と密に連絡を取り、事件の進捗状況を含め、協力するように」


                 (八)


 早速、愼司は吉祥寺署の堤刑事に連絡をとり、これから暫く吉祥寺署の事件に協力するようにとの指示を受けたので、宜しくお願い致しますと伝えた。

 吉祥寺署に着くと、堤刑事から事件の進捗状況を聞いた。

 「店主の村田孝については以前報告した通り、これといった問題を抱えていたとの証言はありませんでした。でも、二十六年前の殺人事件が書かれた本があったこと、さらに、新宿の殺人事件が書いてあった新刊があったのは確かです。これは、私が個人的に考えている事なんですが、犯人が吉祥寺に住んでいるのではないか、どう思いますか?もし、遠くに住んでいるのに、わざわざ吉祥寺の古本屋に置くというのは、何か理由があるとすると、やはり村田孝との関係があるということになります」

 愼司は堤刑事の意見も一理あると思った。犯人像が一切見えていない状況では、あらゆる方面から詰めていく事も必要だと感じた。

 「少し、一人で村田孝の周辺を調べてみたいと思います。更に堤刑事のおっしゃる事も頭に入れて、まっさらな考えで動きたいんです。それに、吉祥寺に住んでいるかもとの事は、婚約者の事も心配になりまして。邪魔しないようにしますので、宜しくお願いします」

 愼司は理子にラインで暫く理子のマンションに住むと連絡を入れた。それから、今は閉められている古本屋に向った。事件も時間が経つと人々の関心は薄れ、アーケイド街は普段の日でも結構に人が行き来していた。監視カメラはあっても、いつ本を置いたのか分からない状況では役に立ちそうもない。堤刑事の言っていたように、住んでいる場所が遠くなら、わざわざ吉祥寺まで来る理由がない。その理由が近所に住んでいるか、古本屋の村田孝と何らかの関係があるのか。それに村田孝を殺害する理由が新宿の殺人事件を書いた本を置くところを見られただけで殺害するとは思えない。愼司は、田村次郎の偽名が村田徳次の村田と村田孝の名字が同じ事だというのが関係しているのか。でも、年齢は一回りも違うし、錦糸町あたりで住んでいた田村次郎と吉祥寺で住んでいた村田孝との接点はないと思う。もし、何らかの接点が出来たとしたら、大人になってからかも知れない。まずは、徹底的に村田孝の人生を調べていくしかない。それに二十六年前の殺人事件と新宿の殺人事件について本で自供している。だが、村田孝の殺人事件については本に書いていないのか書いてはいるが、その本がどこにあるのか分からないのか。はたまた、村田孝の殺人事件の犯人は別人なのか。村田孝は父親の古本屋を手伝い、父親の死後古本屋を続けている。独身を通していたが、女性との付き合いは全く無かったのだろうか。孝を知る周りの店主はこれといった問題は無かったと証言している。孝は小、中、高校は地元の学校に行っていた。堤刑事によると、大人しい生徒で友達付き合いも殆どなかったようで、孝の事を覚えている人達は少なかった。卒業後は父親の店を手伝っていたので就職したことはない。愼司は何か、例えば趣味で付き合いがあったかも知れない。その時、ふっと思った。あの本に書かれていたゲームとの言葉。ゲームを通じて友達がいたかもしれない。パソコンの中では顔を見ずに繋がる事ができるんじゃないか。その友達が犯人で、何らかの拍子に出会ってしまった。孝は相手が殺人犯とは知らずに。

 そんなことを考えていると、理子からラインが入った。今晩の夕食は、おでんにしたからねと。愼司は急に理子に会いたくなり、ゲームについては明日から調べてみよう。堤刑事に直帰の電話をしてから、理子のマンションに行った。

 「おかえりなさい」

 愼司は理子の声を聞いただけで、一瞬で疲れが取れる。内心やっぱり一年は待てないなと思う。理子は大学の単位を殆ど取れたので、後は四年生になるだけの状態だ。夕食の支度をしながら理子が言い出した。

 「暇だしバイトでもしようかな」

 「まだ、犯人が逮捕されたわけじゃないんだぞ」

 「私が犯人を見たわけじゃないし、そんなことを考えていたら買い物にも行けないじゃないの」

 確かに理子をマンションに閉じ込めているわけはいかない。犯人逮捕が最優先だが、すぐにというわけにもいかないだろう。勿論、常に愼司が理子に付いて回ることも出来ない。

 愼司は、おでんの大根をつつきながら、さっき考えていた事を理子に聞いた。

 「理子、ネットなんかでゲームした事あるか?」

 理子はがんもどきを摘まみながら言った。

 「私、本は好きだけどゲームには興味ないわ。どうかしたの?」

 「いや、俺はゲームをよく知らないけど、あれって対戦する相手の事は分からないんだよな」

 「そうよ、お互いハンドルネームしか知らないもの。ただ、チャットしながらできるらしいわ」

 「ハンドルネームか、チャットしながらということはお互い会話できるということだよな。理子知ってるじゃないか」

 理子は笑いながら愼司を見た。

 「大学の友達の中には嵌っている人もいるみたい。まあ、暇潰しみたいなもんだからね。私は、そんなもので時間を無駄にしたくないわ」

 愼司は明日、村田孝がゲームをしていたか調べてみようと決めると、温かいおでんと理子で身体も心も暖まった一夜を過ごした。

 次の日、愼司は堤刑事に村田孝のパソコンにゲームをしていた形跡があったかどうか聞いた。

 「勿論、パソコンに付いては調べましたが、怪しいことは無かったですよ。でも、消去された部分についてはチェックしていませんでした。すぐに、パソコンを調べて貰います。さすが佐々木刑事ですね。古本屋を経営していたとしても、周りと関わらず引きこもりみたいな感じでしたよね」

 パソコンの結果は早々に判明した。やはり、以前からハンドルネームでゲームをしていた形跡が見つかった。ゲーム会社に調べてもらうと相手の名前が判明した。千田幸一、五十六歳。しかも、住所は二十六年前に殺人事件があったアパート真珠荘だった。入所したのは二十年前だったので、被害者の高田良太と面識があったかどうかは分からない。でも、少なくとも古本屋の村田孝とゲームを介して接点があり、チャットしていた形跡があった。殺人など具体的に書いてはいないが、村田孝が何らかを感じ取った可能性はある。そうなれば、千田幸一が村田孝を殺害する動機がある。具体的には千田幸一の名前と写真が手に入ったことで、特捜も活気づいた。


                 (九)


 愼司は特捜に戻り、ゲームがキーワードになった背景を言った。

 「後は千田幸一の生い立ち、更に二十六年前の殺人事件の現場であるアパート真珠荘に入った経緯、新宿の殺人事件の二人との関係が重要になってくると思います」

 杉本管理官は全員に目を向けて言った。

 「まずは、千田幸一を徹底的に調べる。その過程で新宿の殺人事件の二人に結びつく事案が出てくるかも知れない。よし、全員で当たってくれ。吉祥寺署の方にも千田幸一の写真を転送したから、村田孝が殺害された日に千田幸一がアーケイド街で写っているか監視カメラをチェックし、又、見かけた人物がいるかどうか総動員を掛けたそうだ。それから、千田幸一が自分の身辺に捜査の手が回ってきたと感じたら、何をしでかすか分からない。佐々木刑事は第一発見者の原田さんの警護も兼ねて吉祥寺署に詰めてくれ」

 愼司も杉本管理官が言うように追い詰められたと感じたら、東京を離れるか、どこかに潜伏するか。パスポートを持っていないのは確認済みだから海外に逃亡する事はない。まさかと思うが一人暮らしの理子のマンションを狙いかねない。

 愼司は、すぐに理子の携帯に電話を入れた。しかし、暫く鳴らしても理子は電話に出なかった。不安になった愼司は、堤刑事に電話を入れた。今度は、すぐに反応があった。

 「今、電話しようと思っていたところです。原田さんのマンションに来たところ、マンションのロビーに千田幸一がナイフを持ち、原田さんの首元に突き付けています」

 「分かった、すぐ行く」

 愼司は、パトカーのサイレンを最大音量にして、吉祥寺の理子のマンションに向って走った。

 愼司がマンションに着くと、マンションの周りには警察官が取り囲んでいた。愼司は息を吐き、マンションのロビーの正面に立ちカードキーで開けて、ロビーの中に入った。理子はジッと愼司を見つめた。それからニコッと笑った。えっと思った瞬間、理子は後手に持っていた竹刀で千田幸一の手を叩きつけ、あっという間に

千田幸一の身体がロビーの床に転がった。愼司はナイフを蹴とばすと千田幸一の手首にワッパを掛けた。そして、すぐに理子を抱きしめた。ロビーはどっと入り込んできた警察官で溢れた。堤刑事は吉祥寺署に犯人逮捕の連絡を入れていた。

 「俺の命が大分縮んだぞ」

 愼司は理子を抱きしめながら言った。

 「じぁ、私との年齢が近づいたね」

 「これから、吉祥寺署で事情聴取が始まるよ。その後、俺がベッドできつく事情聴取をするからな」

 「うん、楽しみ」

 吉祥寺署に着いた理子は馴染みになった会議室でスラスラと話し出した。郵便物を見に行こうとエレベーターを下りてロビーに降り立つと、いきなり男がナイフを片手に羽交い絞めをしてきた。犯人が逮捕されていないから注意をするようにと言われていたので、出掛けるときは竹刀を持って行くようにしていた。マンションの住人が巻き込まれなくて良かったとも。まさか、理子が剣道四段の腕前とは誰も知らなかったので、千田幸一があっさりと床に転がったのには驚いていたが、後で聞いて納得していた。

 吉祥寺署の成田課長は驚きと共に言った。

 「流石、父上も兄上も警察官、更に恋人も警察官となれば、ご本人も何れ警察官ですね。楽しみです」

 愼司は内心、絶対に理子を警察官にはしないと思っていた。

 千田幸一の供述は村田孝を殺害した後、理子が古本屋に入っていくのを目撃した。警察官がどやどや来たので、慌てて横道に入り、様子を見ていた。理子の顔を覚えたので駅で暫く待っていると理子が戻り、後を付けてマンションを確認した。自分のことは分かっていないはずだと思った。村田孝のパソコンのゲーム関連は消去した。しかし、自分のハンドルネームがゲーム会社に問い合わせがあったと知ったので、慌ててアパートを逃げ出し、以前調べてあった理子のマンションで理子を拉致し逃げ出す算段を考えていたが、当の本人がロビーに現れた。咄嗟にナイフを首筋に当てて脅そうとした瞬間、警察官がマンションの前に現れた。それからは、一人の刑事が扉を開けてロビーに入ってきた。気が付いたら床に転がっていたという。

 これからは、千田幸一が二十六年前の殺人事件と新宿の殺人事件の二人に関与しているかどうか、調べる事は多いいが、少なくとも犯人を手に入れたからには、過去を追っていくしかない。

 

                 (十)


 吉祥寺署の事情聴取を終えると理子のマンションに戻った。部屋に戻ると、すぐに遥祐から愼司の携帯に電話が入った。二人共携帯の電源を切っていたのだ。

 「おい、理子は大丈夫だろうな」

 怒鳴るような遥祐の声が聞こえた。

 「ああ、俺の命が縮んだくらいだよ」

 愼司は今日の一部始終を話して聞かせた。遥祐は驚きもせず、理子ならなっと納得した様子だ。

 「後は事件の解明だな。そういえば理子がこの前、学生結婚の話をしていたぞ。まさか、お前がそそのかした訳じゃないだろうな。後一年くらいだぞ、待てないわけないだろう」

 愼司は溜息を付いた。

 「よく言うよ。お前は俺と同じ年で一児の父親だぞ。志保さんなんて警察に入った途端、退職じゃないか。まあ、現実的に大学へ通うのは難しいしな。今度の事で警察官にならないかと言われたみたいだが、それは絶対阻止するよ。俺も暫く忙しくなりそうだしな」

 愼司が遥祐と話している間、理子は唐の揚げとサラダと味噌汁を作っていた。愼司は遥祐と話し終わると理子に言った。

 「そうだ、俺がここに通えばいいんだな。愛人気分で」

 理子は下らない事をと首を振った。

 「あら、一年後に私が他の人と結婚したら、そうなるかも」

 「そんなこと俺が許さないぞ」

 「事件勃発ね」

 下らない事ですれ違った二人はベッドの事情聴取もなく寝入った。次の日も何となく会話が弾まず、朝食を済むと愼司は今日から暫く事件に追われるから、来れないかも知れないよと言い、事件の糸口が掴めた安心感と理子との間の初めての隙間風に戸惑っていた。愛人の言葉が理子を傷付けたのは分かっていた。冗談だったと思う自分と後一年待たなくてはいけないというプレッシャー。セックスではない。常に理子が側にいてくれる存在になって欲しいと思う俺の我儘。

 愼司は特捜に戻り、全員で千田幸一の過去を露わにする事に心血を注いだ。千田幸一は五十六年前、千葉県の養護施設前に捨てられていた。田畑に囲まれた市外地。千は千葉県から、田は田畑から、そして幸一は一番幸せな人生を送れるようにと、付けられたらしい。産まれて間もない自分を捨てた親を恨まず、なにくそと自分の人生を切り開く人間は多いいかも知れない。それは、その後の人生に関わる人間にもよるだろう。千田幸一は内向的な性格で、常に一人でいる事が多かったという。中学に入る頃になると今度は不良仲間とつるみ、万引きや恐喝で警察に御厄介になったりもした。

 愼司は千葉県に引っ掛かった。田村次郎が人命救助で表彰されていた時は母親が付き添い、父親は千葉県にいたとされていた。一時、田村が偽名を使いだしたのは、母親と一緒に千葉で父親を殺害したのではないかと。でも、何れにしろ何十年前でとっくに時効になっている。田村次郎が村田徳次として多尾豊次郎の店に現す前は、どこにいたのか。どこかで千田幸一との接点があったのか。それ以前、二十六年前の殺人事件の犯人が千田幸一だとすると被害者、高田良太とは関係ないと本に書いている。それでも五年後に真珠荘に住むことになった理由。そして、重要な真実が明らかになった。千田幸一と田村次郎に血縁関係、つまり親子だった。田村次郎は千葉県で生活していた時、女性との間で子供を生し、子供は養護施設前に捨てた。田村次郎が二十四歳の時だ。これ以上完璧な接点はない。後は、どの時点で千田幸一が知ったのか。田村次郎を殺害する動機は、自分を捨てた父親への復讐か。また、母親が誰なのか分かったのか。また、田村次郎と共に三井芳子を殺害したのは何故か。千田幸一と三井芳子に血縁関係はない。二人が同じアパートに住んでいる事を知り、自分を捨てた母親と思ったのか。千田幸一は黙秘を貫いている。

 愼司は又、以前江東不動産で所長の今西貢に話を聞いた時、高田良太さんが中年の女性とドアの前で親しげに話していたのを見たことがあり、私は母親かなと思った記憶があります。この女性かどうか分かりませんが、この人吉見ふみさんじゃないんですかと証言をしていた。もし、三井芳子が何度か高田良太に差し入れをしていた光景を千田幸一も見ていたら、高田良太にシットした可能性もある。そうなると二十六年前の殺人事件は、私と高田良太さんとの間には何の接点もありませんと本に書かれていたが。確かに具体的に高田さんとの間に接点はなかったかもしれないが、千田幸一の一方的な思いはあったかもしれない、母親へのシット。そして、それは殺害から五年後、高田良太が住んでいた同じ真珠荘に住む理由だった。愼司は、二十六年前の殺人事件と新宿の殺人事件の動機は、千田幸一の奥底に潜む母親への渇望だつたんじゃないか。古本屋の村田孝とのチャットで、その片鱗が見えてしまったと千田幸一が考えてしまったと誤解した。実際、村田孝は何にも気付いていなかったと思う。

 愼司は、これらの事を裏付けはないがと断りを入れてから、会議で発言した。

 杉本管理官は、頷いて全員でこれらの裏付けを取ろう。また、田村次郎が村田徳次として多尾豊次郎の店に現す前は、どこにいたのか。千葉県警にも協力を依頼する事にする。千田幸一は、千葉県警に何度も逮捕された前科があるから、東京に出て来た時期を把握できると思う。今、佐々木刑事が言ったように、事件の根底にある千田幸一の母親への思い。まずは抜けている千田幸一の実母の存在。時間が経っているが、田村次郎と母親が千葉県で接触を持っていた可能性は大きい。千葉県の養護施設前に捨てられていたからだ。この事件の鍵は母親だと思う。この鍵は三年前、千葉県を襲った大型台風により、千葉県北部の崖が大崩れし、付近の民家に多大な損害を加えた。ただ、家が二軒崩れたが幸いにも人命に影響は無かった。その時、瓦礫の一部から白骨が見つかった。当時、行方不明者に該当者がおらず、そのまま身元不明者扱いになっていた。警視庁からの依頼を受け、千葉県警は、この白骨と千田幸一のDNAを検査したところ、親子関係が証明された。

 本部は田村次郎が偽名を使いだしたのは、父親の事ではなく、身元はまだハッキリしないが、この女性との間に出産に関わるトラブルがあり、殺害し山に埋めた事が、偽名の原因ではないだろうか。流石に自分の子供を手に掛けることは出来ず、養護施設前に捨てたのではないか。五十年以上前の事件をハッキリさせるには無理がある。白骨と千田幸一のDNA更に田村次郎と千田幸一のDNAもハッキリし、千田幸一が白骨と田村次郎の間の子供だとは分かった。後は、千田幸一が田村次郎を父親だと確信できたのはいつか。少なくても田村次郎と三井芳子を殺害する以前だろう。もし、田村次郎に恨みを持っていたとしても、三井芳子まで殺害する意味が分からない。部屋は上下別々だったし、夜中だったから大声を上げなければ三井芳子を手に掛ける必要がない。この件は、本人に自供させる必要がある。千田幸一が頑なに黙秘を続けていたが母親が千田幸一を捨てたのではなく、殺され山に遺棄されていたと聞かされると、声を上げて泣いた。やはり、事件の根底にあったのは千田幸一の母親への思い。母親に捨てられたのではなく、父親に殺されていた。田村次郎が父親だと知ったのは、たまたま多尾豊次郎がやっていた居酒屋に行った時、板場にいた田村次郎が大分酒の入っていた状態で、他の客に昔千葉で子供を捨てた事があると言った。冗談だよと客と笑い合っていたが、千田幸一は聞き逃さなかった。詳しく調べようと思った矢先、多尾豊次郎が亡くなり、あっという間に居酒屋から田村次郎の姿が消えていた。女将にも聞いたが知らないと言われた。それから何年も経ち、たまたま三井芳子を見かけ、付けていくと黄金荘で田村次郎も見つけた。とあの日、夜中に田村次郎の部屋に行き、千葉で子供を捨てたかと聞くと、てめえ誰だと襲ってきたので思わず刺殺した。田村次郎を殺害した後、二階の三井芳子の部屋に行くと、凄い形相で声を上げそうになったので殺したと。三井芳子を殺害したのは、千田幸一の勝手な思い込みと微かな期待だった。二十六年前の被害者、高田良太の所へ時々差し入れを持ってくる三井芳子の優しい微笑みが自分に向けられない苛立ち。

 その後は、二十六年前の殺人事件と古本屋の村田孝を殺害したと自供した。これで、一連の殺人事件が解決した。後は時効になった二十六年前の殺人事件の解決、そして新宿の殺人事件と古本屋の村田孝殺害の逮捕状を取る。母親の事を聞いてから全面自供した。そして、母親を殺害したのが田村次郎と聞いて、田村次郎を殺害したのは母親への復讐が出来たと喜んでいたという。殺人についての裏付けが必要だが自供しているので難しくはないだろう。ただ、千田幸一の母親への強い思いを知り、母親の身元をハッキリさせてあげたいが、五十年以上前の事であり難しいだろう。

 愼司にとっては、これから理子との難しい局面を予想して、心が沈んでいた。そんな中、遥祐から電話が来た。

 「特捜の事件全面解決良かったな。おめでとう。だが、事件はこれからだぞ。おい、理子が脅迫罪で訴えられそうだぞ」

 愼司は訳が分からず、どう反応していいか分らなかった。

 「何言ってんだ、意味が分からん」

 「すぐに理子のマンションに行け。警察に捕まる前にな」

 遥祐は、そう言うと急に電話を切った。愼司は理子のマンションに急いで行った。いつものように理子の部屋に入ると、理子の母親の美智代がソファに座り、コーヒーを飲みながら談笑していた。

 「あっ、お母さん、お久し振りです」

 愼司は、一瞬状況が掴めなかった。美智代は笑いながら愼司に向き合った。

 「愼司さん、理子が学生結婚すると父親に談判したんですよ。それから、このマンションの家賃と生活費、後一年の大学の授業料と四谷から大学への交通費を払って欲しいと。遥祐は、それは脅迫罪だぞって。我が家は警察一家だから、何でも罪名を付けたがるのよね。自分も新人警察官だった志保さんと結婚する時、周りから誘拐罪だと散々言われたのに。それより、愼司さんは理子から学生結婚の事聞いてないでしょう、事件が忙しくて」

 愼司は、こういう状況は聞いていなかったが、元々愼司が願っていた事だった。ただ、具体的に話す前に何となく気まずい雰囲気で別れたままだった。美智代は愼司が戻ってきたので、後は二人でゆっくり話し合いなさいね、私はあなた達の味方よっと言い残して帰って行った。

 「理子、この前、俺が愛人の話を言った事、悪かったよ。それで、お父さんに学生結婚の事を言ったのか?俺が学生結婚したいって言ってたし。でも、俺は一年待つよ。確かに帰ってきて理子に迎えられたら嬉しいけど、現実的に一緒に暮すとなると学校の事もあるからね」 

 理子は愼司を見つめた。

 「私、学生結婚の事、愼司が言ったからじゃないの。私自身、毎日愼司に会いたい。今度の事もそうだけど、事件が起きたら忙しくなるから中々会えないでしょう。でも、一緒に住んでいたら遅くなっても帰って来るじゃない。後一年、愼司が我慢できても、私は我慢できないわ。愼司は私が本気になったら迷惑?」

 「分かったよ。俺もお父さんから脅迫罪で訴えられても結婚させて欲しいと頼むよ」

 愼司はお父さんに理子と結婚させて欲しいと電話を入れた。本来なら家へ行って正式に申込するのが筋だが、まだ事件は終わっていない。

 父の清義は笑った。

 「結婚式は理子が卒業してからにしよう。俺も遥祐も愼司も幸せな終身刑に伏する仲間になったな」

 


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