学院の令嬢を毎日片っ端から口説くナンパ王子が、私だけスルーし続ける件。
「やあ、また逢えたね、カトリーヌ」
「え、あ、おはようございます、殿下……今日は初めてお会いしたと思いますが?」
「おお、これはすまぬ。今朝は夢の中でも君と共にいたから勘違いしてしまった。今日も麗しきカトリーヌ嬢よ」
朝っぱらから「バカ王子」こと、ジュリアン・リシュモンドが、またどこかの令嬢をナンパしている。彼は、この国の第二王子で、女と見れば、誰彼構わず誑かそうとする不埒な学院生である。
一夫多妻が認められている、このリシュモンド王国では、彼の行為は否定できない。けれど、やはり気持ちのいいものではない。女と見れば、老婆や女児であろうとも甘い言葉を囁くくせに、この私、ティアナ・グレイスフォードだけには、一度も声すらかけてこないというのだから、本当にいけすかない王子である。
気付けば、今日も私は彼を睨みつけていた。
無視すればいいだけなのに、なぜか、どうしても目線がいってしまう。彼も、すぐに私の冷たい視線に気づき、肩を大げさに震わせ、すぐに、その場からいなくなる。
毎日、これの繰り返し。あ~、ほんと嫌になっちゃう。
Google Geminiによる作中シーン。
◇
ああ、なんと美しい。
今日もティアナ嬢が蔑むような冷ややかな目で、私を睨んでいた。私は、あの目を見るためだけに、通いたくもない学院に毎日通い、口説きたくもない令嬢たちを口説いているのだ。
これは父上から受け継いだ、抗えぬ性癖だ……。心底愛する女性から、虫けらのような視線を浴びせかけられるのが、気持ちよくて仕方ないのだから……。
父上も、母上とは、この学院で出逢ったという。
最初は「王家の務め」として、さまざまな令嬢に声をかけていたが、ある日、母上からの冷たい視線に気づき、「開眼」。紆余曲折を経て、最終的には一夫多妻制を認めるこの国で、側妃も持たず、母上だけを生涯の伴侶とすると、皆の前で宣言したというのだから、是非もない。
私も学生のうちは、しばらくこのプレイを楽しむつもりだが、もちろん卒業の間際には、彼女に求婚するつもりだ。だが、それまでは、この甘美な遊びを……。
ただ、ひとつ気がかりがあるとすれば、兄・セドリックの存在か。やつも私同様、母上の美しく冷たい視線に性癖を歪められた同族。ゆえに「逸材」ともいえるティアナのそれを見て、「俺にその令嬢を寄越せ!」などと言い出す可能性も十二分に考えられる。
王位継承権では、やつの方が上。
最悪の場合、ティアナを賭けた骨肉の争いに発展するやもしれぬが、その場合は……。
◇
「―― ああ、やだやだ。どうして、あんなやつのことが気になって仕方ないんだろ!」
この時、ティアナは何も分かっていなかった。王子と自分の本心、そして自分が置かれている危うい状況を。この後、リシュモンド王国は、骨肉の十年戦争へと突入することになる(※嘘です)わけだが、それはまた別の機会とする…… fin?
……唐突な幕切れ、正直すまん(いつもどおりです)。
ちなみに、ティアナ以外の女生徒の大半が、王子がティアナに惚れ込んでいることを理解している。だが、面白いのでティアナには告げないでいる。ティアナの友人も含めて(なんでやねん)。




