聖女召喚の儀、巻き込まれたは隣のクラス
聖女召喚の儀。
今回、別の角度からお送りします。
聖女召喚。
異世界の住人が、己の世界の危機に立ち向かえる者を別の世界から喚び出す。
異世界と異世界を無理矢理繋げるのだ、それに必要な魔素、魔力は膨大で計り知れない。一説では、多くの人の命と引き換えにされるとかなんとか。
そんな禁忌とも言える召喚の儀であるのに、異世界人は割とポコポコ使いまくる。その乱用ぶりや、お前禁忌の意味って知ってる?と、他の世界の神々が苦言を呈した程だ。
そんな事もあり、まぁ盛大に怒られたその世界の神は、本気出してお告げを送った。
――私利私欲の為に召喚の儀、使うべからず。世界の危機は己が力で回避せよ。次は無い。使えば、世界は滅ぶ(私が滅ぶ)……
神託を受け取った人々は恐れ戦き、召喚の儀に関するものは全て焼き払い、処分した。
これで、騒動は終結するだろう。誰もがそう思い、胸を撫で下ろし……。
しかし、神は忘れていた。
人は、忘れる生き物だと。
禁忌とされるものに、敢えて手を出す、好奇心の強い生き物だと……。
「異世界の聖女よ、よく来てくださいました」
「僕、男ですけど?!!」
「俺も男だが?」
「ゑ?」
いきなり床が光ったと思ったら、見知らぬ場所。見知らぬ人々。徐に近付き、手を取ってくるやたら顔がいい、多分身分が高い人。
そして告げられた最初の言葉。塚本ススムの情報処理能力は限界を迎えた。全力でツッコみ、そして思わぬ援護射撃に振り向くと、同じクラスの近道タクミが立っていた。
塚本は声無き声を上げた。全く接点がなかったからである。なんなら、今初めて彼の声を聞いた。
「……あ、確かに…男……ですね。おかしい…。これで成功な筈なのに、人違い?が起こるなんて」
困惑した様子の、顔面良すぎ多分身分高い人。声も文句なくいいんだなと、ズレた感想を抱く塚本。
「少し…お待ちください。魔導士達と検証します」
「あ、はぁ……」
魔導士。聞き間違いでなければ、魔導士と言っていた。
塚本は深呼吸。そして、近道を見た。彼も困惑しているのが、よく分かる。これが巷で流行りの『異世界召喚モノ』であると、読書好きで普段から雑多に読み漁っている塚本は理解したが、近道は恐らく無縁。教えた方がいいか悩む。
「塚本」
「っはい!え、僕の事知ってる?」
「流石に前の席の奴ぐらい覚えるわ。それより、あいつらがリプレイ検証してる間に、ステータス確認してみようぜ」
「リプレイ検証なの?」
近道が指さす先には、顔面良すぎ多分身分高い人と、魔導士らしき人達が集まり画像を確認している。
「ここですね……、反応して、全体が…」
「あ、ちょっと止めて止めて。ここ、ゆっくり」
「見え辛いな。他の角度のものは?」
「そこ!ここだけ大きくできないか?」
「えー…、少し荒くなってしまいましたが、どうですか?」
「どう……かな…。私は先に見えますね…」
「いや、後じゃないか?ほらここが若干……」
――そんなやり取りが、もしかしたら向こうの世界でもあるのかもしれない。
「リプレイ検証だね…」
「だろ?」
「あ、うん。い、いや待って近道くん、ステータスって言った?も、もしかしてこの現象を理解してる?」
「異世界召喚だろ、多分。前にダチに押し付けられた小説の展開と似てる」
近道タクミは、見た目強面である。上背もあるせいか、大変迫力があるのだ。しかし、よく見れば整った顔立ちではある。対して塚本ススムは、平凡の中の平凡。黙っていれば存在に気付かれない程だ。根暗だのオタクだのと揶揄される日々。対照的な二人であった。
どこぞの不良とタイマン張って完膚なきまでに潰したという、嘘か真かの噂の持ち主と普通に話している自分に、なんとなく感動する塚本。近道が、思ったよりも話しやすい空気を持っていたのが大きい。
「どうやるんだろう。……ステータス?」
「うお、ホントに出た。へー、勇者か」
「聖女って出たらどうしようかと思った…。え、勇者なの?僕」
疑問形だったが認識してくれたらしい。半透明の画面が目の前に現れる。
興味津々と覗き込んだ近道の隙間から、少し期待しつつ自身の能力を確認。
【努力の勇者】
貴方は、他人に何を言われようが努力を続けられる、芯の強い部分があります。それは、実を結ばない時も、期待する結果にならない時もあるでしょう。ですが貴方が続けてきた事は無駄にはなりません。血肉となり、先々貴方を助ける力となるでしょう。その信念を貫く姿勢は大変好ましく、清々しい。貴方を見守り、応援している者がいる。それを忘れず、己を大事に、生きなさい。
「ん?」
「俺も開けてみるか。すてーたす?」
「近道くん、疑問形にしなくていいと思うな」
「そうなん?お、出た」
【徳積みの勇者】
貴方は、これまで外見で誤解されていますが、とても心が広く優しい精神を持っていますね。少々の事では動じない、鋼と例えても良い強さも持っています。他者の言に惑わされず、振り回されず。どっしりと構え己が道を突き進む姿は、多くの人の支えとなりましょう。コツコツと続ける事が割と好きな貴方は、損得に捉われず行動できます。その姿勢は、この先貴方を幸福で満たすでしょう。
「ん??」
「ステータスって、あれだな。クジみたいな内容になってんだな」
「くじ……あ、そうだそれだ。おみくじに書いてあるような、なんか励まされる言葉だ!」
でもこれ違う!ステータス違う!!……と、頑張って画面をスクロールさせる塚本だが、残念ながら動かなかった。頽れる塚本。それを眺める近道。リプレイ検証を続ける異世界人。
何とも平和で、危機感の欠片もない雰囲気。
世界の存亡が掛かっているのなら、こうものんびりしてはいないだろう。
「異世界でも僕は、何者にもなれないんだ……」
「どーしたぁ、努力の勇者」
「勇者だけども!なんか違うんだよぅ!!」
「あー、小説かゲームみたいな冒険したかったって事か?」
「夢見てもいいじゃない!あるワケないって分かってるよ分かってるけど、夢ぐらい自由に見たっていいじゃない!!」
「おう、俺はいいと思うぜ。現実色々メンドクセーんだから、自分の思考ぐらい自由にさせて欲しいよな」
「馬鹿にしてない!近道くんいい人!!ありがとう!怖い人と思っててごめんね!!」
「よく言われるから気にしてねーよ。でも、ありがとよ」
近道は号泣しながらの塚本と握手。恐らく友情が生まれた。
その時丁度、リプレイ検証を終えた、顔面良すぎ多分身分高い人が戻ってくる。いい笑顔で力強い拳を作っていた。アウトらしい。一体どこで覚えたのか。
「申し訳ありません!やはり此方の手違いで、魔法陣の一部を描き間違えていたようです」
「そ、そうなんですか。え、まさか帰れないとか…?!」
「帰還の魔法陣はあちらです」
「あるんだ?!帰れるんだよかった!!あ、あの……なんで聖女を喚ぼうとしてたんですか?」
実は世界の危機とか?と心配顔の塚本と、頷く近道。
それに首を振り、顔面良すぎ多分身分高い人は、見て欲しかったんですと笑う。
「最後に聖女が召喚されたのは、三百年前と聞いています。どの方も、この世界の為に戦ってくれたと。それに、御自身の世界の知恵も残してくれて。今私達がこうしていられるのは、聖女様の御蔭と言っても過言ではありません。なので……平和な世界も見て欲しいと、その、勝手かもしれませんが…」
「…?聖女達は全員、元の世界に帰れたんですか?」
「はい、数少ない文献にはそう記されていました。皆すごくお強いのです。暴政を強いていた王族を屈服させ、私利私欲で戦争を起こそうとしていた悪逆女王を民衆と共に追い落とし、魔王と人間の戦争を身一つで止めたと……」
「ほわー……それはすごい…」
「……三百年経ってるなら、生きてないんじゃないか?」
「あっっ」
……顔面良すぎ多分身分高い人は、とんでもねぇうっかりさんだった。
「なんか親近感わいた」
「面白いなお前」
「すみませんでした……」
ともあれ、二人は無事元の世界に戻れたのである。
「金剛、これ返す」
「近道、ん?貸してたっけ」
「お前が変化球とか言って、渡してきたんだろうが」
「そうだっけ。……近道、最近、体に不調とかあったりなかったりする?」
「?ねぇな。あー、インフル流行ってんもんな」
「……お互い気を付けよう。落ち着いたらまた貸すよ。あと、なんかごめん」
「おう?なんで謝るんか分からんが、気にすんな」
金剛あやめは、近道と頭を下げてくる塚本を静かに見送り、帰り支度を始める。そこへ素早くやってきたは、西園寺ルリだ。小声でどうだったと訊いてくる。
「……体調に変化は無いらしい。隣に居た塚本も、特には」
「なら、いい……の?」
「分からん。とりあえず謝ってはみた。けど全然分かってなかったから…。様子見、しかないと思う」
「そうね……」
二人は聖女として、過去三度異世界へと飛ばされている。そのせいかどうなのか、今回、床が淡く光り始めた時点で察知できた二人は、捕らわれる前に逃げた。惜しみない俊足を披露した。
が、自動追尾でも付いているのか、追ってくる魔法陣。二人の足は限界を突破し、音の無い世界に到達。見事魔法陣を振り切った……!
が、その時すれ違ったのが、塚本と近道である。
あ、と気付いた時には既に遅し。塚本と近道は魔法陣に吸い込まれていた。完全な巻き込まれ事故である。
無事に戻ってきてくれたが、それまでは気が気じゃなかったあやめとルリ。大人しく飛び込んでおけば良かったと、二人して猛省していた次第。とても、心臓に悪かったそうだ。
後日、お詫びと言われ大量に本を渡された近道は、塚本と読書会をしたらしい。
余談ですが、近道くん塚本くん。出席番号順だと近道くんがでかくて塚本くんが全く見えない。との、先生からの頼みで席を入れ替えています。
力の聖女と徳積み勇者のタッグも見てみたい気もします。




