エピローグ
年が明けてから、王都の街はまだ祝いの空気に包まれていた。
広場では子どもたちが雪を投げ合い、家々の窓にはまだ祝祭の飾りが揺れている。商人たちは新しい年に売り出す品々を誇らしげに並べ、通りすがる人々の笑顔はどこか浮き立って見えた。
そんな賑わいとは対照的に、屋敷の中は穏やかだった。
朝は少し遅く、昼近くになってようやく起き出した私たちは、三人で遅い朝食を囲んだ。まだ眠気の残る顔でアルベルトさんが苦笑すれば、コンラートさんが静かに茶を注いで「昨夜は夜明けまで起きていましたから」と穏やかに笑う。
私も思わず頬を緩めて、「日本でも大晦日から年明けは夜更かしするんです」と話しながら、まるで家族のように過ごす朝のひとときが心に染みていった。
昼を過ぎれば、それぞれが思い思いの時間を過ごす。
私は領地から届いた果物で菓子を作り、二人は暖炉の傍で本を読んだり、届いた書簡に目を通したりしている。ふと視線を上げれば、二人が自然に近くにいて、同じ空気を吸いながら穏やかな時間を過ごしている――ただそれだけで、胸が満たされていった。
夕暮れ時、庭を眺めに出ると、冬の日差しが雪を赤く染めていた。
吐く息が白く揺れ、冷たい風が頬を撫でる。私は掌を胸の前で重ね、思わず呟いた。
「……この一年は、どんな年になるんでしょうね」
すると、すぐ背後からアルベルトさんの声が落ちてきた。
「少なくとも、君と共に歩める年だ。それだけで、俺には十分すぎる」
その声音は穏やかで、けれどどこか決意を秘めていた。
横に目を向けると、コンラートさんが雪明かりに照らされた静かな瞳で私を見ていた。
「あなたがいる限り、必ず良い年になります。困難が訪れても……それを共に越えていける」
二人の言葉に胸が熱くなる。
最初はただ不安で、帰ることばかり考えていた異国の生活。けれど今は――こうして隣に二人がいるだけで、未来は怖くないと思える。
私はそっと笑みを浮かべ、二人へ手を差し伸べた。
迷わず重ねられる温かな掌。三つの手は固く結ばれ、冬の冷気など忘れるほどに熱を宿した。
「……なら、きっと大丈夫ですね。どんな未来が来ても」
そう告げた時、庭の上には澄み渡った冬空が広がっていた。
遥か彼方まで続く星々のきらめきは、まるでまだ見ぬ未来を照らす光のように瞬いている。
――未来がどうなるのかは誰にもわからない。
けれど、この二人と共に歩むなら。
きっと私は、どんな季節も愛おしく過ごしていける。
白い息を吐きながら空を仰ぎ、心の中で小さく願った。
「どうかこの時間が、これからも続きますように」と。
そして私は、二人と手を取り合いながら、ゆっくりと屋敷へ戻っていった。
新しい年の始まりと共に――新しい未来へと歩みを進めながら。




