新年の約束
宴がひと段落すると、私は二人に伴われて控室へと移った。
煌びやかな大広間の喧騒が遠ざかり、静かな空気が流れ込む。
胸の奥に残っていた緊張が、ようやくほどけていくのを感じて、思わず深く息を吐いた。
「……はぁ、やっと落ち着けました」
愚痴のように零すと、アルベルトさんが小さく笑みを浮かべ、私の肩に手を置いた。
「よくやったな、アリサ。君の微笑みひとつで、あの場がどれほど輝いていたか……」
「お、おおげさですよ……」
顔が熱くなり、慌てて視線を逸らす。
すると、隣に控えていたコンラートさんがそっと差し出した水杯を受け取りながら、静かに言った。
「いいえ。おおげさではありません。……あなたがいるだけで、人々は心を奪われる。それは私たちも同じです」
真摯な眼差しに、胸が甘く震える。
控室の静けさが、まるで三人だけの世界を際立たせていた。
やがて帰路につく時間となり、馬車に揺られながら王都の夜を眺める。
窓の外には、まだ宴の余韻を残す街の明かりが点々と瞬き、冷たい空気が白い吐息を硝子に映していた。
「……日本では、年越しは少し違うんです」
ふと口にすると、二人が同時にこちらへ視線を向けた。
少し照れながらも、続ける。
「家族で静かに過ごして……お寺の鐘が百八回鳴り響くんです。煩悩を払うと言われていて、それを聞きながら新しい年を迎えるんですよ」
「鐘を百八回……厳かな習わしだな」
アルベルトさんが興味深そうに眉を上げる。
「それに、“年越しそば”という麺を食べるんです。長い麺には、細く長く生きるように……っていう願いが込められていて」
すると、コンラートさんが小さく頷いた。
「なるほど……食に祈りを託す。とても趣深いですね」
私は微笑んで肩をすくめた。
「賑やかな宴も素敵ですけど……やっぱり、日本の静かな年越しも懐かしくて」
そう言うと、すぐ隣から低い囁きが落ちてきた。
「ならば――次の年越しは三人で、君の国のように過ごそう」
アルベルトさんが真剣な眼差しで見つめ、私の手を包む。
反対側では、コンラートさんも穏やかに微笑んで囁いた。
「ええ。除夜の鐘はなくても……あなたと共に静かに迎える新年なら、それで十分です」
胸がじんわりと温かく満ちていく。
冷たい夜の風に揺れる馬車の中――けれど、私の心は、二人の温もりでぽかぽかに包まれていた。




