鐘の音に重なる誓い
冬の夜、王都の大広間はひときわ明るい光に包まれていた。
天井からは無数のシャンデリアが降り注ぎ、壁には大きな鏡と金糸で縫い込まれたタペストリー。煌びやかな光が幾重にも反射し、まるで夜空の星々が閉じ込められたかのようだった。
外は小雪がちらつき、窓越しには街全体が灯火で彩られているのが見える。
けれど、この大広間こそが王都の心臓部。年越しの宴――一年を締めくくり、新たな年を迎える最も重要な社交の場が、今まさに幕を開けていた。
楽団の演奏に合わせて舞踏の輪が広がり、香辛料を効かせた温かな酒と、狩猟で得られたジビエや果物のパイが次々と卓に運ばれる。政治と縁談と祝福が入り混じるこの場で、誰もが自らの存在を示そうと華やぎを競っていた。
――その中心に、私は立っていた。
「異界から来た奥方」。
以前よりも、この夜は数多の視線が私に注がれているのをひしひしと感じる。
笑顔を見せるだけで「女神の化身だ」と囁かれ、少し言葉を交わしただけで「奥方様は慈しみに満ちている」と声が上がる。
貴族の男性たちは次々と近づき、杯を掲げながら口々に褒めそやした。
「そのドレスは月光を映したようだ」
「あなたと踊れたなら、新年は必ず良いものになる」
「この国に光をもたらすのは奥方様だ」
次から次へと差し出される手に、思わず後ずさりそうになる。
「……あの、私は……」
どう応じればよいのか迷ったその瞬間。背後から伸びてきた強い腕が、私の腰を支えた。
低く落ち着いた声が、ざわめきを断ち切る。
「俺の妻は控えめでね。……これ以上の賛辞は、彼女を困らせてしまう」
その声は決して大きくはなかった。
けれど、広間の喧騒を自然と鎮めるほどの重みを帯びていた。
私の腰を支えるその手は、力強くも優しい。
振り返れば、アルベルトさんの瞳は静かに笑みを湛えながらも、鋭い光で男たちを射抜いていた。
周囲の空気がぴんと張り詰める。
誰もが言葉を失い、互いに顔を見合わせて一歩引いた。
アルベルトさんは私を引き寄せる腕にそっと力を込め、耳元に低く囁いた。
「君はただ、微笑んでいればいい。あとは、俺たちが守る」
反対側ではコンラートさんが私の手を取り、真摯な眼差しを向ける。
「どうか安心してください。あなたがこの場に立つのは、決して一人ではありません」
煌びやかな大広間のただ中で、二人の言葉に胸が震え、頬が熱を帯びていく。
人々の視線すら霞むほどに――。
楽団の調べが一層高まり、やがて王の登壇と共に大広間は静まり返った。
人々は杯を手に取り、窓の外に広がる冬の夜空を見上げる。
――ゴォォン。
深い鐘の音が夜を震わせた。
旧年を送り、新しい年を迎えるその合図に、広間中から一斉に声が上がる。
「新年に祝福を!」
「女神の加護を!」
無数の杯が掲げられ、金色の液体が揺れる。
けれど私の耳に響くのは、すぐ傍で囁かれる声だけだった。
「アリサ。君と共に新しい年を迎えられる――それ以上の祝福はない」
アルベルトさんが真摯に見つめ、私の手を強く包む。
反対側では、コンラートさんが静かに微笑み、柔らかに言葉を添えた。
「……あなたがいるこの年は、必ず良いものになります」
胸の奥に甘く温かなものが満ち、頬が熱で染まっていく。
大広間の煌めきも鐘の響きも遠のき、今はただ、二人の言葉と視線だけが私を満たしていた。




