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白き雪、紡ぐ絆

 編み針を動かしていた指先が止まる。

 机の上に置いた毛糸玉はもうほとんど残っていなかった。

 夜更けの静けさの中、私はようやく編み終えたマフラーを膝の上に広げ、深く息をついた。


「……できた」


 少し歪な目もある。でも、心を込めて編んだ。

 アルベルトさんには落ち着いた紺色、コンラートさんには柔らかな灰色――二人に似合うと思って選んだ糸だ。


 翌朝、彼らに差し出すと、胸の奥が熱くなるほどに緊張した。


「少し、歪んでしまったかもしれません……」


 おずおずと告げると、アルベルトさんは黙って受け取り、静かに首に巻いてみせた。

 鏡に視線を投げ、それからゆるやかに私を見やる。


「……これ以上に俺に似合うものはないな」


 低く落ち着いた声音が、胸の奥を震わせる。

 コンラートさんもまた、丁寧にマフラーの折り目を整えてから首に掛け、そっと目を閉じた。


「温かい……心まで包まれるようです。ありがとうございます、アリサ殿」


 その柔らかな微笑みに、私は思わず視線を逸らした。

 嬉しくて、恥ずかしくて、胸がいっぱいになる。


 その日のうちに、初雪が訪れた。


 朝、窓を開けると白い粉雪が舞い込んできて、私は思わず声を上げた。


「雪だ……!」


 手を伸ばせば、儚く溶けていく小さな結晶。

 アルベルトさんは窓辺に立ち、淡々と呟いた。


「王都で初雪は珍しいな」


 けれど、その横顔は私のはしゃぎぶりを見て柔らかく目を細めている。

 コンラートさんは控えめに微笑み、問いかけた。


「庭に出てみませんか」


 庭にはうっすらと雪が積もっていた。

 私は両手で雪を丸め、小さな雪だるまを作り始める。


「ふふ……日本ではよくこうやって遊んだんです」


 コンラートさんが隣にしゃがみ、真剣な表情で雪の形を整える。


「こうした方が、形が整いますね」


 几帳面な仕草に思わず笑みが零れる。


 するとアルベルトさんが小枝を拾い、雪だるまの顔に差し込んだ。


「こうすれば……少し愛嬌が出る」


 真面目な声色に、でもどこか楽しげな表情。

 私は頬が緩むのを隠せなかった。


「日本では“雪うさぎ”も作ったんです」


 そう言って小さな雪の塊に耳を立て、赤い実を目に見立てる。

 二人は初めて見るそれに、同時に目を細めた。


「可愛らしいな」

「……あなたらしい」


 重なる言葉に、胸が一層熱を帯びる。


 しかし、雪遊びに夢中になった指先はすっかり冷えてしまった。

 それに気づいたアルベルトさんが、自分の紺色のマフラーを外して私の肩に掛ける。


「これは……二人のために作ったんです」


 慌てて否定する私に、彼は静かに首を振った。


「君が贈ってくれたからこそ、君を温めるのに使うのが自然だ」


 その真っ直ぐな言葉に、心臓が跳ねる。

 コンラートさんもまた、反対側から私を包み込み、穏やかに微笑んだ。


「こうして三人で分け合う方が暖かいです」


 彼の声音は柔らかく、雪景色よりも温かくて。

 頬が赤くなるのは寒さのせいか、胸の高鳴りのせいか――自分でも分からなかった。


 三人肩を寄せ合いながら屋敷へ戻る。

 暖炉の炎の前に並ぶと、雪の冷たさも溶けてしまうほどの温もりが広がっていった。


 初雪の夜は、炎よりも近い温度で甘く更けていく。

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