炎より温かなもの
外は冷たい風が吹きすさび、屋敷の窓を小さな雪片が叩いていた。
まだ積もるほどではないけれど、王都にもいよいよ冬が訪れたのだと感じさせる夜だった。
私たちは暖炉のある居間に集まっていた。
ぱちぱちと薪のはぜる音と、やわらかな火の揺らめきが部屋を満たしている。
私は毛糸を編み針にかけ、静かに編み目を進めていた。
アルベルトさんは革張りの大きな椅子に深く腰を掛け、手にした本を優雅に読み耽っている。
その隣では、コンラートさんが湯気を立てる茶器を用意し、私たちのカップに琥珀色の茶を注いでくれていた。
「……こうして並ぶのは、不思議と落ち着きますね」
思わず零した言葉に、アルベルトさんが顔を上げて微笑む。
「静かでいい。窓の外の寒さなど、忘れてしまいそうだ」
コンラートさんも頷き、茶器を差し出しながら静かに続ける。
「炎のぬくもりと、誰かがそばにいる安心感。……これほど贅沢な時間はないでしょう」
差し出された温かな茶を両手で包みながら、私はふと懐かしさに駆られた。
「……日本には、“こたつ”というものがあったんです」
「コタツ?」
二人が同時に首を傾げる。私は少し笑って説明を続けた。
「木の台の下に火を入れて、その上から布団を掛けるんです。布団の中に足を入れると、とても暖かくて……。寒い冬の夜は、家族みんなでこたつに入って過ごしました」
言葉にすると、懐かしい光景が胸に浮かぶ。
炬燵布団に潜りながら、蜜柑やアイスを食べたり、うとうとしたり……。
「面白いな」
アルベルトさんが本を閉じ、興味深そうに眉を上げる。
「暖炉ではなく、布団の下に火を……。屋敷に取り入れられるだろうか?」
「構造を工夫すれば不可能ではありません。小さな炭火台を用意すれば似たものが作れるでしょう」
コンラートさんは真剣に顎へ手を当て、すでに実現方法を考えている様子だった。
その様子が可笑しくて、私は思わず声を立てて笑ってしまった。
「ふふっ……二人とも本気で考えないでください。ただの思い出話なのに」
「いや、君が懐かしむものなら、形にしてやりたい」
アルベルトさんが肩をすくめるように言う。
コンラートさんも優しく目を細めて頷いた。
「ええ。あなたの心が少しでも和むなら、どんな工夫も惜しくありません」
胸がじんわりと温かさで満ちていく。
暖炉の炎よりも、二人の言葉の方が心をぽかぽかにしてくれる。
「……もう、ほんとに」
私は編みかけの毛糸を抱き寄せ、笑みをこぼした。
外の風は冷たいのに、この部屋は不思議なくらい温かい。
――冬の夜は、こうして過ごせるなら悪くない。




