満月によせて
秋の夜、空には丸く冴え冴えとした月が昇っていた。
涼やかな風が庭を渡り、木々の葉をさらさらと揺らす。
「日本では、この時期に“お月見”をするんです」
私は夜空を仰ぎながら、二人に微笑んだ。
アルベルトさんが興味深そうに片眉を上げる。
「月を眺めるのが習わしなのか?」
「はい。そして団子を作って月に供えるんです。……でも、この国では米粉が手に入らないから」
そう言って私は、用意してきた皿をそっと差し出した。
そこには黄金色の芋団子――日本で慣れ親しんだ“いももち”に似た料理が並んでいる。
「領地から届いた芋を使ってみました。蒸して潰して丸めて……少し焼いてあるので、香ばしいですよ」
皿を受け取ったアルベルトさんは、興味深そうに一つを摘まみ、口へ運んだ。
噛んだ瞬間、外は香ばしく、中はほくほくと甘い。
「……なるほど。優しい甘みだな。君らしい味だ」
満足げに目を細める彼の横で、コンラートさんも静かに口にする。
しばし目を閉じ、やがて柔らかに微笑んだ。
「温かくて、どこか懐かしい。……あなたが作られたからでしょうね」
胸がじんと熱くなる。
二人の言葉に、私は思わず俯いてしまった。
「日本では、丸い団子を月に見立てるんです。……だから、これもきっと、お月見にぴったりです」
そう言って月を見上げると、白銀の光に包まれて団子がひときわ輝いて見えた。
その横顔を見つめていたアルベルトさんが、低く囁く。
「この光の下で君と味わえるなら……どんな祭りよりも尊いな」
反対側では、コンラートさんが穏やかな眼差しで言葉を添えた。
「月も、女神も……今夜はあなたを見守っているのでしょう」
その声に胸が温かく満ち、私は小さく笑んで応じた。
「……こうして三人で過ごせる夜が、一番幸せです」
満月の光が庭を照らし、風が頬を撫でる。
月と芋団子と、二人の温もり。
――異国のお月見は、何よりも甘やかで、忘れられない夜となった。




