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秋風と収穫の贈り物

 夏の熱気が少しずつ遠ざかり、夜風が涼やかさを帯び始めたある日。

 屋敷の玄関には、大きな木箱が次々と運び込まれていた。


「領地からの収穫の便りが届きました」


 使用人の声に導かれて箱を開けると、干したばかりの小麦の束や、籠いっぱいの葡萄、艶やかに色づいた林檎、栗、そして琥珀色の蜂蜜の瓶が姿を現した。


「わぁ……」


 思わず声を洩らす。

 その瞬間、領地で出会った人々の顔が脳裏に浮かんだ。誇らしげに畑を案内してくれた農夫、籠いっぱいの葡萄を抱えて笑っていた子どもたち。

 彼らの手からここへと届いたのだと思うと、胸の奥がじんと温まった。


「領地からの贈り物は、ただの食材ではない」


 傍らでアルベルトさんが、重みのある声で告げる。


「これは領民が無事に過ごしている証であり、俺たちへの信頼の証でもある」


 真摯な声音に頷きながら、私はふと思い出す。


「日本でも、“お中元”や“お歳暮”っていう風習があったんです。季節の贈り物で、日頃の感謝を伝えるんです」


「なるほど……」


 コンラートさんが穏やかな眼差しで頷いた。


「気持ちを形にするのは、世界や国が違っても同じなのですね」


 私は両手を胸の前で合わせ、思い切って提案した。


「せっかくですから、この恵みを使って、私が料理をしてみたいです。皆で一緒に味わいたくて」


 その言葉に、アルベルトさんが唇の端を上げる。


「君が手を加えるだけで、どんな恵みも宝になる。……楽しみにしているよ」


 台所に立ち、林檎を煮込んで甘い菓子にし、葡萄を絞ってジュースを作り、小麦粉を練って焼き菓子を仕立てる。

 慣れない異国の調味料に少し迷いながらも、手は自然に動いた。包丁の音、香り立つ湯気。そのすべてが心地よい。

 ふと視線を上げると、入口に立つ二人がじっとこちらを見守っていた。


「……その手際、やはり見事ですね」


 コンラートさんが小さく呟く。


「食卓に座るのが、待ち遠しくなります」


 その言葉に頬が熱くなり、思わず手元の鍋をかき混ぜる。

 ――料理をしているだけで、どうしてこんなにも胸が高鳴るのだろう。


 やがて食卓に並んだ料理を囲み、三人で向かい合う。

 窓の外では秋風が木々を揺らし、室内のランプの灯りが穏やかに揺れていた。


「いただきます」


 林檎の甘煮を口にしたアルベルトさんが、思わず目を細める。


「……やはり、君が手を加えると違うな。豊かさが二倍にも三倍にもなる」


 コンラートさんも一口味わい、静かに微笑んだ。


「ええ……この恵みの意味が、より深くなる。あなたが共に分かち合ってくださるから」


 胸が熱くなり、私はそっと俯いた。

 けれど、心の中では確かに思う。

 ――収穫の恵みを分かち合える喜びも、共に食卓を囲む温もりも、すべてが宝物なのだと。

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