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夏至の輪舞

 伝説を語る吟遊詩人の声が広場に溶けていくと、アルベルトさんが肩を竦め、愉快そうに笑った。


「さて、祭りの本番はこれからだ。……初めての祭りだろう? アリサ、屋台を見て回るといい」


 そう言って私の手を取ると、人で賑わう通りへと導いてくれる。

 果実酒の樽、蜜に漬けた果物の山、焼き立ての串肉――次から次へと漂う香りに、思わず胸が高鳴った。


「わぁ……どれも美味しそうで……」


 目移りしてきょろきょろと歩く私に、アルベルトさんは面白そうに目を細め、コンラートさんは静かに歩調を合わせてくれる。


 その時、ふと目に留まった屋台があった。

 琥珀色に透ける飴が、串に刺した果物を艶やかに包みこんでいる。火を映して宝石のように輝くそれに、私は思わず足を止めた。


「これ……日本の“りんご飴”にそっくりです」


 声に出すと、屋台の主人がにこやかに差し出してくれる。

 アルベルトさんがすぐに代金を払い、私の手に渡してくれた。


「どうだ、味は?」


 ひと口、恐る恐るかじる。ぱりん、と軽やかに飴が割れ、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がった。


「……美味しい! 本当に、りんご飴みたいです」


 瞳を輝かせて答えると、アルベルトさんは満足げに笑い、コンラートさんは目を細めて頷いた。


「君の故郷の記憶に似ているなら、それ以上に良いことはない」


「ええ……その笑顔が見られるなら、何よりです」


 二人の言葉に胸が熱くなり、私は慌てて飴に視線を落とした。

 広場の喧騒と灯りに包まれながら、胸の奥が甘いものでいっぱいになっていく――。



 夕暮れが迫ると、広場は音楽と踊りで満たされていった。

 楽師のヴァイオリンや笛が軽快な旋律を奏で、人々は手を取り合って輪を広げる。果実酒を片手に歌う者、笑いながら舞う者。ランタンや油灯がともされ、広場全体が幻想的な光で包まれていった。

 私は見惚れて立ち尽くしてしまうが、アルベルトさんに手を取られ、強引に輪の中へと引き込まれる。


「ほら、楽しむといい。君が踊れば視線を独占することになるな」


「そ、そんなこと……」


 慌てる私のもう片方の手を、今度はコンラートさんが取った。


「ご安心ください。私もご一緒します」


 三人で踊りの輪に加わった瞬間、周囲の笑い声と音楽が一層鮮やかに響いた。


 アルベルトさんに引かれてくるりと回される。彼の掌は力強く、けれど決して乱暴ではなく、リズムに合わせて心まで浮き立たせてくれる。

 次にコンラートさんの腕に受け止められると、彼は静かに目を細め、優しい力加減で私を導いた。


「……息が弾んでいますね」


「う、嬉しいけど……恥ずかしいです」


 頬を赤くする私に、二人は対照的な笑みを浮かべた。

 アルベルトさんは「その照れ顔こそ宝物だ」とでも言うように豪快に笑い、コンラートさんは「誰よりも愛らしい」と告げるように、柔らかな眼差しを注いでくる。


 祭りの輪の中で、音楽に身を任せながら二人の手に導かれる。

 視線が重なるたび、胸の奥に熱が灯っていき、まるでこの瞬間が夢のように思えた。

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