稀なる働き手
翌日から使用人に混ざって働くようになると──アルベルトさんの反応から予想していた通り、使用人の方々はとても驚いていた。私が働くのを見に来てはひそひそと話をする。
「本当に働いているぞ」「嘘だろう、女性が」
「まさか俺は夢を見ているのか?」「手を汚して、そんな……」
声をひそめているが、聞こえるのはおおむねこういった内容だ。
この世界には女性が一割しかいないため、働くこと自体が珍しいのかもしれない。
「お嬢様、そのようなことは私共が致します」
皿洗い中にそんな声をかけられるが、私は「ご迷惑でなければやらせてください」と返す。客人が働くことは、もしかしたら彼らには迷惑かもしれない。
「いえ迷惑などとは……」
「じゃあ少しだけ、お手伝いさせてください。お願いします」
どうしても、アルベルトさんにお世話になっているだけでは落ち着かないのだ。少しだけでもいいから、働きたい。
頭を下げる私に萎縮していた使用人だが、やがて簡単な仕事を私に振り分けてくれる。しかし好奇の目は痛いほどに突き刺さり、それが気にならなくなる頃には日が暮れていた。
翌日も手伝いをする。まだ使用人の方々はまだ信じられないものを見るような目をしていたが、昨日に比べてスムーズに仕事を割り振ってくれるようになった。
厨房で皿洗いをし、廊下で窓を磨き、庭で雑草を抜く。どれも子供にもできるような簡単な仕事ばかりだが、ひとつひとつ真剣にこなしていく。黙々と仕事をしていると、それだけで心が軽くなる。
三日目にもなれば、それが当たり前のように受け入れられ始めた。朝起きて厨房に顔を出すと、使用人の一人が「アリサ様、こちらをお願いいたします」と丁寧に礼をする。時折、「手が痛むようでしたら、お申し付けくださいませ」と声をかけてくれる。
昼過ぎ、廊下で窓を磨いていると、アルベルトさんが声をかけてきた。
「どうだ、辛い思いをしてはいないか?」
「いえ、とんでもない。こうして働かせていただいて本当にありがとうございます」
頭を下げる私に、少し困ったように肩をすくめたアルベルトさんは、何も言わずに微笑む。
「あっという間に君はこの屋敷の人気者だな、俺より人望があるやもしれん」
そんな冗談を言うと、少し声をひそめる。
「ないとは思うが、使用人に何か言われたら報告してくれ」
「はい、ありがとうございます」
私の答えに安心したように、彼は柔らかく目を細めた。そして使用人に呼ばれると、軽く手を振ってその場を後にした。