風鈴の音に寄り添って
領地から戻った後も、王都の夏は容赦なく暑かった。
昼間の陽射しに火照った空気が夜になっても消えず、屋敷の石壁すらじんわりと熱を帯びているように思える。
「この国の夏は、夜も涼しくなりませんね……」
窓辺に立ち、額に浮かんだ汗をぬぐいながら思わず呟いた。
そんな私の言葉に、すぐ傍でグラスを手にしていたアルベルトさんが、肩をすくめて笑う。
「そうだな。暑さに関しては、領地の方がまだ過ごしやすい」
その横でコンラートさんが静かに頷き、扇を動かして私に風を送ってくれる。
優しい気遣いが嬉しくて微笑みつつ、私はふと思い出した。
「日本では、夏になると“風鈴”を吊るしたんです」
二人が同時にこちらを見る。
私は少し照れながら続けた。
「小さなガラスや陶器の飾りを紐で吊るして……風が吹くたびに、澄んだ音が鳴るんです。音を聞くだけで、不思議と涼しく感じられるんですよ」
「音で……涼しく?」
アルベルトさんが興味深そうに眉を上げる。
コンラートさんも、真剣な眼差しで頷いた。
「なるほど……目でなく、耳で涼を感じるというのは、実に趣深い」
数日後、職人に頼んで作ってもらった小さなガラスの風鈴が、窓辺に吊るされた。
夜風が吹き抜けると、ちりん、と澄んだ音が室内に広がる。
思わず目を細め、私は微笑んだ。
「……やっぱり、この音。懐かしいです。夏の夜はこうして、音を聞きながら過ごしていました」
そう呟いた私の肩に、自然にアルベルトさんの手が置かれる。
彼は風鈴を見上げながら、低く囁いた。
「確かに、不思議だな。暑さが和らぐどころか……心まで静まるようだ。まるで君の声と同じだ」
「アルベルトさん……」
思わず俯いた頬に熱が差す。
その横で、コンラートさんが窓際に寄り、音に耳を澄ませながら静かに言葉を添えた。
「この響きがあるなら、眠りに就く前も穏やかでいられますね。……夢も、優しいものになるでしょう」
月明かりに照らされた横顔が柔らかく揺れて見える。
二人の言葉に、胸の奥まで甘い熱が広がっていく。
風鈴がもう一度、ちりんと鳴った。
その澄んだ響きに溶けるように、三人の視線が重なり合う。
「……この音を聞きながら過ごせるなら、この夏も悪くないですね」
私が小さく呟くと、二人は同時に微笑み、そっと両手で私の手を包み込んだ。
夜風に揺れる風鈴の音と、重なる掌の温もり。
どちらも優しく、胸をいっぱいにしていく。
――異国の夏が、二人と共にあるだけで、こんなにも愛おしい。




