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夏の花冠、夜の火花

 昼下がり、領地の広場に集まった人々の賑わいに、私は思わず目を瞬かせた。

 昨日の川の一件もあってか、領民の皆さんが「感謝の宴」を開いてくださったのだという。


 机の上には、焼き魚や収穫したばかりの果物が並べられ、子どもたちは花輪を抱えて走り回っている。夏の風が吹き抜けるたび、木陰に吊るされた小さな灯りが揺れて、なんだか夏祭りのような雰囲気だった。


「奥方様!」


 駆け寄ってきた小さな女の子が、両手で花冠を差し出した。

 驚いて身をかがめると、子どもはにっこり笑って私の髪にそれを載せる。


「……わぁ」


 花の香りと共に、笑い声が広がった。

 顔を赤らめる私の肩に、すっと温もりが添えられる。アルベルトさんが覗き込み、口元を緩めた。


「誰よりも似合っている。……君が花を咲かせているみたいだ」


 低く真っ直ぐな声に、胸が跳ねる。

 続いて反対側からコンラートさんが静かに視線を落とし、囁くように言葉を添えた。


「花も恥じるほどに美しい……あなたにかかれば、どんな飾りも霞んでしまいます」


 その穏やかな声音に、胸の奥まで熱が満ちていく。

 二人の言葉に、領民たちが温かい拍手を送るものだから、ますます顔が火照って俯いてしまった。


 ――こんなに褒められるなんて。どうして二人は、真剣に、こんなにも。


 やがて日が落ちる頃、領民たちが手作りの花火を持ち出した。

 棒の先に火を灯すと、ぱちぱちと火花が散り、夏の夜空を彩る。

 思いのほか大きな音に驚いた子どもが、私の裾にしがみついて泣きそうになった。


「大丈夫、大丈夫。ほら、きれいだよ」


 小さな体を抱き寄せて背を撫でると、子どもはおずおずと顔を上げ、弾ける火花に見とれた。

 その様子を見ていた領民たちから、またしても「奥方様は優しい」と声があがる。


 そのとき、左右からそっと手が重ねられた。

 アルベルトさんの力強い掌と、コンラートさんの穏やかな掌。両方の温もりが指先から伝わってくる。


「……っ」


 驚いて二人を見上げると、彼らは互いに視線を交わしながらも、離そうとはしなかった。

 火花が夜空に散る中で、私は二人の手を強く握り返す。


「……こんな夏、日本でも経験したことがありません」


 かすかに震える声で呟くと、二人は同時に微笑み、さらに手を包み込んでくれた。

 空に散る光よりも、今この瞬間が何よりも眩しく思えて――胸がいっぱいになる。


 宴のあと、宿舎へ戻ると、妙に三人の間に静けさが満ちた。

 昨夜のことがあるせいで、自然に寄り添いながらも互いを意識してしまうのだ。


「……今日も同じ部屋を?」


 真剣な声音で尋ねたコンラートさんに、アルベルトさんはあっさりと頷いた。


「もちろんだ」


「も、もう……二人とも……」


 恥ずかしさに顔を覆ったけれど、結局は自分から二人の手を取ってしまう。

 天蓋の布をくぐるその瞬間、鼓動は早鐘のように鳴っていた。


 ――この夏の夜は、きっと忘れられない。

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