二人の温もりに守られて
夜半、ふと目が覚めた。
額に触れる布がひんやりとして、熱の残る体には心地よかった。
けれど喉がひどく渇いていて、どうしても水が欲しい。
起き上がろうとした瞬間、ぐらりと視界が揺れた。
そのとき、すぐ傍から低い声がした。
「……アリサ殿」
驚いて振り返ると、椅子に腰掛けたまま目を覚ましていたコンラートさんが、静かに立ち上がった。
ずっと――眠らずに看病してくれていたのだ。
「……水が欲しくて」
小さな声で告げると、彼は頷き、用意してあったカラフェからグラスに水を注いでくれる。
そのままベッドの縁に腰を下ろし、私を支え起こした。
「無理はなさらず、私に身を預けてください」
広い掌が背に添えられ、温かな腕に引き寄せられる。
胸板に背を預けながら水を口に含むと、冷たさが渇いた喉に染み渡っていった。
「……ありがとうございます」
かすれる声でそう言うと、彼は首を振った。
「礼など要りません。私がこうしていたいだけですから」
その声音はいつになく柔らかく、熱のせいか胸の奥がじんわりと熱くなる。
額を拭ってくれた布越しに、彼の指先がそっと髪を撫でた。
「どうか……苦しいときは、一人で抱え込まないでください。私は、あなたの夫なのですから」
耳元で落とされた言葉に、心臓が跳ねる。
頬が熱いのは熱のせいか、それとも――。
私は力が抜けたように彼の胸に身を預け、小さく頷いた。
「……はい」
返事をすると、彼は安堵のように息を吐き、背を支えたままそっと揺らす。
その優しさに包まれていると、再び瞼が重たくなっていった。
――眠らずに、ずっとそばにいてくれていたんだ。
その事実が、なにより甘く、心を満たしていた。
次に目を覚ましたとき、窓の外には柔らかな朝の光が差し込んでいた。
昨夜、胸に寄り添ってくれたコンラートさんの姿はなく、代わりに椅子に腰掛けて本を閉じたアルベルトさんの姿があった。
「……おはよう、アリサ」
低い声に、胸がじんと温まる。
彼は机に置いた本を片手で軽く叩き、ゆっくり立ち上がった。
「顔色が少し戻ったな。熱も下がってきた」
そう言って、掌を私の額に触れさせる。
大きな手のひらは驚くほど優しく、思わず目を閉じてしまう。
「君が社交界で無理をしていたのは分かっていたのに……気づいてやれなかった。すまない」
「いえ……私が我慢したせいですから」
そう答えると、彼はわずかに目を細め、困ったように微笑んだ。
「君はすぐ自分を責めるな。俺たちの妻が倒れてしまったのに、『せい』なんて言葉は似合わない」
軽くベッドの縁に腰を下ろし、持ってきていたスープ皿を手に取る。
湯気の立つそれをスプーンですくい、差し出してきた。
「口を開けて。……子ども扱いだと思うか?」
「す、少し……」
小さく呟くと、彼はふっと笑みを漏らした。
「なら、“夫の特権”だと思ってくれ」
冗談めかした言葉なのに、声音はどこまでも真剣で――胸の奥が熱くなる。
私は観念して口を開き、彼の差し出すスプーンを受け取った。
温かなスープが喉を通り、胃に落ちていく。
ただそれだけのことなのに、どうしようもなく満たされる。
「……ありがとうございます」
弱々しくそう告げると、アルベルトさんは満足げに頷き、私の髪をそっと撫でた。
「礼なんて要らない。君が笑ってくれるなら、それだけで俺は救われる」
まっすぐな瞳に見つめられ、息を詰めてしまう。
胸の奥で、昨夜のコンラートさんの優しい言葉と重なり合い、熱いものが込み上げた。
――二人に支えられている。
本当に、心から愛されているのだ。
その実感が甘く胸に広がり、私は頬を紅潮させながら微笑んだ。




