休息のベッドサイド
社交界から日が経つにつれて、屋敷にはひっきりなしに招待状や客が訪れるようになった。
応接室で笑顔を保ち、食堂で礼を尽くし、時には社交場に出向いて、慣れない人々に囲まれる。
そのたびにアルベルトさんとコンラートさんが隣で支えてくれたけれど――やっぱり、胸の奥には重たい疲れが積もっていた。
「顔色が優れませんよ、奥様」
廊下を掃除していた時、使用人が心配そうに声をかけてくれる。
私は慌てて笑みを作った。
「大丈夫です。ただ……少し疲れているだけですから」
本当は夜も浅い眠りしか取れず、食事もあまり喉を通らない。
けれど二人の前で弱音を吐くのは嫌で、「大丈夫」と言い聞かせて過ごしていた。
その朝、ついに体が限界を迎えた。
目を覚ました瞬間から体が重たく、起き上がろうとしただけで視界が揺れる。
それでも「今日も笑顔でいなきゃ」と思って布団を出ようとしたとき――。
「アリサ殿?」
扉をノックして入ってきたコンラートさんが、私を見て一瞬で表情を険しくする。
すぐに駆け寄り、額に掌を当てた。
「……っ、熱い……!」
落ち着いた声なのに、焦りが隠せない。
「医者を呼びます」とすぐに部屋を飛び出していった。
やって来た医者は一通り診察したあと、静かに告げた。
「これは病ではありません。心身の疲労が重なって、熱を出したのでしょう。しばらく休息を取れば治ります」
その言葉にほっとしたのも束の間、私は弱々しく謝ってしまう。
「……ご迷惑をかけて、すみません……」
すぐにアルベルトさんの低い声が返る。
「謝るのは俺たちだ。君に気を張らせすぎた」
隣では、コンラートさんが静かに首を振った。
「どうかご自分を責めないでください。社交界で気丈に振る舞われたのは、まぎれもなく勇気と努力の結果です」
その言葉に、胸がじんわりと熱くなった。
それからの時間、二人が看病してくれた。
アルベルトさんは食事や薬、部屋の環境を整えてくれた。
「必要なものはすべて揃えた。君は休むことだけ考えろ」と真剣な表情。
時には「俺が食べさせてやろうか?」なんて茶目っ気を交え、思わず笑わせてくれる。
一方でコンラートさんは、黙って濡れ布を替え、手を握ってくれていた。
「苦しくはありませんか」「眠れそうですか」と、低く落ち着いた声で気遣ってくれる。
大きな掌に支えられているだけで、心が安らいでいく。
「……私なんか、もったいないくらいです」
熱に浮かされて、そんな言葉が漏れてしまった。
すぐにアルベルトさんが遮る。
「“私なんか”は禁止だ。君は俺とコンラートの妻だ。それだけで十分に価値がある」
続いてコンラートさんも、静かに頷いて言葉を添える。
「そうです。あなたがここにいてくださることが、私には何よりの救いです」
涙がにじみ、視界が揺れた。
二人の言葉が心の奥に深く届いて、自然と唇から零れる。
「……私、幸せです」
その一言を最後に、私は安堵の眠りへと落ちていった。




