支えられて踏み出す一歩
何度も足を踏み外し、ナイフを落としそうになりながらも、日が暮れる頃には動きにぎこちなさがなくなっていた。
背筋を正してナプキンを扱う手も、ぎこちないながら自然に。ダンスのステップも、最初の頃のように恐る恐るではなく、リズムに乗って体が動く。
最後にアルベルトさんがゆったりと一曲を踊らせてくれ、終わると大きく頷いて笑みを浮かべた。
「これなら口うるさい貴族も文句は言えまい」
いつものように茶目っ気を含んだ笑いではなく、心から愉快そうな表情だった。
その一言に、胸の奥から安堵が広がり、思わず小さく笑ってしまう。
その隣で、コンラートさんが静かに口を開いた。
「お疲れさまでした、アルベルト殿。……そしてアリサ殿も。ここまで短期間で身につけられるとは、並大抵のことではありません」
労わるような眼差しで、柔らかく笑う。
彼の声音は落ち着いていて、頑張りをまるごと受け止めてくれるようだった。
荒削りながらも必死に取り組んだ自分の努力が、ちゃんと見てもらえていたのだと気づいた瞬間、胸が熱くなる。
「ありがとうございます、二人とも」
私が小さく頭を下げると、アルベルトさんが肩をすくめて笑った。
「ああ。本番では何があろうと俺たちがいる、臆することはない」
真っ直ぐに射抜くような瞳。冗談めかすことなく放たれたその言葉に、思わず胸が跳ねた。
続いてコンラートさんが、静かに一歩踏み出して告げる。
「……どうか恐れずにいてください。あなたに向けられる視線や噂がどれほど厳しくとも、私たちが必ず支えます」
その誠実な声は、優しく心の奥に沁み込んでくる。
導くように強く牽いてくれるアルベルトさんと、隣で変わらず寄り添ってくれるコンラートさん。
二人の存在が胸の奥で溶け合い、じんわりと熱を広げていった。
「……はい。なんだか、怖くなくなりました」
小さく笑みを浮かべてそう言うと、二人の夫はそれぞれ違う表情を見せた。
アルベルトさんは愉快そうに口角を上げ、コンラートさんは安堵のように目を細める。
――この人たちが一緒なら。
どんな場に立たされても、私はきっと乗り越えられる。
その確信が、胸の奥で温かく灯るのを感じた。
その夜、部屋に戻ってからも胸の奥の温もりは消えなかった。
練習の疲れで体は重いはずなのに、心だけは不思議と軽やかで、瞼を閉じても二人の言葉が繰り返し浮かんでくる。
――「俺たちがいる、臆することはない」
――「必ず支えます」
その響きを抱いたまま眠りに落ち、翌朝は驚くほど晴れやかな気持ちで目を覚ました。
すると食堂に入るなり、机の上に広げられた色とりどりの布地が目に飛び込んできた。
艶やかな絹、柔らかな麻、そして金糸や宝石で縁取られた布の数々。
「……これは?」
思わず首を傾げると、アルベルトさんが当然のように答える。
「次に備えなければならん。社交界に出るとなれば、まずはドレスを仕立てねば」
その横でコンラートさんが頷き、丁寧に布の一枚を手に取る。
「色や形で印象は大きく変わります。アリサ殿にふさわしいものを、共に選ばせていただきたい」
布の輝きに気後れしながらも、二人の真剣な眼差しに背中を押される。
――いよいよ、本当に舞踏会に臨むのだ。
胸の奥で、不安と期待が入り混じる鼓動が高鳴っていた。




