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【第75話:ルメリナに集う】

鏡の部屋には日付も時間もない。

ずっと同じ明るさで、部屋自体には何も変化がないので、鍛えられたカーニャの時間感覚もとっくに麻痺している。

カーニャはハンターとして鍛え上げられているので、とても体力がある。

2日くらいなら走り続けられる体力だ。

その体力がつきると、開放されスライムに漬けられる。

このスライムは身体を洗い衛生的に整えるだけではなく、食事の代わりになりカーニャの体力を保っている。

責め続けるために。

スライムがカーニャをくるんで大きな半球にまとまる。

あのユアを運んだスライムと同種の透明なスライムだ。

口と鼻の周りに空気を残し、それ以外は全て漬けられる。

そうして少しだけ楽になると、カーニャはすぐに気を失うように寝てしまう。

寝ている間にスライムによってメンテナンスされるのだ。

今日がいったい何日で、あれからどれくらい経ったのかも解らない。

一つだけわかることは、もう自分は元の自分ではないと言うことだけは解った。

あの楽しい旅の思い出の中に、自分の居場所はもう無いのだと。




ポルト・フィラントで別れて2週間後、アイギスとカルヴィリスがルメリナに来てくれた。

二人はあの後マルタ商会の手引でこっそり入院させてもらった。

カルヴィリスは意識が戻ってもまだ立つこともできないほど消耗していたのだ。

アイギスがお世話しながら療養してもらったのだ。

諦めず探していると病院にお見舞いとともに手紙を出してあったので。

先週退院し向かってくれたのだ。

カルヴィリスはまだしばらく無理はできないので、すみれ館の近くのホテルを一室借り上げて、アイギスと住んでいる。

ノアはすぐに見舞いに行くのだった。

「カルヴィリス‥‥あいたかったよぉ‥‥」

そういってベッドの横で跪いて抱きつくと、カルヴィリスが少し二人にしてと言う。

皆でホテル一階の喫茶店にお茶を飲みにいった。

「義兄さんはもう身体大丈夫なの?」

「おかげさまでな」

どうやらあの時使った術は影獣の秘術で禁呪でもあるそうだ。

人を影獣にする禁呪だ。

ダウスレムの周りを調べていた頃手に入れた資料から、自分で解読しテストしていたらしい。

非常に危険な術だが、切り札にはなったと笑う。

ユアはカンカンに怒ってポカポカしていた。

戦士のポカポカを暗殺者が受けるのだ‥‥血なまぐさいポカポカになった。

「カルヴィリスにも謝りなさい!義兄さん!!」

ユアはそういって怒るのであった。

ノアの事もアイギスはカルヴィリスから聞いていて、いつか会いに行こうと話していたとのこと。

思いがけずかなって嬉しいとも言ってくれた。

ラウマがにっこり御礼を言う。

「ノアのことをそう言ってくれてとても嬉しいです。ありがとうアイギスさん」

なんだか最近のラウマは酷く人間臭いなとユアもアミュアも思うのだった。

社会的になったなあと偉そうに思うのである。

結局夕方にノアが降りてきて、帰宅となった。

ノアはとても満足そうで、にこにこしていた。




ルメリナでは基本的に少人数で動いている。

バディ単位だ。

ユア達が夜霧で探索を進めるときも有れば、ノア達が夜霧を借りて遠出することも有った。

マルタスはハンターオフィスで真面目に仕事をしながら、裏で各ハンターやスリックデンの知り合い、王都の知り合いと各地で調べ続けた。

アイギスも昔の伝も使い各方面から情報を集めてくれる。

レヴァントゥスも時々ユアの家に来て、話をする。

「なかなか全てを調べることはできない。影獣はわりとプライドが高いのでね‥‥なかなか底をみせない」

ユア達には伺い知れない世界だが、それは普通の貴族全般そうだとフィオナが補足してくれた。

「例えばヴァレンシュタイだけでも寄り家が30家もある。子爵家だけでも6つある」

これはフィオナやセレナも詳しく知ることで、うなずいている。

その全てを調べるのに手間がかかるので、大きい方から調べているとも言った。

ヴァレンシュタインの関連施設は無数に寄り家を含んだ土地にあり、順に調べるしか無いとも。

ルメリナに戻ってすでに二月が経ち春が訪れ、ユアでさえも緊張感を失いそうな日々が続いた。

影獣たちが息を潜め、隠れているかのように情報がピタリと入らなくなった。

まるで何かを待っているかのように。


少し家を改築し、地下室を設けた。

ラウマの地魔法を駆使して家の下に穴を作ったのだ。

そこに職人を入れて整え部屋にしてもらった。

将来的には倉庫にするが、今はミーナとレティシアを匿うために使う。

魔道具で空気の循環もできて、魔導冷暖房完備だ。

これはアミュアの提案で始まったのだが、ミーナとレティシアを少しづつ広い所に移そうと決めたのだ。

まずは二人っきりでいいので今より広い空間を使わせる。

地下にはシャワールームも小さいながら有り、魔導コンロと魔導冷蔵庫も小さいものを置いた。

小さな家のように仕立てて、生活させようということだ。

フィオナとセレナがお世話はするが、調理も食事も掃除もできるだけ二人にさせる。

それがリハビリになればいいと思ったのだ。

最初はほとんど侍女達がお世話したが、段々とできることが増えて、上に来ると侍女二人で抱き合って泣いている事も有った。

嬉しかったのだ。

友人たちがまた一歩進んでくれたと。


時々バディをスワップして刺激を求めた。

雪解けしてきたので、アミュアとノアは夜霧で雪月山脈を越えて、ミルディス公国側の街まで来ていた。

節約ですとアミュアが言うので、山脈の前後で一泊づつして3泊4日の探索となった。

2泊目のキャンプをあの懐かしい古城で行い、ラウマに参ることとした。

ポルト・フィラントへの移動時にも途中で祠に寄って接続したアミュアだったが、直接会いたかったのだ。

地下まで普通に侵入したが、影獣にはあわず井戸まで来れた。

「ずいぶん久しぶりなきがするね」

ノアはずっとラウマと接続していないのでなおさらであろう。

「わたしはこないだ一度祠で話しています」

ノアとアミュアとラウマの三人はラウマ像のある祠から、女神ラウマと会話することができるのだ。

ルメリナの側にある泉の祠は接続が切れていて、使えない。

前々からアミュアは雪が溶けたら来たいと言っていたのだ。

すっと井戸に吸い込まれると落下して、漆黒の中に紫の円盤が見えてくる。

アミュアに横抱きにされたノアは、ちょっと緊張する。

最後に来た時に、なんだか喧嘩別れみたいに飛び出したのを思い出したのだ。

カルヴィリスと話した時に色々思い出して、女神に詫びたいと同行してきたのだ。

アミュアのレビテーションで着地すると、ぱあぁっと金色の光りが柱になり降り立った。


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