【第73話:過去が繰り返し現れる】
「大丈夫‥‥絶対あきらめない」
「ユア‥‥」
真剣に告げるユアに、危うい気配をまた感じ心配するアミュア。
レヴァントゥスの情報にあった地点をすべて潰すと、方針が定まらなく成った。
王都周辺の旧貴族家はレヴァントゥスが今も調べているが、いい情報はまだない。
カーニャ失踪からすでに3ヶ月になろうとしている。
王都の拠点は引き払い、一旦ルメリナに戻ることとなった。
マルタスを急いで戻さないと、ルメリナのハンターオフィスが潰れると脅されて、一旦急ぎ連れて行くことと成った。
夜霧を使うのだが、アミュアがユアに抱かれて前席に乗り、マルタスが騎乗することで2日ほどで戻れる予定だ。
三人だと流石に最高速でとはならないので、余裕をもって2泊と見積もった。
ルメリナの南にある山にそって、街道からかなり離れたのでそれなりに魔物が出る。
ただし移動中に夜霧に追いつける種類は限られるので、それほどエンカウントしなかった。
今日はワイバーンが二匹からんで来たくらいで、アミュアが秒殺してしまった。
お肉がおいしいので、ちゃんと解体して持ち帰ることとした。
夕方遅くまで頑張って進んだが、夜間はさすがに寒いので泊まろうと野営する。
いい感じの洞窟が有ったので、そこにキャンプすることとした。
入口が狭いので、アミュアの結界を貼れば魔物の心配もなさそうであった。
平地でも結界を貼れば同じなのだが、魔力消費が違うので、可能であれば使わずにいたいのだ。
洞窟は都合よく上に隙間が有るようで、焚き火をしても問題ないと判断し、寒さを凌ぐためにも焚き上げた。
いつもより大きめの火が上がり、ちょっと焦げ臭いが温かい。
火の周りで集まって食後のティータイムだ。
移動中はさすがにユアは飲まないのだが、マルタスは普通にあの強い酒を飲んでいた。
アミュアも飲むと言ったが、二人に全力で止められた。
「はいココアだよアミュア」
「ありがと」
ちょっとぷくっとしてたアミュアもココアが出てくる頃には機嫌を直した。
「わたしだってもう大人なんですから、お酒もポルト・フィラントで飲みましたよ?」
ふふっと笑うユア。
「じゃあ家に帰ったら飲ませてあげる!」
「うん」
納得したアミュアはすんすんとココアの香りを楽しんでいる。
あまいカカオの香りがして、ふたりともご満悦。
マルタスはちびちび例の火酒を舐めている。
ココアとアルコールの香りで、ちょっと幸せな雰囲気だ。
マルタスが真面目な顔で告げる。
「ユア‥‥あまり言いたくはないが、一応言うぞ」
ユアもある程度予想がついたのか姿勢を正す。
「‥‥諦めろとは言わないが。覚悟はしておくものだ」
マルタスもあのポルト・フィラントの施設から少し沈みっぱなしだ。
「うん‥‥ありがとう」
自分のためにと言ってくれているのがわかるので、納得しないが御礼は言うユア。
アミュアはじっとユアを見つめる。
「昔の話をしただろう?最初の事件の話だ」
「うん‥‥」
ユアもアミュアも暗い顔になる。
初めて聞いたときよりも、今は色々と想像がつく。
「最初の犠牲はおれの知り合いでな‥‥こないだの施設にその子のコピーがたくさんいた」
表情のなくなるマルタス。
「あの三姉妹、イーリスとかも‥‥」
ぐっと怒りの気配を強くするマルタス。
「あの子達もその子と同じ顔なんだよ‥‥いつまでも悪夢が続く」
痛ましそうになるアミュアと、ユアも少し辛そうになる。
「俺はその事件の後も賢者会と戦った。次々にやつらの施設を今回のように襲い破壊して回ったんだ」
マルタスは深い悲しみの表情。
「そのたびに沢山の少女や女性を手に掛けた‥‥‥‥今回もだ」
マルタスの長い沈黙には、遠い昔からの後悔が滲む。
「救う道が有るのなら‥‥そうしたいと思うのだが‥‥‥‥毎回求められるので消し去ってきた」
マルタスの目が赤くなる。
涙を堪えているのだ。
「消してくれ‥‥殺してくれと‥‥頼まれる」
立ち上がったマルタスが背を向ける。
「俺は‥‥それに答えてきた」
それだけ告げると外に出てしまった。
ユアにとんとアミュアが寄りかかる。
アミュアの目も真っ赤で、涙を堪えていたのだ。
そっと抱き寄せてお腹にアミュアを抱きしめる。
横すわりのアミュアがすすり泣きし始める。
優しく髪を撫で下ろすユアは考え続けていた。
(それでも‥‥諦めない)
強い決意が瞳に宿っている。
(たとえ‥‥カーニャが望まなくても、必ずあたしが救い出す)
ユアはミーナやレティシアを見つけたときからもう決めていたのだ。
自分がカーニャを支えてでも救うと。
あの二人が依存しあい生き延びたように、自分がカーニャとともにあって支えるのだと。
たとえカーニャが死を望んでも遠ざけるのだと。
そう決めているのだ。
じっと右手を見るユア。
(力をかして‥‥ペルクール‥‥滅ぼすだけではないとあたしは知っているよ)
この違いがユアとマルタスの違いとなるのだった。
マルタスもまた己が右手を見ている。
(何度滅ぼしても終わりにならない)
少し小雪がちらつく寒い夜だが、マルタスの心の方が冷え切っている。
うつむくマルタスの両目は涙をこぼし続けていた。
それくらい辛かったのだ。
守りたいと思った少女を何度も葬るのは。
(いったいどうやって‥‥いや決まりきっている。あの22年前に既に準備したのだコピーする準備を‥‥)
それは22年前のあの少女が、より一層苦しんだことの証明として、マルタスの前に現れる。
それが辛いのだ。
過去に別の少女や女性を葬った時にも、そこに少女を重ねて一つずつ、当時気付かなかったあの少女の痛みを知っていった。
一つずつあらためて繰り返しマルタスは傷ついたのだ。
何も知らず話しかけ、姿を見せろと、一緒に逃げようと困らせた自分が憎くすら思えた。
どれだけそれがあの少女にとって辛かったのか、傷つけたのかと、今ならば想像できるのだ。
(あんときの俺をなぐってやりたい‥‥)
天を仰ぐマルタス。
いつまでも、いい大人が泣いていてはいけないと。
天から降り落ちる冷気の粒は、つぎつぎとマルタスの熱を奪っていく。
身体は寒さで震えるのだが、少しだけ心の痛みも麻痺させる。
そうして身体の熱がなくなるほどに、心も落ち着きを取り戻す。
そうやって生きてきたのだ。
過去を悔やみ続け、忘れようとして。




