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わたしの手が届いたとき  作者: Dizzy
第1章
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【第7話:理由をしりたいの】

馬車が速度を落とした。

次の駅が近いのであろう。

「2つ先の降車駅でおりたら、セリシアに会えるはずだ。一度会ったよね?すみれ館で」

そう告げたレヴァントゥスに、目を丸くしたユアはポンと手を打ち答えた。

「あのゴスロリの娘?ああ‥‥そういえばセルミアの面影あるかも」

レヴァントゥスもにこりと笑う。

「できればあまり怪我もさせないで欲しい」

くすっとユアが笑う。

「レヴァントゥスはセリシアが好きなのね。わかった、できるだけ気をつける」

「いや?!べつに好きではないですよ?義理です義理!」

きょとんとするユア。

レヴァントゥスが慌てる意味が解らない。

ユアにとっての好きは友誼にふくまれる。

そこに性差はないのだ。

そんな話の中馬車が又停まる。

「ここで下りますね、ではヨロシク」

さっとそれだけ告げて逃げるように去ったレヴァントゥス。

進みだした馬車の中でユアは思った。

「カーニャがどこにいるのか聞けばよかった」

しょんぼりするユアであった。

ユアはカーニャとしばらく会っていなかったので、楽しみにしてきたのだ。




馬車を下りつユア。

料金は乗る時に払うシステムなので、精算済みだった。

無人の馬車駅に降りたユアは辺りを見回す。

「あっちに鉱山があるんだ?線路も見えるな」

線路にそって道があると言ったほうが正解かもしれない。

そうゆう土地なのだ。

辺りに人気がないので、差し当たって鉱山に向かうユア。

気配を感じ取り右手の崖をみた。

まだ距離があるが、魔力の高まりを感じた。

そして先日覚えた視線の気配も感じるのだった。

(あれがセリシアね、すみれ館でみたあの子が影獣だったなんてね)

距離はあるが、視線が合った。

一気にセリシアの魔力が高まる。

ふきだした魔力は緑色、風魔法だろう。

風魔法は弾速の早いものが多く、照射される弾も視認性が低い。

すうと音も気配も少なくユアが移動を始める。

魔法の制御には、弾道補正という式がある。

大抵の照射型魔法に内蔵される式で、移動目標にたいして差分を見切り発射されるのだ。

ユアがジグザグに移動し始める。

ピュンとなにかが顔の横を通った。

(なかなか早い)

横の移動を大きく取るユア。

すぐに2射目がきた。

ユアがいつの間にか抜いていた短剣で切り払う。

パァン!

短剣には金色の光をまとっている。

雷神ペルクールの破戒の光だ。

魔力で作られた槍状のものが切り払われ宙に消えた。

ユアの右手の力は全てを灰に変える。

高さによる不利があるので、ユアは崖に一気に近づき射線を切る。

(ここで飛ぶか、落ちてくるなら相当の使い手)

ユアが一気にジャンプして崖の中段あたりの当てにした出っ張りに至る。

トンっと軽やかに更に飛ぶ。

次は崖の上に出るだろう。

(こないか)

途中で攻撃を受けたら、すぐ目の前の崖を蹴って避けるつもりだったのだ。

すっと崖を越えた瞬間に眼の前に強力な魔力が来る。

ドォン!

崖から出た瞬間の空中で狙われたのだ。

しかも威力からしたら中級のダブルキャストか上級だ。

(うまい、最初から狙っていたな)

ペルクールを纏った剣で斬れば、衝撃はこない。

質量も運動エネルギーも熱エネルギーも全て塵にかえて消すので反動が来ない。

ユアは綺麗に崖上に着地、膝もつかないで残心している。

言葉を交わせる距離にセリシアが居て、杖をむけている。

「セリシアね。すみれ館であったね」

ユアの言葉は少ない。

先日の比ではない殺気がセリシアに向けられている。

かたかたと脚がふるえているセリシア。

ユアは残心したまま左にすり動く。

脚はクロスしない範囲で送り足だ。

どの瞬間でも前に出られる姿勢。

ユアを追い体を向けるセリシアの表情は硬い。

辛抱強く言葉を待ったが、セリシアに会話する気は無いようだ。

急に馬鹿らしく感じるユア。

剣を下ろしてしまい、話しかけた。

殺気も霧散した。

「あなた、なにがしたいの?あたしを殺したいの?」

セリフほど緊迫感のない表情。

ユアにとって殺し合いはすでに日常なのだ。

セリシアと違い。

かたかたと上半身まで震え、両目は真っ赤に潤んでいる。

(なんだかあたしがいじめているみたい)

チンと短剣を戻すユア。

するりとセリミアに近づき杖を右手で下ろさせる。

「もうやめよう?少し話してみない?誤解があると思う」

ついににっこり笑うユア。

その目にはもう敵意すら無かった。




杖を地面に置かせたユアは敷布を出してセリシアを座らせた。

状況が飲み込めないセリシアは呆然としている。

(3回撃ったのに?何故殺さないの私を)

ユアは道具を使い小型のコンロに火をつけた。

収納魔法式だろう腰のポーチから出して、同じく引き出した小鍋を掛けた。

流れるような動作は手慣れていて、旅の中に生きるハンターの手練れをみた。

セリシアの心が落ち着いた頃、紅茶の香りが漂ってきた。

(これはミルディスのお茶?飲んだことがある)

最後に何かをとりだしたユアがカップに落とす。

順番に何回かに分けて二つのカップを満たした。

手際だけではない、何かがこもった手順だ。

「あたしには大切な人が何人もいるの」

話しかけてくるユアの口調も少しかわった。

ふわっといい香りがして、眼の前にカップが差し出された。

両手でうけとるセリシア。

(あたたかい‥‥)

金属の薄いカップは速やかに熱を伝えてくる。

秋風に冷え切って冷たくなった手を温めてくれた。

「大事な人には傷ついてほしくないの」

そう言って自分のカップに息を吹きかけながら、コンロを挟んだ向かいに座るユア。

「セリシアには大事なひとはいないの?」

まっすぐ見つめてくるユアの質問に、すぐには答えられないセリシアであった。

カップから漂うのは黄色い花びらだった。

夏の花であるそれは少しだけ苦みを伴う紅茶によく似合う爽やかさだった。

きっと美味しい紅茶であろうとセリシアにもわかる。

手間を掛けてまで振る舞うユアに、どう答えれば良いのかセリシアには解らなかったのだ。

秋空は晴れ上がり、遠く薄い雲が流れていた。



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