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【第70話:おとなのさんにん】

ユア達の騒ぎが起こり、施設内が慌ただしく目覚めていく。

「はじまったな‥‥」

マルタスは一番奥の侵入口に来たので、カルヴィリスとアイギスは待機済みだろう。

タイミングとしては非常に好ましい時間だ。

排気ダクトが眼下に見える。

人間の通れる大きさのそれは、資料によれば地下3階に降りるはず。

そこから地下2階までがマルタスの担当で最も有力なカーニャの所在地だ。

カチャとだけ音を鳴らしダクトの網を外し、音もなく飛び降りた。


カルヴィリスはフィヨルド側のビル屋上にいる。

カルヴィリスにすれば5階建てのビルなど平地と変わらない。

するりと登ってきたのだ。

カギはかかっていたが、特にそれ以外細工が無いようで、カチャリとドアが開けられた。

眼下で炎が吹き出し、騒ぎが起こる。

ユア達だろう。

(いいタイミング‥‥本当に何かに愛された二人ね)

カルヴィリスは微笑んで侵入していく。

この5階から2階までがカルヴィリスの担当となる。


同じ時間にアイギスは外海側の一階裏口付近に潜伏していた。

裏口を破り、一階と地下一階を担当する予定だ。

ゾクっと殺気を捕らえた。

いや声をかけるように、不要に殺気を当ててきたのだ。

(手練れだな‥‥)

するっと影が開けた裏口前に出てくる。

アイギスの目が見開かれる。

「‥‥想定外だ‥‥まさか影四師の一人が出張ってくるとはな」

「アイギスと名乗っているそうだな。人にでもなったつもりか?」

感情の感じられない中庸な声。

男女すら不明な声は影四師の特徴らしいと噂には聞いた。

尋常じゃない気配で本物と確信するアイギス。

かつての師匠カルヴィリスの師とも言える存在。

気配を全く捕らえられないのだ。

眼の前にいるのに。

魔法ではないのは自分でも使うのでわかる。

鍛えられた技術のなせる技なのだ。

「18年前に生まれ直したのでな」

それだけ告げると背中から曲刀を抜く。

シャムシールといわれる東方の曲剣だ。

アイギスのそれは片手持ちで短めだが、剣幅は少し有り珍しいデザインだ。

左手には暗器が仕込んであり、今はスローイングナイフをつまんでいる。

「では人として死ね‥‥」

するっと名乗りもなく近づく影。

人の動きではない。

アイギスの脳裏にカルヴィリスの笑顔が浮かんだ。

(死ねないな)

心に強く思うアイギスだった。


キュパっと左右につっぱり減速したマルタス。

きっちり三階分下りて止まったのだ。

すぐ下の右手にギャラリがあり、室内の光りが漏れてくる。

するするとそこからは音を立てないよう気を付けてギャラリの隙間を覗く。

特に気配がないので、バゼラードで黄金を撒き散らした。

サラリと音もなく侵入に邪魔なギャラリが消える。

塵にしたのだ。

すっと床まで降りたマルタスは部屋の奥の扉を目指した。

ドアはそれ1枚だった。

気配を少しだけ探り、チャとドアを開けて外に出て閉める。

左右に廊下が続いている。

奥行きの長さと脳内のマップをすり合わせ右から進む。

すぐドアが有るので、気配を探り開けてみる。

カギがあったのでピッキングして開ける。

するっと入ると資料室のようでファイルが棚に大量にある。

資料ではなくドアと人間だけ探して何もなしと外に戻る。

同じ手順で全てのドアを開けたマルタスが一番奥で反対向きのドアを探る。

(でかい部屋だな‥‥いやな予感しかしない)

最後にまわして反対側を見るか一瞬悩んだが、するりと開けて入る。

赤い非常灯だけの薄暗い室内は吹き抜けなのか天井が高い。

かなり広い部屋だ。

奥の壁際にみなれた設備が並んでいる。

(くそ‥‥ここもか)

前回カルドラスの鉱山でも見た設備だ。

吹き飛ばしてやろうと近づいていくと、ふっと濃い匂いがする。

(くそがぁ、気分わりいな作業したばかりか)

その作業には匂いが伴うのだ。

中央まで行くとカッと白い照明が全てついた。

一瞬目がくらんだマルタスが片目で周囲を確認。

片目は回復中だ。

後ろの入ってきた扉に2つの人影。じりと下がりながら振り返り両目を開けた。

すでに視界は回復していて、はっきりと姿が見えた。

そこには見覚えのある少女が二人立っている。

エーリスやイーリスと同じ顔。

そしてまったく違うおぞましい気配だった。

少女達はオレンジ色のワンピース水着だけ着て武器を構えていた。

よくみればオレンジが透明だとわかる。

透けて下が見えるのだ。

ゴクとマルタスの喉がなる。

マルタスは女性嫌いだった。


特別なこともなく順調に確認して回るカルヴィリス。

地上には何も無いだろうと予想もしているので、テンポよく進んだ。

2つ降りた廊下で人影と対峙した。

気配を捕らえられなかったのは久しぶりだ。

「オルディクス‥‥久しぶりね」

かつてダウスレムと会合したオルディクスを見たことがあった。

ダウスレムの横で側近として会っている。

「‥このまま去れ‥カルヴィリス‥ケイコク‥最後の‥‥」

じわりと気配が湧く。

脅しであろう。

死を予見したカルヴィリスは心でわびる。

(ごめんアイギス‥‥あいしてるわ‥‥)

ここを生きて離れることは難しいとカルヴィリスは覚悟を決めた。

かつてのカルヴィリスであれば嬉々として決めた覚悟だ。

主人ダウスレムの為に死ぬのは光栄だし、ダウスレム亡きあとは後を追いたい気持ちでいっぱいだった。

ダウスレムに禁じられなければすぐに追っただろう。

‥‥今のカルヴィリスには悔いがある。

(もっと沢山愛してると伝えるべきだった‥‥全然たりないや)

ぎりと奥歯がなる。

赤々とカルヴィリスの瞳に赤光が燃え上がった。

「ずいぶん舐めてくれるわね‥‥王と呼ばれているそうね?‥‥小物が‥‥」

ぎりりと犬歯ものばすカルヴィリス。

ゆらゆらと漏れ出した魔力で髪が揺れる。

(死ねない‥‥)

カルヴィリスの中に新しい覚悟が産まれるのであった。






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