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わたしの手が届いたとき  作者: Dizzy
第1章
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【第6話:東にはなにがあるのかな】

スリックデンの東部にも街がある。

スリックデンから十字に伸びる街道の東側に3日ほどで汽車なら着く。

今回はユア一人なので、夜霧はアミュアに貸して魔導汽車で来たのだ。

馬車は汽車より遅いので、距離がある今回は諦めた。

秋ファッションのユアが汽車を降りる。

オレンジの長袖シャツと、焦げ茶の丈が短いキュロットスカートだ。

ブーツは膝上までくる茶色の革製で、ハイソックスがオレンジのラインをはみ出している。

今回は遠征なので、革の軽鎧と革の腕当ても装備している。

腰には細身の短剣一本だが、新調した小さめの背嚢は斥候兵仕様で二重圧縮収納だ。

その中には愛用のクレイモアも収納している。

「カルドラス鉱山都市か、初めてきたけど結構人がおおいな!」

先日カーニャをルメリナに招いたのだが、今取り組んでる依賴が終わらないので、手伝って欲しいと手紙で打診が有ったのだ。

「ええと、カーニャの言ってた所はもう少し奥の町だ。ここで馬車に乗り換えと」

汽車の駅近くには、各地への定期馬車があるようだ。

カーニャの手紙でもルートが指定してあった。

行き交う馬車の数は多く、中には巨大な荷役用の馬車もいる。

カルドラスは王国内の最大鉱山を持ち、近隣の山々には良質な鉱山が多い。

主に鉄道網でこの町に集められた鉱石は、スリックデンを経由し遠くポルト・フィラントを経て海路で輸出もされている。

駅は貨物と共用で巨大な施設だ。

近隣には採掘拠点を支える町々が点在している。

その一つがユアの目的地であった。

この町をこえ東側には砂漠が有りさらにすすめば海に、東方異国へと至るが、過酷なルートで商用には使われない。

迷い込んだら抜けられぬ死の砂漠とも言われているのだ。


馬車は辺境の町が目的地で、乗客は少ない。

ユアを含めて二組3名しか乗っていない。

残りに二人はかわいらしいドワーフの親娘のようで、幼女が母親に抱きついてユアを見ていた。

「こんにちわ、おじょうちゃん。アメあげてもいいですか?」

後半は若い母親に向けた。

「ありがとうございます。メメちゃんアメくれるってよ?おねえさんが」

「アメちゃん好き!ありがとう!」

そういって差し出してきた小さな手のひらに、ユアはオレンジ色の包み紙がよじられたアメを渡す。

自分もついでに一個口に入れて、母親にも渡す。

母親も見た目は小さい頃のアミュアくらいだ。

3人でオレンジの香りと甘さを味わいながらごとごとと、あまり舗装の良くない街道に揺られていた。

アメが無くなる頃、最初の町に付き親娘はおりていった。

小さい手が振られてユアも窓からふり返して笑顔が交わされた。

この町で乗り込んできた男が、少し走り出すとユアに話しかける。

「お願いがあるんですよね」

ユアはこてん首をかしげた。

「あれ?なんだろう?聞いたことある声」

ユアはあまり記憶力が良くないが、気配を含めて覚えるので、ある意味勘所は良い。

男はターバンとベールを外し、顔をさらした。

「前に一度王都でお会いしました、レヴァントゥスです」

整った顔をさらしたレヴァントゥスがにこりと笑う。

陽キャの笑顔だった。

ユアもにこりと笑うが、目は笑っていないし、右手が笑いながら短剣の柄に添えられた。

「ちょっとまってまって、戦わないですよ?お願いに来たと言ったじゃないですか」

ユアの手が柄に添えられ停まった。

ユアの腕ならこの間合いで外すことはない。

両手を前に出し敵意のなさを示すレヴァントゥス。

「ほら武器もないですよ?」

「あんた魔法使いだってアミュアに聞いたよ。今なら発動前に斬れる」

じわりとユアの殺気が滲む。

「話を聞いてください!お願いしたいことがあるんです」

レヴァントゥスの必死さに、嘘ではないと感じたユアが殺気を収める。

手はそのままだ。

「きいてあげる、なにかな?」

レヴァントゥスは丁寧に事情を説明し、協力を仰いだ。

セルミアに妹がいること。

ユアをカタキと追っていること。

今はレヴァントゥスが傘下にいること。

悪い娘では無いので、殺さないで欲しいのだと真剣に頼み込んだ。

しばらく考え込むユア。

「手紙もあんた達のしわざ?カーニャはいないの?」

ちょっと眉がさがり寂しそうなユア。

「手紙は僕が出したけど、事情は嘘ではないよ。カーニャもきっと困っていると思う」

ふむふむと考えたユア。

あっさり答える。

「わかった、殺さないと約束するよ。その代わりカーニャにもあたしの仲間にも手出ししないでね」

ぶんぶんと首を縦にふるレヴァントゥス。

緊張が少しとれて柔らかい微笑みに戻る。

「もちろんだよ、セリシアにも諦めるよう伝える。一度だけ相手してやってくれ」

少しさみしそうにするレヴァントゥス。

「姉が、セルミアが好きな妹なんだよ。君には迷惑だろうけど、気持ちは察しているんだ僕も」

ユアは考え込む。

「もしかして‥‥あんたって悪い影獣じゃないの?」

ドキっとするレヴァントゥス。

影獣だとは一度も伝えていない。

「ええと悪人では無いつもりです」

またしゅんと小さくなるレヴァントゥス。

また考え込むユア。

「あたしは2度セルミアに殺されかけた。一度はアミュアが記憶と体の半分をかけて助けてくれた」

ユアの眉がきりっと上がる。

思い出したのだろう、辛いことを。

ふっと表情を戻しさらに告げる。

「二度目はセルミアの術式自体が暴走して、自滅したの」

ユアは柄から離した右手を見る。

「セルミアの時に気づいたんだけどね、この右手が滅ぼした相手は自身の持つ理想の世界に行くの」

レヴァントゥスに視線をもどすユア。

にっこり笑っていた。

「セルミアの描いた世界は優しくて、あんたもいて笑っていた。影獣も人と同じなんだって解ったの」

レヴァントゥスは答えられない。

「セルミアが自滅した時こういったの『ごめんなさいみんな』とね。その時のあたしには意味が解らなかった。でも‥‥あのセルミアの世界を見て思ったの。ただ悪意だけではなかったのかもと」

レヴァントゥスは衝撃を受けていた。

セルミアの最後の言葉を聞いて。


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