【第55話:たどりついた死地】
目的地の鉱山は露天掘りと言われる掘られ方で、巨大なすり鉢状に見えた。
対岸が塵で霞むほどの大きさで、だんだんと同心円の棚が刻まれ下っていく坂道で繋がれている。
一番底には地下水であろうか?エメラルドグリーンの水面が輝いて午後の光を散らしている。
棚やスロープは彫り抜いたままなのか、砂利や砕石が残っており歩きづらそうだ。
乾燥したこの地では塵やホコリが舞い散り視界も悪い。
坂道や棚の幅は広く、馬車のまま下りて問題なさそうだった。
「ぱっと見た感じ‥‥15段くらいある?」
「16段だよ!わたしちゃんとかぞえた。」
ユアの概算見積もりをすぐにノアが訂正。
「うん‥‥ありがとノアいい子だね」
「えへへ」
ユアはノアのあたまをよしよしするのだった。
「これおりるんですか‥‥なんだかこわいです」
「飛行魔法があるから気にせずおりましょう」
ラウマの不安はアミュアが払拭し、一行は進み始める。
「罠を作り放題だな‥‥これは」
厳しい観察はマルタス。
夕方に近い午後だが、ここまで来たらと突入することとなった。
西側の半球は影になっていて、ほとんど見張らせない。
先日の谷のように上から落とされても怖いと感じられた。
崖側はそういった怖さがあるので自然谷側の棚の端をすすんだ。
「早すぎないか?こいつら」
「早いより、たどり着けた事がすでに恐怖なんだが」
鉱山を監視するモニターが並んだ部屋。
20名ほどの軍服姿が並んでいる。
彼らは現役の軍人で、ヴァルデン王国の王国軍に席を置く影獣の潜入官と、人類の裏切り者の貴族達だ。
王国は過去から何度も影獣の支配を受けてきた歴史がそもそも有り、20年も前には王族もほとんど影獣に取り込まれていたのだ。
今は勇者ラドゔヴィスが魔王を討ち、立場上影を潜めているが潜在的に影獣の味方が多いのは、ミルディス公国とかわらない。
ヴァレンシュタイン伯爵をはじめ、相当数の貴族家が家ごと取り込まれている。
「あれだけの影兵をあてて倒せないのか‥‥勇者の娘との噂も頷けるな」
「シルヴァ傭兵団の生き残りとも噂があるぞ」
「ばかな‥‥魔王戦争で全滅しただろう?シルヴァは」
「エリシェラでは20騎で4000の包囲を抜けたと言うぞシルヴァ傭兵団は」
「たしかに突破力が同等の気もするな‥‥5人で2000を抜くとか‥‥ありえんが」
「まぁ上からの指示通りには進めているだろう‥‥少し早いが」
彼らの言う上は階段状のモニター室の一番上、後方にあるガラスで区切られた、長官室である。
そこには長官として彼ら影獣の王がいるのだ。
士官たちの言葉に、口元を引き締める者、眉をひそめる者、思わず小さくため息をつく者。
彼らは顔色一つ変えられず、視線も後ろに向けられない。
この場にいる士官達は影獣のなかでも上位の存在。
見た目は人間と全く変わらない上、高度な戦闘力と魔力を併せ持っている。
実力としてはレヴァントゥスに及ばないが、近い次元の戦力だ。
誰もが内心ではえらそうにと毒づいているが、口には出せない。
そのかれらが視線も向けられないのが影獣の王だった。
段を降りる度に敵意が増す気がするユア。
相手の実力が少しづつ上がるのを感じる。
かつてミルディス公国で古城を一人で攻めた事を思い出していた。
(あんときは骨だったけどね‥‥)
右左と飛び道具も混じってきて、油断は出来ない。
馬車の上にはかがんで隠れるアミュアがいるのだ。
そこは絶対に攻撃させないと誓っている。
幸いといっていいのか、後ろからの追撃がない。
追撃されれば高低差でもっと苦しいだろうと想像がついた。
「よし!坂を確保したぞ!いそげ!」
先行していたマルタスから声が戻ってきた。
運転しているラウマに目線で合図し、自身は進路確保に当たる。
速度をあげた馬車が突っ込んできてすれ違う。
後方を守っていたノアとも目線で合図して交代する。
ノアはそのまま下がり馬車の護衛についた。
馬車がスロープを降りるまでは緊張を強いられる。
どっと影騎馬の一団が現れ、タイミングよく襲いかかる。
ユアが残ったのはこの追撃を警戒したからだ。
チリチリと黄金の粒子が短剣に纏っていく。
かっと赤光を放つ瞳は雷神の怒り。
「通さないよ」
とんっと軽く前に出たユアが横殴りに短剣を振れば、身の丈を数倍する黄金の帯が切り抜き、駆け寄った騎馬を騎手ごと両断し塵に換えた。
あとには黒い粒子が吹き散らされていく。
すっとユアが飛び降りて坂を降りきった馬車の横に降り立つ。
まったく音を立てない着地はすでに神業の域であった。
「大丈夫?ユア」
アミュアのちょっと心配そうな声に、元気に答えるユア。
「平気!準備運動だよこんなの。アミュアは脱出まで温存しておいて!後二段で最下層だから頑張ろうね!」
救出完了か、救出不要を判断し、脱出時にいざとなったら馬車ごと飛ばすと用意しているのだ。
それはアミュアにしても負担が大きく、可能な限り魔力を温存していた。
ユアはにっこり笑ってアミュアにイケボで告げる。
「お姫様はじっとしててね」
ぽっとアミュアの頬が赤くなるのだった。
「あれ‥‥雷神ペルクールじゃね?」
「そうだな‥‥前に資料でみたわ‥‥」
「まじで勇者なのか?あの娘‥‥」
「定期的に勇者は現れるとも言うからな‥‥ありえん話ではない」
「あいつらダウスレム様とか女王とも戦って勝っているらしいし‥‥」
「マジかよ‥‥ありえんだろ?あれは女王の乱心でって話じゃないのか?」
「真実は上の方しかしらないって」
ユアがここ数日温存していた雷神をふるったので、モニター室はざわめいていた。
『ザザ‥‥コピーを投入しろ』
シーンとざわめきが収まりカチャカチャと器具を操作する音だけになった。
(これ‥‥全部投入するのか?我ら王都一軍でもとめれんぞ‥‥)
モニターの一枚にはずらりと並ぶセリシアシリーズ。
女王コピーの投入であった。
先ほどユアたちが降りた棚通路の崖側に、四角い穴が複数開いていく。
秘匿された出入り口には一箇所に20名のセルミアコピーが待機していた。
ユア達が段を降り、逃げ道がなくなったところでの投入である。
入口は四方にあり、総数80名のセリシアシリーズ。
この拠点の最大戦力が今投入されようとしていたのだった。




