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【第51話:移動中はエンカウントします】

都市と呼べる規模だったガルドラスから、大きな街道が主に3本奥地に向かって敷かれる。

一本は北に寄っていき大きな山脈に分け入り谷を縫う。

ユアがかつてカーニャを訪ね、セリシアと戦った方面はこちらだ。

もう一本は南にも有る山地に分け入る同様にせばまり谷に消えていくルート。

この二本はわりとガルドラスからすぐに分岐し二度と交じわらない。

最後が左右にずっと大きな山体をみつづけるこの街道である。

この道が現在5人が進み、目的地へ繋がっているもの。

もっとも交通量の多い街道で、大型の荷役用自走馬車が何台も連なりすれ違う。

すべてガルドラスに入り、そこで大半は列車に積み替えるのだ。

一部はそのままスリックデン経由各地にも行くのだという。

ルメリナにも時々来るので、ここからいくのだと解る。

「おもっていたより‥‥にぎやかですねえ?」

ラウマは運転しながらちらちらとすれ違う馬車をみる。

街道は広く整備が行き届き走りやすいのだが、何分交通量が多い。

まだ南北に進む分岐を過ぎていないのでなおさらだ。

「まえも、うしろも反対側もずぅっといるね!すごいいっぱいだ!」

ノアはラウマ以上にきょろきょろと忙しそうに見回す。

一応バディの運転しない方は周囲警戒任務なので、間違いではない行動だ。

時々なにかのトラブルなのか前が動かなくなり止まることもあった。

最初は「みてくる!」とノアが止まる度に飛び出して見に行っていたが、すぐ戻って「なにもなかったよ!」とうれしそうに報告していたのだ。

だんだん何度も同じことがあるので、ノアは飽きてしまい見に行かなくなった。

「みて!ラウマ!あんな高いところに町がみえるよ?!」

右手を見るためにラウマの頭の上から乗り出してみていたノアがラウマをちょんちょんとする。

右手の山脈にはあちこちに鉱山があり、大きいものにはそばに町ができるのだ。

そういった町があちこちにある。

町々を結び道が開かれていくのだ。

右手のノアが指す町は結構な高度にあり、霞んで見えていた。

「もうすぐ分岐で街道があちらにもいくそうですよ」

にこにことラウマも一緒にながめる。

運転は自動制御があるので、基本的にはすることがない。

速度も進行方向も制御装置が前後左右確認しながら安全に走行してくれるのだ。

緊急時に対応するための運転席なのだ。

馬車が進んでいくのでどんどん見えていた町が後ろに移っていく。

距離があるのでゆっくり見える向きが変わっていく。

もくもく出ている煙が面白いのか、たのしそうにノアは眺めている。

だんだんラウマの上にのりだして後ろを見るので、最後には抱っこされて落ちないようにしがみつくのだった。

「ノア、あぶないからもう終わりですよ。ちゃんとすわりましょう‥‥そこは引っ張らないで」

さらに後ろをみようとラウマにしがみつきつつ身を乗り出すので、ラウマの外套とローブがひっぱられ乱れる。

ラウマの前側の出っ張りが掴みやすく、わしっと膨らんでいる部分を握っている。

「うん‥‥あの煙なんなんだろ?何本もあがっていっておもしろいよ!」

ふっと気づいて、屋根にあがればいいとノアは気づく。

「んしょ!」

ぴょんと身軽にのぼるのだが、ラウマの服もひっぱって勢いをつけたので、ずるりと着衣がみだれるのだった。

「ちょお!ダメですよノア」

あわてて胸元まで下がった衣類をなおすラウマ。

うるせえなねてんだぞ、などと上でこんどは仮眠しているマルタスにからみだすノア。

「ノアぁ!戻ってきなさい!マルタスさんを起こしちゃダメですよぉ!」

そうして、騒がしくも順調に進んでいると右手の山脈で突然噴火したように炎があがる。

おくれてドーンと大きな音もした。

瞬時に立ち上がりロッドを額にあてたラウマがディテクトの魔法。

ノアはすでに爪を出してしゃがみ、飛び出す準備をおえている。

バディたるラウマの報告待ちだ。

「右前方敵意1おおきいいわ!」

とんっと軽い衝撃でノアが飛び出す頃には、マルタスも戦闘態勢に入る。

馬車の護衛で待機するマルタスはまだ抜剣しない。

馬車が止まった瞬間には左右のドアからユアとアミュアが飛び出した。

「敵意1右です!」

ラウマの指示が再度出ると、ユアが消えるように飛び立つ。

ジャンプしたのだが、最近のユアは蹴り足に工夫があるのか気配をあまり感じない。

マルタスそっくりな動きは、日々技術を盗んでいるのだろう。

アミュアは遠慮なく詠唱後に飛行魔法。

魔力温存を考えなければアミュアの魔法技術はラウマなど足元にも及ばない。

戦闘経験も違いすぎて、くらべるのもバカバカしいのだ。

きゅんっと空気を切り裂き上昇したアミュアが、上空で音速を越えたのか円錐形のショックコーンを白く放ち、ドーンと音が遅れてくる。

真っ白な細い航跡を引きアミュアが消えていく。

右手の騒ぎは距離があったが数秒後にはアミュアの魔法攻撃から始まって、ドーンとかガガガとか大きな音が土煙の向こうで起こっている。

距離があるので少し音がずれるのが面白いなと、ほんわかラウマが見ている。

マルタスも座ってのんびり眺めている。

ちらと見えたのは山岳でときどき出る、茶色の地巨竜だった。

火を吹いたのでそれなりの強個体だろうが、単独ではユア達の敵ではない。

竜と違い空も飛ばないが、頑強な鱗は討伐を難しくする。

ランクはCからAまで居るが、あれはBにとどくかどうかくらいだ。

周りを確認したマルタスはこてんと寝てしまった。

「あといいな?‥‥ねるわ」

とだるそうな声が降ってきた。

「はぁい」

とラウマものんびり答える。

そう遠からず素材を抱えて3人が戻るだろう。

これはしばらく動かないだろうなあと、前の方を伸びて確認するラウマ。

ぬくぬくと日向ぼっこに入るラウマも、うーんと伸びをするのだった。

馬車のシートは高級車なので、非常に丁寧で座り心地のよい仕様だ。

ずっと座っていたので、ちょっとおしりが痛いラウマ。

もにゅもにゅとすこしマッサージもして、座り直すのだった。

「お茶でもいれておこうかしら?」

すっかり警戒も忘れ休憩状態に移行していった。



ひゅぅぅぽん!と至近距離にアミュアが戻ってきた。

自由落下から、レビテーションの減速でとんっと地上に降りた。

スカートが捲れないように両手で押さえるのがちょっと可愛いなとラウマは思う。

「ただいま!結構おおきかったよ」

にこにこのアミュアは好きなだけ魔法を撃って満足そう。

魔法戦は上空からだと無双感がはんぱないのだ。

地形をあちこち換えてきたことだろう。

間もなく土煙を上げて二人ももどった。

キキーとブレーキの幻聴がきこえそうな停止。

「はぁ‥はぁ‥はぁ‥はぁ‥」

「はぁあはぁあはぁあはぁあ」

ノアの方がかなり息が上がっている。

ユアはジョギングでもしてきた雰囲気。

ふたりとも汗だくで、タオルをラウマが渡すとあちこち拭き始めた。

「わたしのが早かったよね?!ラウマ!」

「いや、どう見てもあたしのが早かったよ」

ぎゃーぎゃーとそのまま言い合いになるのをアミュアが止める。

「はいおわりおわり、中でからだ拭いてあげるからおいでノア」

手招くアミュアは生活魔法で蒸しタオルを作って待っている。

「はぁい‥‥はやかったもん」

じろっとユアに最後の視線をあてながらぽいぽいっと服を脱ぎだすノア。

「こらこら!中でぬぎなよノアぁ!」

あわててユアが服を拾いながら、ノアを車内に押し込んだ。

ノアは下着姿まで脱ぎ終わっていた。

「ラウマお茶もらえるう?」

最後にオーダーがユアから入り、にっこり答えたラウマ。

「はぁいおつかれさま」

本来ならかなりの騒ぎになる事件だったが、ユア達にとっては暇つぶし程度のイベントであった。

前後の車両から目をまんまるにした野次馬が、声も出せずに見つめていた。




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