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【第49話:忘れてはいけない話】

カルドラスの大きな街で合流したノアとユア達5人は、もう午後なので今日の移動は諦めてホテルを取った。

節約したいとアミュアが言い出して、ダブルとシングルを一つ取る。

女の子は一部屋でいいと言い出したのだ。

宿泊費が半額位になるのだ。

食事も自分たちで馬車のコンロを使い、しばらく外食も禁止と宣言する。

「ぶーぶー」

「おーぼー」

ユアとノアは文句が有るようだが、じろとにらまれるとラウマの後ろに隠れる。

「あらあら」

とほんわかしたラウマには悩みなどなさそうだ。




ホテルを取る前にちょっと街の外まででて晩ごはんのキャンプをする5人。

いつの間にか6人になっていて驚くアミュア。

「どこからわきましたか?レヴァントゥス」

「ひどぃんですが?!言い方?アミュア」

どうやって移動するのか教えてくれないが、レヴァントゥスは距離も時間も関係なく現れる。

あの影の移動はそんなにも万能なのだろうか?

であればミーナやレティシアを守ることなど不可能なので、おそらく何か違う移動手段を持っているのだろうと、アミュアは分析していた。

恐らく転移系のなにかだなと当たりもつけていた。

かつてソリス師匠は転移魔法陣まで自分で作ることが出来たのだ。

聞いても笑ってごまかすので教えてもらえないのだ。

理由はちゃんと説明出来ないのだが、アミュアはレヴァントゥスをみるとマイナスの感情が湧く。

秘密を明かさないからかも?と思ってしまうのだ。

「どうしたの?レヴァントゥス。王都にいったのじゃないの?」

ユアも質問した。

「行っていたけど、ちょっと確認というか忠告かな?」

ふむと聞きに入る5人。

「この先に行くなら当然目的地は影獣の拠点でしょ?あの坑道にはヴァルキラスが居るよ。現在の影獣の間なら序列は上から数えたほうが早い王だ」

ぴくっとマルタスの眉が上がる。

「マルタスさんは知っているかもだけど‥‥七星賢者の一人だよ。もちろん賢者会所属だ」

一度黙ってマルタスを見るレヴァントゥス。

「‥‥会ったことはないが、昔揉めたときに名前は聞いていた。あとはオルディクスだったか?」

うなずくレヴァントゥス。

「さすが影獣が狙う相手No3ですね。ちなみにNo2はユアですよ。おっとこれは秘密ですよ」

黙り込んだユアはじっとレヴァントゥスを見る。

「No1はカーニャってこと?」

首をふるレヴァントゥス。

すこし暗い表情。

「あの姉妹は別枠だし、もう手に入っているからね‥‥No1はアミュアですよ」

びっくりし、目を丸くして見合わすユアとアミュア。

「かつての序列1位と2位‥‥セルミアとダウスレムを倒した二人‥‥そして魔法職ってだけで影獣にとっては価値が高い」

レヴァントゥスの視線は名前と連動して動いていく。

マルタスからユアそしてアミュアへと。

「ユアとマルタスさんは雷神関係ですね。‥‥もちろん秘密ですが忘れないでください」

ちらと真面目な顔のままレヴァントゥスはラウマもみる。

こてんと首をかしげるラウマ。

「そこのラウマも同じだと知れれば‥‥アミュアと同列の目標にされます‥‥気を付けて」

同じとは出自の話しであろうかと、ドキっとするラウマ。

影獣達の意外な情報力に不安を募らせる各々。

「ヴァルキラスは政治力も高い相手です‥‥足元にご注意を」

それだけ告げると、すっと下がり闇に消えていくレヴァントゥス。

気きたいことまだあるのに勝手だなと、アミュアはまたレヴァントゥスが嫌いになった。

影獣を裏切るような情報を流し、ユア達に協力しているだけでも凄いことだとは、アミュアは思わないのだった。



部屋のお風呂でゆっくりしたいよとノアが言い出し、ラウマとアミュアもホテルに入る。

「ユア‥‥すこしだけいいか?」

ホテルの前で引き止めるマルタス。

「うん‥‥雷神の話しかな?」

二人だけで話すならそれかとユアは想定した。

「あぁ‥‥少し歩こう」

そういってマルタスは街道にそって街の中央へ進む。

このホテルは割とスリックデンよりの街外れにあるのだった。

進むほどに賑やかになる街はまだまだこれからが騒がしい時間だ。

街道の途中に公園があり、スナックやドリンクの街頭販売をしていた。

「俺は飲むが‥‥どうする?飲めるのか?」

マルタスはエール系の発泡酒とツマミを少し買った。

「うん‥‥じゃあちょっとだけ飲もうかな」

ユアは最近お気に入りだったワインにした。

カーニャと時々ちびちび舐めて美味しかったのだ。

グラスで買い、つまみにはチーズを買った。

噴水の横のベンチで二人は並んでちびちびやり始めた。

もちろん乾杯はすべて片付いてからだと二人共解っている。

「いっつも子供扱いするのに‥‥めずらしいね」

お酒の話だ。

この世界では16才から飲酒は法的に認められている。

まあ法が必ずしも守られないのはどこでも一緒だった。

「そうだな‥‥今回の件で見直したよ。おまえらは一人前だってな‥‥よく頑張っている」

「‥‥うん。ありがと」

ユアは意外だったのか酔いではない赤面をまとった。

ちびっとワインを舐めると酸味と果実感があり若いワインだと解る。

ユアはカーニャとワインを研究していたのだ。

こうして何をしてもカーニャを思い出すのでユアは辛いのだ。

「マルタスさんはどうして雷神を使えるの?」

ユアはいつも核心から尋ねる。

「‥‥前にはなした最初につぶした施設の話しただろ?あんときからだな」

「ずいぶん昔からってこと?」

「なんだかアミュアっぽいいいかただな、おい」

にやにやとエールを飲むマルタス。

「ちゃかさないで!‥‥あたしまだ一年ちょっとしかこの力を使っていないの」

唇をとがらすユアはそこにも不安があった。

「おとうさんは、この力を使いすぎて死んだのだとアイギス兄さんに聞いた」

アイギスはマルタスとも知人だと聞いていた。

「そうか‥‥勇者ラドヴィスが父親とはな‥‥因果なもんだな」

「‥‥会ったことないんだけどねおとうさんには」

「‥‥すまん」

マルタスは自然に詫びる。

「へいきだよ‥‥今はみんなが居るからさみしく‥‥ないよ」

淋しく無いわけがないのだ。

それはマルタスにも解った。

「俺の場合は限度がこの痣で解るんだ、痛くなってくる」

そういって右手をみせるマルタス。

今は手の甲にすこしだけ端が見えている。

使いすぎると手が真っ黒になる。

「お前も感じたことあるだろ?これ以上あぶないなって感覚」

「うん‥‥心臓がどきどきてなる」

「それだな‥‥それを越えなければ大丈夫だ」

「ありがと‥‥気をつける」

すっとマルタスの表情が消える。

「昔八つ当たりでな‥‥ラウマ様の神像に殴りかかったことが有るんだ‥‥ガキの頃な」

「ひどいことする!ちゃんとごめんなさいしないとダメだよ?ラウマさまはとてもいい女神様‥‥アミュアに会わせてくれたもの」

苦笑をもらし、のこったエールをぐいっと開けるマルタス。

「分別のないガキだったんだ‥‥今のユアより下だったな」

「全く想像出来ない」

「即答で否定はやめてw」

くつくつあははと笑いあう。

少しアルコールも助けてくれてしんみりしないですむ。

「‥‥そのとき不思議なことが有ったんだ。俺はこの雷神の力で殴りかかったんだ‥‥全部消えてしまえと思ってな」

ユアは少し痛ましい目でマルタスを見る。

「辛いことが‥‥あったの?」

「そうだな‥‥当時の俺にとってはな」

またエールを飲もうとして空だったことに気づくマルタス。

諦めてジョッキを置いた。

「たしかに能力が発動した気配が有った。全て消し飛ばしたと思ったよ」

マルタスの話をじっと聞くユアはもうほろ酔いで、グラスのワインを半分も持て余している。

「なにも起きなかったんだ。吸い込まれるみたいに力がラウマ様に当たらなかった」

はっとユアは思い出した。

自分があの空間でダウスレムを切ったときラウマがなんと言ったか。

『その力はあまりに激しく強い滅びの力、何物も阻むことが叶わない光』

そしてアミュアはどうして分かたれたか。

『かつて受けた痛みで分かたれた分体であった』

その痛みはペルクールの雷神であるはず。

「それは何年前のお話なの?‥‥」

「22年前だ‥‥」

その過ちと後悔する出来事はずっとマルタスの心に楔としてあった。

歳を重ねるごとに数えてきたのだ。

ユアは確信した。

アミュアはマルタスが切り分けたラウマだったのだと。

ぐっと残りのワインを開けたユアはかあっと胃が熱くなる。

「‥‥いつか一緒に謝りに行ってあげるよ」

こうやって心の痛みを抑えて、微笑むことが出来るのもお酒の力なのかなとユアは思った。





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