【第3話:もう4人が日常なのです】
ルメリナハンターオフィスのカウンターにて、最近よく見られる光景。
マルタスと話し合うユアの後で、楽しそうに全く関係ない話しで盛り上がる3つ子さん。
「ノアの髪はなんか強くて、編み込むのが大変なのです」
アミュアが腕組でノアをにらむ。
「わたしのもラウマとかアミュアみたいにしてよう」
今日の3人の髪型はノアだけいつもの三つ編みを一本で、アミュアとラウマは2本作った三つ編みを左右に編み込みで垂らしていた。一部だけ編むツーサイドアップである。
「ノアも自分で出来るように練習するといいですね」
ラウマにも自分でやれと言われてちょっと涙目のノア。
「自分だと太さが揃わないんだもん」
右手と左手の感覚が揃わないと、なかなか難しいようだった。
一本に編むのは自分でもできるノアだった。
「こう櫛かかりが重いというか。ノアの髪は腰があってツルツルなのです」
アミュアがノアの三つ編みをいじいじしながら評価。
うどんのような総評をする。
ラウマも交ざりいじいじしながら、自分の髪と比べている。
「言われるとそうですね。ぴょんともどってノアそのもののように元気です」
そうして髪色以外が全く同じ容姿の三人がひとまとまりになって互いの髪を触り合っていた。
「とにかく・・・・まずはカーニャを連れてこないことには始まらんのだ。手紙書くんだユア」
ぎくうと冷や汗のユア。
「て、手紙かぁ。王都からわざわざ来てもらうのも申し訳ないと言うかですね」
「アミュアに書かせればいいだろ?お前が書けないのは知ってる」
ドンとカウンターに手をつくユア。
「書けます!書けますがぁ?!」
「じゃあここで書け」
粋がってみたが、ペンと紙が出てくるとすすすと下がってアミュアの袖をつまむ。
「か、書けるけど‥‥アミュアの方がちょとだけ上手だからアミュアに書いてもらうよぅ」
なんだ?と振り向くアミュアはラウマの三つ編みを後に持ってきて編み直していた。
「ユアもだいぶ上手になりましたよ?書いてみたらいいです」
「ええぇ‥‥はずかしいよぅ。アミュアかいてかいて」
もじもじするユア。
「もう、しょうがないですねぇ」
そう言ってラウマの編み込み途上の髪をユアにわたす。
アミュアはカウンターでマルタスと話だした。
「そもそも何を書くんですか?マルタスさん」
「聞いとけよ・・・カーニャに近日ルメリナに来てくれと。Bクラス昇級の試験管してくれって」
「ふむふむ、だいたい解りました。これでいいでしょう」
さらさらと書き上げるアミュア。
恐ろしく凝縮された文面だ。
『ルメリナきて早く』
マルタスが、がくりとなる。
「あのなあ句読点くらい書けや。まあいい、もうこれで送るからな?」
「あ!まってまってあたしも少し書く」
そういって既に完成させたラウマの髪をポンとして戻るユア。
さらりさらりと時間はかかるががんばって書く。
『ルメリナきて早く』
『か~にやにあいたいなあとなんかようじもあるんだつて』
がくくとマルタス。
「いや何の意味もたされてないが?上手にはなったが漢字とはいわん、せめて促音も覚えような?ユア」
「ああ、ではわたくしが一筆」
さらさらとラウマも書き足す。
『ルメリナきて早く』
『か~にやにあいたいなあとなんかようじもあるんだつて』
『玉子も安かったら少し買ってきてください。高かったらいらないです』
がくくに、ひくひくが足されるマルタス。
「お使いのメモかよ‥‥‥玉子以外になにたのんだんだよ」
つっこみにもキレがなくなる。
さっと手から紙がうばわれノアが書き出す。
ぐりぐり結構な時間が費やされ戻されたが、文面は増えておらず、4人の似顔絵がかなり高レベルなイラスト風に添えられていた。
鼻の下をこすり、えへんみたいな顔のノア。
涙目のマルタスが一番下の余白に事情を書き込んでいくのだった。
『上のはアホ4人から。王都からユア達をBクラスにあげろと圧力があった、事情はわからんが何もしなかったでは終われないから、試験管をして欲しい。期日は切らないので時間を作ってほしい。マルタス』
真っ当な本文の上に誰が書いたか一目でわかる一文とイラストが添えられカーニャ宛の手紙が完成したのだった。
「Bにあがると何がかわるんですか?ユア」
4人でぶらぶらルメリナで買い物しながら、アミュアがユアに訪ねた。
「うん、討伐ならドラゴンとかクラーケンみたいな最上級のが開放されるね!たのしみ」
にっこりたのしそうなユア。
「みてみてりんごが売ってるよ!食べたい!」
ラウマを引っ張って果物店に突撃するノア。
「無駄遣いはアミュアにおこられますよ?」
そんな会話とともにラウマも離れていった。
ぷくっとなるアミュア。
「べつにいつも節約っていってないです」
よしよしと頭を撫でるユア。
撫でられたのが嬉しいのかすぐ笑顔になりユアのうでに抱きつくアミュア。
「アミュアも何か好きなくだものあるかな?」
そういって腕組で追いかけるユア達。
すでに果物店の店主と論説バトルのような対戦がラウマと始まっていた。
まあラウマに勝てる論客はなかなか居ないので、アミュアもご満悦な買い物になるだろうとユアも安心した。
そのユア達4人を遠くから観察している二人組がいた。
「あれがユアね‥‥お姉様のかたき‥」
腕組して高い建物の屋根に立つ少女。
黒いゴスロリの上下に日傘まで装備。
ツヤツヤなくつはつま先が丸い。
年のころはユア達と同じくらいか、少し上程度。
切れ長の瞳は長い睫毛がふちどる。
濃いめのメイク仕上げ少女であった。
「セリシアやめたほうがいいよ?あの回りの3人もバケモノだからね?」
声をかけたのはすぐ横で壁に持たれてモデルポースのレヴァントス。
丘の離宮でセルミアを見放してから、セリシアに従いここまで来ていたのだ。
「だまりなさい!レヴァントス。あなたはお姉様の下僕でしょ?それは私の下僕でもあるのよ!」
きっとレヴァントスを睨むセリシア。
セリシアはセルミアの妹だったのだ。
「戦力はわかっているわ‥‥ここは頭を使いましょう。あいつらは頭悪そうだからね!」
なんだか不穏なのであった。
こうして色々な事が始まったわりに、変わらぬ日常が続く。
平和なルメリナにも秋が訪れるようだ。




