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【第33話:スリックデンで知ること】

翌日ヴァレンシュタイン家の次女とルメリナからの応援が来た。

セレナとフィオナは暗い顔で朝に合流し、応援の先輩ハンターは先程午前着の汽車できたのだ。

「そうなんだ‥‥エーラもショックだったよね」

ユアがセレナに答えた。

「はい‥‥熱も出て寝込んでいたので、実家に戻るようにも進めました。どうしてもここに来るって聞かなかったので」

セレナにフィオナもつづく。

「実家の方でも情報集めてもらうようたのむって言ってました。何かわかればすぐ連絡すると」

ポルト・フィラントの大店に貸しがあるユア達だ。

義理堅いロレンツォなら、本気で動いてくれるだろう。

話に区切りがついた所でマルタスが切り上げる。

「組分けに問題はないな?では早速今日からそれで動こう。」

全員がはっきりとうなずいた。

ルメリナからは来週を目処にあと二人来てくれる。

「すみません少し女の子だけで話したいのですが?」

フィオナはまだ伝えたいことが有るようだ。

二人共朝からずっと顔色が悪い。

「じゃあ俺達が先に出るぞ、ゆっくり話してくれ」

そういってマルタスは先輩ハンターと出ていく。

今日はマルタス達は再度ハンターオフィス関連で調査予定だ。

ホワイトボードにそれぞれの予定を書くシステムになった。

ユア達のところにはスリックデン戻りは2~3日と書いた。

「実は‥‥レティシア様が婚約を取り消されました」

「‥‥ひどい」

「‥‥なんかあたまくるよ」

悲しんだのはアミュアで、怒ったのはノアだ。

「まぁまぁ大人の決めることでもあるのですよ?貴族では。それにレティもあまり乗り気じゃなかったと思いますが?」

ラウマがなだめると、侍女達も少し表情を緩める。

「そうなんです。レティシア様も嫁ぐのはまだいやだとは言ってました」

侍女とレティシアの距離は、ちゃんと元通りになっていて、本音を伝えあえるのだ。

「身元が一度不明になると‥‥婚約者としての立場はとても弱くなるのです。貴族の間では特に」

血縁を大事にし、誇りを尊ぶ貴族では、女子の純血は非常に重要な要件だ。

その保証がない期間があるというだけで傷になる。

事実は関係ないのだった。

「昨日の話し合いはそれだったのです。公爵家からも家宰長が来てました」

「まあ‥‥こちらから見ればあまり困らない話で、公爵家の方がてんてこ舞いでしょうね」

セレナの説明にフィオナが裏を含んだ結論。

「わかった‥‥大変なときにありがとう二人共」

ユアが握手を求め、応じる二人。

「頑張りましょう」

「必ず見つけ出しましょう」

侍女の士気も上がってきた所で、解散となった。

ノア・ラウマのバディで今日は各門近辺の調査と聞き込みを一度するとなっている。

陸路は可能性が低いとは言え、無いとは言えない。

近隣に潜む可能性もあるのだ。

侍女達は伝のある貴族家回りと予定している。

今夜戻らないのはユアとアミュアだけだ。




草原を夜霧で駆けるアミュアとユア。

騒ぎにならないよう、街道をさけて少し遠回りしているが、夜霧の全力は半日かからず二人をスリックデンに運んだ。

騎乗したままヴァルディア家まで乗り付ける二人。

ユア達は門番とももう知り合いだ。

さっと下りてエリセラさんとレオニスさんに取り次いでもらう。

夜霧を戻して待っていると、門番が玄関で手招きしている。

とても貴族家をたずねる手順とは言えないが、すでにユア達は家族と同じ扱いだ。

玄関まで行く途中で門番とすれ違うと、玄関から姉妹の母エリセラが早足で出てきた。

「ユアさん!よく来たわね」

ミーナとカーニャと同列にハグから挨拶のエリセラは既に涙目だ。

ユアを離しアミュアを抱きしめるころには、夫レオニスも来て顔色は悪いが笑顔でうなずく。

「お二人とお話したいことが有って来ました。先触れもない無礼をお許しください」

アミュアがむぎゅっとエリセラに抱かれながら、ちゃんとご挨拶。

「カーニャ達のことだよ」

真剣なユアの声に視線を交わしうなずく二人。

「わかったわ‥‥こちらに」

もちろん第一に手紙で両親に姉妹の経緯を伝えてあった。

ただ恐らく手紙と変わらないタイミングでユア達は訪れたのだ。


応接でお茶がでたら人払いするエリセラさん。

「何か解ったのかね?」

応接のソファに座ったレオニスさんが問う。

隠しきれない焦燥が見えた。

「まだはっきりとしたことは何も。‥‥今日話たいのは姉妹のこと」

きっと眉をあげるユア。

「あたしカーニャから聞いているのです‥‥生まれのこと。事態が事態なので、義理を欠くのは承知でアミュアにも相談しています。」

「決して‥‥もし必要ならカーニャにもミーナにも言いません。とても大事なことなのです」

アミュアもユアに続けて本気を告げる。

「影獣って知っていますね?」

ユアはいつも核心から聞く。

レオニスは一筋も顔を崩さなかったが、エリセラは無理だった。

真っ青になり眉をひそめたのだ。

「影獣と最近話す機会があって、カーニャの事を訪ねたの。姉妹は影獣にとって特別だと言われました」

じっとレオニスを見るユア。

駆け引きではないと言いたいのだ。

駆け引きならエリセラを、弱い方を攻める。

「心当たりはありませんか?カーニャの行き先のヒントになるかもしれません」

レオニスさんの口は重いが、味方が先に降参した。

「あなた‥‥お話ししましょう。ユアさん達なら信用出来ます。お力を借りましょう」

「‥‥解った」

そうしてやっと重い口を開き、レオニスさんが姉妹の秘密を話してくれた。


カーニャの両親は研究機関で遺伝子の研究をしていた事

研究中の秘匿技術に高性能な胚が二つあった事

その人工肺は自身では成長できなかった事

両親が自分たちの受精卵を人工的に作り融合を試みた事。

姉妹が半分は自分たちの子供ではない事


このあたりまではカーニャから聞いていた事だ。

「我々の居た研究機関は‥‥賢者会系統なのだ」

どくんとユアとアミュアは鼓動が乱れる。

「研究していた胚にはコードネームが有ってな‥‥『レプリカ』とそう呼ばれていた」

ぐっとレオニスの拳に力が入る。

「研究所ではこうも呼ばれていたよ‥‥『魔王の種』とね」

ふらっとユアが真っ青になり倒れる。

アミュアが慌てて支えたが二人でソファに倒れてしまう。

「ユアさん!大丈夫?!」

エリセラが回ってきて助け起こした。

気を失ったユアの代わりにアミュアが答える。

「魔王とは影獣の魔王ですね?‥‥ユアのおとうさんが刺し違えた‥‥」

アミュアはユアから両親の事を自分が知る限り全て、アミュアに話していた。

「な‥‥まさか‥‥ユアくんの父君は勇者ラドヴィスなのか?!‥‥雷神の勇者ラドヴィス=ルクス・シルヴァ‥‥」

アミュアはどんどん恐ろしくなる。

ミーナ達やレティシアの事はもちろん心配だが、自分の身以上に大切な者がアミュアにはある。

全ての情報がユアに関連していき、巻き込まれていく。

また影獣と戦うのだとも。

それは2人の命をかける戦いになると、経験済みだ。

ユアを守れる確信があれば、恐ろしくは無いのだ。








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