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【回顧4:少年と‥少女でいたいもの】

色と色はまざりあっていき、ちがう色になったりそれぞれの色のままだったり。


あまりにたくさん色がかさなって、光がかくれてしまうことがあります。




ーーーー

スリックデンは比較的歴史のある街だった。

もう街ができて100年以上になるであろうか、魔導技術と魔導工業の世界的にも先端を行く街だ。

街はかつて伝説にある「七星賢者会」が作ったともいわれ、研究者や技術者にとっての聖地ともいえる街だ。

その片隅、工場街にちかい街路の果にその児童養護所はあった。

教会系ではなく国からの補助も受けず、周辺貴族の出資で成り立っている。

同様の施設に比べて大きく整っているのは、出資者の中にスリックデンの領主とも縁の深い、バルフレッド・クルス子爵がいるからだ。

子爵はとても金回りがよい成金で、金で子爵位を得たとも陰口されている。

「さあいらっしゃい、今日からは何も心配することはないのよ」

そういって迎えてくれた優しそうな婦人は、後にここの所長だときいた。

男女別々に色々検査を受けてから入所といわれ、マルコはエイリスと別れた。

真っ白な部屋に通されたマルコは、着替えるように言われ水色の貫頭衣のようなものに着替えた。

上着の腰の両側と、七分丈ズボンの腰が紐で縛れる。うすい水色のそれは肌触りも良く高級に感じた。

そうしてデスクで待っていた医師のような男のもとで少し血を抜かれる。

なにかの検査らしい。

あとは何かの測定機らしきものを何度か当てられ検査は終わるのであった。

その日はそのまま施設内の②と書かれた大部屋に10人通された。

部屋の数字は⑥まであったが、使っているのは⑤あたりまでだ。

マルコと同年代から少し上までの年齢の少年が集まっており、同じ水色の服を着ていた。

送ってきた職員に尋ねるが、エイリスは別の部屋らしい。

「心配しているだろうから会いたいんだ、どこの部屋なのかおしえてよ」

そういうマルコに少し面倒そうに職員はつたえる。

マルコの耳元にささやくように言った。

「女子は別棟だ。あまり嗅ぎ回るな」

そう言って去る男の顔には、なんの思いやりも見えなかった。

とりあえずそれ以上はマルコには何も出来ないので、エイリスが心配だったがその日は寝ることとした。


マルコには孤児院での生活にはなんの不満も無かった。

食事は美味くて量も十分にあった。

午前はずっと座学で、午後は主に体育館やジムで体を動かす授業。

しっかりとしたスケジュール管理がなされていて、自由時間はあるのだが行動には自由はなかった。

外にはもちろん出られないし、所内でも入れる場所は限られていた。

自由時間に中庭にいると金網で仕切られているが、ピンクの服の女子があちら側にいた。

初めてエイリスに会えたのは入所して3日目だった。

「エイリス!!」

そういって手をふるマルコは金網にへばりついたのだが、エイリスは近くには来なかった。

少し離れたところで小さく手をふって立ち去った。

とても悲しそうな顔だったのは解った。

いつまでも金網にへばりついていたら、所員がきてひっぱって離された。

それからも時々エイリスは中庭にきて、今では隣まで来て話したりもする。

「こっちの大人に最初きいたんだよ、エイリスに会わせてって。そしてら女子は別だから嗅ぎ回るなといわれたんだ。俺心配してたんだよ」

「そう、大丈夫よ」

エイリスはとても言葉少ない。

以前のように笑わなくなった。

マルコはとても心配だったが、エイリスは色々尋ねると困ったような顔で黙り込む。

困らせたいわけではないので、マルコも黙ることが多くなった。

そうして二人の間には会話は少なくなり、ただ隣りにいるだけの時間が殆どとなった。

マルコはエイリスが中庭に来る日と時間を覚え、もれなく金網の側までいって待った。

時々来ないときも有ったが、エイリスも大体はきて金網をはさんで芝生に座った。

それほど長い時間ではなかったが、その時間は互いを支えているとマルコには確かな感触があった。


マルコが10才になる頃には授業は厳しい訓練となって、座学は魔法の訓練と一般教養の時間となった。後は時々なんだか分からない検査があるくらいだ。

同年代の中でもマルコは優秀だった。

運動能力も反射神経も魔力適性も高く、年齢的に上の者以外に劣るところはなかった。

その年齢的に上の世代は、ある程度の年齢になると出ていき社会で活躍していると聞かされた。

そうして過ごす内にマルコは成長し、身長も筋肉も順調に育ったのであった。

戦闘訓練はマルコの好きな科目だ。

ベースにある幼少時の基礎訓練が効いているのか、誰よりも速く上手くなった。

魔法技術の時間は苦手だった。

魔力が少ないわけでも適性が無いわけでもないが、苦手意識があった。

マルコに自覚は無いが「魔法攻撃役は後衛のエイリスの仕事だ」と思っているからだ。

自分の役目ではないと、ルメリナへの移動の中で強く印象づけられた。

もし自分ができるようになれば、エイリスが一緒にいてくれる理由がなくなるように感じ、無意識に避けていたのだ。

今日はエイリスが来る日なので、金網の横の定位置に待機していた。

エイリスは少しいつもより遅くきた。

とても顔色が悪いのだが、以前体調を尋ねたところすごく嫌がったので、それからは聞いていない。

今日も心配ではあったが黙っていることにした。

エイリスも無言で隣に来て座る。

いまではマルコの身長はエイリスに匹敵した。

ただ筋肉は付いてきたが、まだ横幅がなく、エイリスのほうが体は大きく見えた。

(もっと沢山食べて大きくならなきゃエイリスを守れない)

口には出さないがマルコは心に誓った。

ちらちらとマルコはエイリスを見る。

じっと見るとエイリスがあまり見ないでと嫌がるのだ。

エイリスもマルコの服と同じような貫頭衣を着ている。

色はうすい桃色だ。

下はズボンではなく膝丈のスカートだった。

短い袖の上着から伸びる腕が白く滑らかで、マルコはドキドキするのだが、自分でも何故気になるのかまだ解らないでいた。

少し女性らしいラインを描く胴体や、抱えて座っている膝から先も見えるのだが、マルコはエイリスの腕と手が好きなのだ。

それはラウマの教えにある、不思議な力をもった手。

エイリスのそれも同じだと思い込んでいるからであった。





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