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【第29話:でぃすとらくちぶ・あくちびちい】

スリックデンの工場街には巨大な敷地と、複雑な施設が立ち並ぶ区画が綺麗に区切られ並んでいる。

時間は深夜を回り、この時間なら工場街の広い道路はほぼ人気がない。

夜間も創業している工場はありそこには人気があるが、出歩く者はいないようだ。

大型の貨物用魔導馬車も通るので、街区には余裕がある作りだ。

その街灯さえまばらな道を疾駆する黒い影。

夜霧にまたがるユアとアミュアだ。

「やっぱり地下を陽動するんだから‥‥あの高い塔とかこわしちゃう?」

「そうですね‥‥わりと壊れやすそうですし1本へしおってみますね」

おそろしいテロの相談が始まった。

「炎系がめだつよね?」

「苦手ですが‥‥がんばる」

ぎゅっと拳を両方ぐーにして胸の前に構えるアミュア。

よしよしするユアは、すうっと戦闘モードに入る。

「魔法を打ったらあたしが先行して、打ち合わせ通り扉を壊して逃げるから、壁に上って待っていて」

そういうと、とんっと身軽に飛び降りる。

着地するころには短剣が右手に有る。

夜霧の胴をぎゅっと腿で挟んで浮かないようにするアミュア。

詠唱をはじめる。

長い詠唱は上級魔法だ。

もっと威力のある魔法もあるが、アミュアの本来の魔力を越えてしまうので、節約のため詠唱で補う。

(なつかしいな‥‥師匠に教わってから初めて打つな。師匠は火も上手だったなあ)

ゆっくり丁寧に詠唱し、一つ2つとさらに式を重ねる。

三重詠唱で重ねるのは射程距離延長、爆裂範囲上昇、燃焼時間延長だ。

アミュアの知る最上級、この世界で言う第4階梯に近い威力が出るだろう。

長い式が織り上げられ、アミュアを真っ赤な魔力が覆い尽くす。

「ブラントクーゲル!!」

気合の入った魔法名を叫び銀のロッドが彼方の塔に向けられた。

ヒュボォオォ!!

巨大な火の玉が曲射され高高度から落下する。

赤々ともえる火の玉は、全てをオレンジ色に染めた。

ドッゴオオオォォォォォ!!

塔の上部に被弾して爆砕しながら細かな火の玉をまわりに降らす。

高威力広範囲の炎魔法だ。

燃焼時間強化が入っているので、延焼範囲が凄まじい。

高所から幾筋も破片と共に火の玉が降ってくるのだ。

パァン!

軽快な音をたてて、巨大な鋼鉄の門が消し飛ぶ。

ユアが雷神ペルクールの力を使ったのだろう。

計画通りで、レヴァントゥスの逃走経路を確保しに行ったのだ。

「夜霧!お願い」

アミュアの声でとんっと地を蹴る夜霧は、赤々と燃える施設を覆う高い壁に一飛で乗る。

壁に上がるとアミュアが自分の魔法の効果を確認できる。

延焼は激しく範囲も広いが、建物の破砕は少ない。

狙い通りだ。

そもそも陽動なので、人手をかければなんとかなる被害を出したいのだ。

カルテトフレイムの様な、消せそうもない炎では誰も寄ってこない。

燃焼温度はそのまま時間を延長したので、火災は規模が大きい割に被害が少なく済むであろう。

「うん‥イメージ通りです」

にっこり満足のアミュアもオレンジの炎が不気味に彩り、さすがに天使には見えなかった。



(警備が少ないな‥‥うまく誘導したいな)

手際が良すぎると、戦力を引き付けきれないので、わざわざ要らないところまで破壊するユア。

威力を抑えているので、体には負担が来ない。

そもそも雷神を理解し従えたユアは効率よく力を引き出せるようになっている。

戦闘継続時間も伸びて、作戦で使用可能なリソースが増えている。

入口は見つける度に破壊して、本来の作戦目標を悟らせない工夫もする。

無言でフル装備の警備が4人走り込んでくる。

右手にパリパリと電気が走っているのは雷撃系の魔道具で、無力化を狙っている。

左手には窓がついて視界を確保する大型の盾。

全身を覆う黒いボディアーマーは分厚い。

1:4では絶望的な戦力差、装備差だ。

ユアは軽鎧しか装備していない。

マントも邪魔だと外していた。

ただ、テロリストらしく顔を見られないようフードを被り、マスク代わりにタオルを口と鼻に巻いている。

今日は自粛してひまわりプリント無し、白い無地のタオルだ。

一人目が殴り掛かる。

殺意の高い形のメイスがぱりぱり放電している。

すっと前に進みながら躱す余裕がユアには有る。

躱しながら短剣で薙ぎ、利き腕を切った。

切断するほどではないが、戦闘不能であろう。

ぶしゃあと血が噴き出すのを浴びず、するりと三人の間を抜ける。

一人目が切られたのを後続が認識した頃には自分たちも切られているのだ。

主に太ももを狙い、動脈は避ける。

戦力低下より行動不能狙いの斬り方だ。

負傷者は更に人手を削れるのだ。

奥から更に6人来たので、しめしめと反対側に逃げるユア。

わーわーと叫んで救助しながら、別れた残りが追ってくる。

これ幸いと、横の何かのタンクを切り裂き中身を噴出させる。

何が入っているか確認してないので、すぐに離れる。

気化するような薬品だとダメージになりかねない。

ユアの足取りは軽く、楽しそうでさえ有る。

村でやっていた戦闘訓練を思い出しているのだ。

よく子どもたちでチームを組んで4:4などで模擬戦をしたものだと思い出す。

ユアは戦闘能力が高いだけでなく、部隊指揮能力も高かった。

まもなく打ち合わせていた側の壁が見えた頃、すっかり敵は巻いてしまったので、もう一度騒ぎをと思っていて、緊急回避。

回避してから気配を理解した。

(うえからか!)

横っ飛びした地面が爆裂する。

風魔法らしき気配が有った。

かるがる受け身を取り構えるユア。

もう短剣は黄金に伸長され、ロングソードほどになっている。

両目が赤く滲んで光るのはペルクール神の加護だ。

睨み上げた上空にはためくローブ姿。

目視した瞬間にふわっと膨らむ。

いや、近づいたのだ。

キキンキインン

敵が連続して何かを投げてユアが切り落とす、最後に至近から広範囲魔法。

ズバアァン!!

地面を抉った風魔法が、広範囲の低空を埋め尽くす礫を放った。

ユアはステップで下がりながら、急所だけ雷神で守る。

礫も黄金の輝きにあたれば塵と化して消えるのだ。

ズサアとすりながら止まった頃には、頬や素肌の出ている二の腕とももからうっすらあちこち切り傷。

ぽたぽたと血が落ちる。

爆心地の上空に魔力をまとい浮く姿。

「そんな‥‥‥‥セリシア‥なの?‥」

緑の魔力をまとい、片手を向けている無表情は、見間違えようがなくセリシアであった。


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