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【第28話:作戦がきまればすぐ】

景色が溶けるように後方に向かい、凄い速度で流れていく。

夜霧の最大速度で、平原を移動している。

この速度ならスリックデンは半日かからない。

風圧を押さえるために風魔法の結界を前方円錐状に展開しているアミュア。

それでも漏れてくる風で、ローブの上に着たフードマントがばたばたとうるさい。

(ミーナ‥‥待っていて‥‥こっちが終わったらすぐいくよ)

前席で手すりに伏せ少しでも面積を減らそうとするアミュア。

背中にはユアの熱がずっとある。

熱い温度は、ユアの焦りを伝えてくる。

(平気なはずがない‥‥あんなに別れを惜しむくらいユアは好きなんだ‥‥カーニャが)

ちょっと嫉妬しない訳では無い。

今回二人で駅に行かせて、アミュアが行かなかったのは、そのちょっとの気持ちもあった。

ただユアの一番でいたいなと思うだけで、アミュアもカーニャは大好きだ。

「アミュア、右から狼型が2体くる。大きいけど行ける?」

ユアの指示で右を確認。

体高が夜霧サイズの白っぽい影は、シルバーウルフ系の魔物であろう。

シルバーウルフ系はそもそも走行速度が速く、夜霧でも引き離せない。

中でも速度に特化したタイプであろう。

だいぶ細身だ。

体積的に行けると判断するアミュア。

「行ける‥‥狙うから止めて」

ぎゅばばあと土煙を上げて止まる夜霧も右側を警戒。

『GURURRR』

低く唸る夜霧の首をぽんぽんなだめるユア。

自身の最高速に追いつかれて、夜霧もプライドに関わるのだ。

ロッドを抜いたアミュアが無詠唱で氷魔法。

苦手な弱点属性の火より、素早く打てる得意な、耐性ではない氷魔法という選択。

ヒュゥゥ

一瞬だけ水色の魔力が吹き上がり、魔力を貯めて威力を上げる。

ユアが抱いているので浮き上がらないが上級魔法だ。

あと数瞬でこちらに牙が届くという所で、アミュアの頭上から氷の柱が3連射。

キュキュキュゥウゥゥン

極低温まで冷やし高速回転するその柱は、先端が尖りアミュアの身長を超える長さ。

上級氷魔法のアイスピラーを無詠唱で三重詠唱(トリプルキャスト)

付与するは、射出速度上昇、発動数加算✕2。

氷柱は音速に近い速度で打ち出され、二体重なった瞬間に貫き彼方に消える。

バシュウウン!!

貫通し衝撃波が後からこちらまで届く頃には、ユアは夜霧を走らせ始めている。

素材も魔石も無視と決めていた。

夜霧の全力に追いついてこれるのは、今のシルバーウルフ系か飛行タイプだけだ。

使用魔法も絞ってあったので、対応はシンプルで早い。

また夜霧の速度が乗ってきたので、アミュアは結界を貼り直した。

二人の気持ちは焦りをにじませつつも、しっかりと落ち着いていた。




「ちょ!!まってまって!しんじゃううう、ぐぅぅ」

ぐいっと左手一本でレヴァントゥスを持ち上げるユア。

「早く言え、どこだ」

右手は短剣を抜いている。

「ユア‥‥落ち着いて、はなさないとはなせない」

アミュアに腕を引かれ、怒りのまま持ち上げたレヴァントゥスを下ろすユア。

「ふぃ‥‥乱暴だなぁ。ヒィ、いいますいいます!!」

ユアに睨まれ、慌てて話しだすレヴァントス。

これを見てと、ちょっと高度な魔法を展開する。

ディテクト系の変形で、立体マップを空間投影する。

光魔法の高度なオリジナル魔法であろう。

スリックデンの工場街だと見て取れる。

ゆっくり回転して赤い点がいくつかポイントされている。

「ここが目標の施設で‥‥この点達は、同じ勢力の別拠点」

大きな赤い点が目標らしい。

「何日経過してる?敵拠点の規模は?」

ユアはずっと戦闘モードだ。

瞳には怒りの炎が燃えている。

「今日で6日目‥‥おそらく敵はエルヴァニス‥‥知ってる?セルミアと同格の影獣王だよ。自分たちで七星賢者なんて名乗ってるやつらだ」

ユアの眉がきりっとまた上がる。

アミュアはぎゅっとユアの腕を胸に抱きしめる。

「落ち着こう‥ユア。焦っちゃだめだよ」

はっとなり、アミュアを見るユア。

「うん‥ごめん」

どうしても脳裏にマルタスの話が蘇るのだ。

「‥‥そいつら昔からスリックデンにいるヤツでしょ?マルタスに聞いた」

「‥‥そう。正解だ。‥‥なんでも同格の賢者と言われる影獣の王が3人いるらしい。その内の一人がスリックデンにいるエルヴァニスだ」

すっと視線を下げるレヴァントゥス。

「これは本人には黙っていて欲しい。‥‥セリシアは‥おそらくセルミアコピーの一人だ。‥‥昔っからエルヴァニスはその手の技術に長けていて、他の影獣に戦力を与えている‥‥セルミアも何体か使っていた」

衝撃を受ける二人。

「影獣は勝手に増えたりしないんだ。高位の者が一人づつ作り育てるか‥‥特殊な方法でコピーを作る」

吐き捨てるように言うレヴァントゥスもその手法を知っているのだろう。

ユア達も先日マルタスから聞いたのだ。

「知ってる‥‥くわしくは言わないで」

ユアはアミュアを慮り、話を止める。

その話でアミュアは倒れたのだ。

ぎゅっとユアを抱くアミュアの腕にも力が入っている。

「セリシアはおそらくイレギュラーか‥‥セルミアに与えるため調整しないで渡した個体だ。通常はエルヴァニスに逆らえないように調整して送り出す。‥‥今のセリシアには僕が教えた魔法もあるので、戦力として欲しいのだと思う。一度逃がしたのに、本気で捉えに来たらしい‥‥」

レヴァントゥスに後悔の表情。

「あと一歩で僕が保護出来たのだけど‥‥目と鼻の先で連れ去られた」

ユアが初めて表情を緩める。

「そう‥‥解ったすぐに助け出そう」

ユアの声に違う響きを見つけ戸惑うレヴァントゥス。

「言いたかったことは‥‥最悪セリシアが敵にまわるって事だ。奴らは人でも影獣でも従わせる技術を持っている‥‥その時は」

辛そうにするレヴァントゥスに、遂にユアも感情をこぼす。

「レヴァントゥス‥わかったよ‥辛いこと言わせてごめん。頑張るから元気だして」

じっとマップを見ていたアミュアが提案。

「これは陽動攻撃と隠密潜入から、隠密脱出。叶わなければ強行脱出がいいかとおもう」

ほうとレヴァントゥスは意外そうな顔。

「いいと思う。僕もその方向で考えていた。ずいぶん戦術に詳しいねアミュアちゃん」

ぐるると噛みつきそうなユアを押さえるアミュア。

「アミュアでいいわ‥‥ちゃんを付けるとユアにかじられるよ?」

まだぐるると唸っているユアがこわいレヴァントゥス。

「わ、わかったからユアちゃん、いやユアもやめてえ」

ちゃんが出る度に唸りがたかくなるユアだった。

「戦術はハンターオフィスで教本を見てまなびました。なにしろ、びいランクですので」

Bを強調して、えっへんなアミュア。

いいこいいこするユアはもう機嫌が治っていた。

「では‥‥その方向で。陽動だけたのむ」

ぺこりと深いお辞儀のレヴァントゥスは、本気で助けたいのであろう。

あの、まるで人間のように傷つきやすい繊細な影獣の娘を。






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