【第27話:落ち着いて対応しましょう】
「ユア‥‥落ち着いて‥お願い」
そういってラウマがそっとノアごと抱きしめ耳元に囁く。
ユアの瞳は雷神を宿し赤光を放っていたのだ。
握りしめた右手からは滅びの黄金が滲んでいた。
「大丈夫。きっと皆んなで解決できますからね。力を尽くしましょう‥‥今は抑えて」
やわらかな温度と優しい声でやっと正気を取り戻すユア。
昨夜マルタスに聞いた犠牲とミーナ達が重なって見えたのだ。
「‥‥ごめん。王都から走ってきたの?」
やっと二人の身体が冷え切っていることに気づくユア。
「夜霧に無理をさせちゃいました。ねぎらってあげてね」
そっとユアを離したラウマが指輪を抜き取りユアにわたす。
夜霧を呼び出すテイムの指輪だ。
ユアにとっては行方不明の義兄アイギスから借りている大事な指輪だ。
ぎゅっと胸に一度抱いて左手に付けるユア。
「さあ‥‥明るくなってきましたし、ご飯を作りますね」
「いやラウマとノアはお風呂でも入って、寒かったでしょ?あたしがご飯作るから‥‥」
そっとラウマの手を両手で取るユア。
とても冷たくなっている。
無理をして駆け戻ってくれたのだ。
「‥‥ごめん‥ラウマありがとう」
にっこりいつもの笑顔にもどるユアに、ノアもほっとした様子。
「ノア‥‥ごめんね痛かった?」
ノアにも詫びるユア。
「へいき‥‥ちょっとびっくりしただけだよ」
そうしてアミュアを起こさないようにと願い、家に入る三人であった。
昼過ぎにはハンターオフィスに4人で来ていた。
「おう‥‥心配かけたな‥‥‥‥なにごとだ?」
マルタスはギブスも取れて、いつもの服装。
ユアの剣幕に、尋常じゃないと判断し、近づく。
「込み入った話か?」
こくっとうなずくユア。
「上に上がろう俺の部屋だ。よお‥‥今日はお茶いらんから誰も上げるな」
職員に言って、先導するマルタスに続き、2階のマルタスのオフィスへ向かう。
「一つ‥‥王都でカーニャの妹ミーナと、あたし達の友達レティが攫われた‥‥手口はスリックデンのと一緒で影獣と思う」
ユアの相談は一つといったものですでに大事件だ。
「もう一つ‥‥セリシアって前に離した影獣の娘が攫われた。スリックデンにいると解っている」
マルタスの表情には理解が灯る。
「なるほど‥‥2隊に別れないとだな。オフィスから2~3人と俺は直ぐに向かえる。ユアはどうしたい?」
ユアの表情は固く、青ざめている。
マルタスの話をまだ飲み込みきれていないのに、自分の知り合いに事件が起きた。
しかもあきらかに影獣のからむ話だ。
気分が言い訳がない。
「スリックデンにはあたしとアミュアで行く。王都をお願いしたいの‥‥きっとカーニャがかなしんでいるわ‥‥」
ユアの目が真っ赤になる。
ずっと考えまいと逃げていた事を思い浮かべたのだ。
カーニャはミーナを溺愛しているのだ。
王都で情報をもらったら一人でも助けに行くだろう。
その先を想像するのが怖くて考えないように逃げていたのだ。
「‥‥わかった。出来ることは全部やろう。そっちは二人で大丈夫なのか?」
ユアの背中を撫で抱きながらアミュアが答える。
「こっちには応援があるそうです‥‥それに王都の方が人手がいるはず」
アミュアの目も赤くなっている。
ミーナが心配なのだ。
今朝から何度も話し合った、ベストな配置だ。
理性では解っても、親友のミーナが心配なのだ。
セリシアを後回しとの意見も多かったが、ユアが一人で行くと言い出して、こうなったのだ。
絶対一緒に行くとアミュアが聞かなかった。
レヴァントゥスの協力があれば、今のところ何も分からないミーナ達の情報を、手に入れられる可能性も高いとラウマの提案もあった。
影獣の事は影獣に聞くのが一番早いと。
その為にも応援要請を断りたくないのだ。
「可能な限り速く向かいますし‥‥こっちは夜霧で行きます」
アミュアの結論で行動方針が決まる。
マルタスとも夜霧の件は共有済みだ。
魔導汽車で2日以上の旅程を、夜霧が本気を出せば一日で王都まで行けるのだ。
「よし‥‥あとは任せてお前らは行け」
マルタスの頼もしい声にうなずくユアとアミュア。
そっとラウマとノアが二人を抱きしめる。
眉をさげるノアがそっとアミュアの頭に抱きつき頬をよせた。
「気を付けて‥‥王都でまっているよ?」
「うん‥ノアも気をつけて。無茶しないでね‥‥」
普段と違いアミュアとノアは互いを気遣う。
ラウマもふんわりユアを包み込み温度を伝えようとする。
「ユア‥‥最後まで落ち着いていきましょう。それがきっと一番早道ですよ」
「うん‥‥ありがとうラウマ‥‥いってくる」
ユアを抱いたラウマの声には深い労りの想い。
そのあたたかさがユアの鼓動を落ち着けた。
ぽんとラウマの腕に手を置くユアが力を取り戻した声。
「行ってきます」
ユアは真剣な眼差しを王都を任せる3人に向けた。
そうしてユアとアミュアはスリックデンへ、レヴァントゥスと合流するため夜霧を飛ばした。
オフィスのカウンターで最大限出せと、応援要請をするマルタス。
奥から男の事務職らしい所員が一人でて来て、目を回し対応していた女性所員を下がらせる。
「マルタス所長‥‥無理を言わないでください」
壮年の男が頭をかいて、苦言を述べる。
「そこをなんとかするのがお前の仕事だろう‥‥」
「いえそれは所長の仕事ですが?」
「‥‥じゃあ二人だせ」
「一人でいっぱいです」
「じゃあチャラをよこせ」
「無理言わないでください。先日連れて行ったのも問題になっているんですよ!ルメリナにAクラスが居なくなります」
「‥‥じゃ誰でもいい一人でも二人でもいいから速く。いや‥‥準備出来次第王都に来いと言え」
「‥‥はぁ‥‥解りましたなんとかしましょう」
「さすが次期所長だな」
「絶対なりません辞めますが?」
「くくく、頼んだ」
クルっと振り向き、目を丸くしているラウマとノアを見るマルタス。
「よしすぐ出るぞ、午後一番王都行きの便に間に合う」
ラウマ達はそもそも遠征のつもりで装備を持ってきていた。
マルタスはそのままで行けるようで、恐らく収納魔法のポーチかバッグでも持っているのだろう。
コートだけ引っ掛けて玄関に向かうマルタス。
副所長という人物にペコリとお辞儀をしてマルタスに続くラウマ。
(何度も見たことあったけど‥‥あの人副所長だったんですね‥‥あと、さりげなくチャラ先輩Aクラスなんだ‥‥ノアにぽこぽこされてましたが‥‥)
まったく頼りにならなそうな先輩ハンターを思い出すラウマ。
ノアはマルタスの手を引いてはやくはやくと騒いでいた。
残された副所長はなぜか微笑みを浮かべる。
「マルタスさん、久しぶりに本気ですね‥‥」
彼はマルタスが少年のころからの付き合いだ。
(良かった、消えてしまったわけではない‥‥想いは)
もう20年以上オフィスで一緒なのだ。
マルタス現役時代を知る数少ない所員だが、彼がマルタスを語ることは無い。
二人の間だけにある秘密も多いからだ。
(頼みますマルタスさん‥エルドさんの無念を‥‥)
きりと奥歯をかんだ男の目には炎が灯っている。
やるせない自分にも向けられる怒りの炎だ。
男には膝から先の左足がない。
義足なのだった。
全く回りからは気づかれない足さばきだった。
かつての戦いで失い、斥候職の彼には致命的だったのだ。
それでも命を拾ったのはマルタスのお陰だし、仕留め損なった獲物は二人の師エルドの仇だった。




