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【第22話:月夜の邂逅】

マルタスが本気で潜み気配を押さえれば、ほとんどの人間には見つけることなど出来ない。

それぐらいの潜伏技術がある。

本職の斥候兵に迫る技量だ。

そのマルタスを追い詰める者がいる。

(気配をここまで捉えられないのは、師匠以来だな‥‥)

誘拐事件の調査中怪しい集団を捉え、郊外まで追った所反撃を受けたのだ。

倒してしまうのなら簡単な話なのだが、捉えたいマルタス。

(チャラのやつ‥‥無事だと良いが)

バディとして連れてきた後輩の現役ハンターは、囮としてうまく逃げる役どころ。

マルタスがぎりぎり引き付けて逃げ、孤立したら捉える作戦だった。

(まぁ‥‥チャラのランクなら手こずる相手でもねえか‥‥)

ちりっと視線を感じた。

(すげえね‥‥見つけるのか?この距離で)

今は本気で隠蔽していたのだ。

専門職でも魔法でも見つからない自信があったのだ。

(いったん、ゆさぶるか)

きゅんっと一瞬だけ強化魔法も併用した蹴り足。

魔法の気配をわざと残し、残像のように使うマルタス。

高度な魔法戦士の技術だ。

何度か同じ様に蹴り、後方の林に入った瞬間今度は自力だけで右にずれて止まる。

進行方向に小石まで投げる事で気配を残しまた自分は潜伏し視力だけで索敵。

(みえた‥‥女か?)

やっと追手を視認したが、一瞬で上空に消えて魔法の気配がないので、マルタスと同じ手法だろう。

飛ぶ瞬間だけ強化魔法を使ったのだ。

月が雲に入り、夜の空は索敵が非常に難しい。

ゆっくり数を心で数えるマルタスは、敵が飛んだ速度で落下までの時間を読む。

すっと気配もなく前進し、敵の方向に進む。

(これで孤立させら‥‥)

ギン!

一瞬で抜いたバゼラートが受けギリギリと押される。

細身の黒い影が上空で進路を変え、長剣を切り下ろしてきたのだ。

「女か‥‥手加減がいるかい?」

押し込まれてるのはもちろん演技で、影から月明かりに出して顔を見たいのだ。

「‥‥」

無言で押し込む黒装束の女は、斥候ではなく戦士系の装備だった。

細身なのにかなり重量があり、マルタスを崩したら一気に切るつもりだろう。

手応えから、細身なのに体重がある。

防具の重さだろう。

(この装備であそこまで飛んだのか)

剣も一般的ロングソードの直剣だ。

かなり高空から切り下ろされた。

今は影になって表情が見えないが、隠しているわけではないようだ。

(これは強敵だ)

顔を隠さないのは必殺か、見つからない自信の現れだ。

じりっと左右に振りながら耐えられないふりで下がるマルタス。

月明かりが女の顔を照らす。

「な?!」

キイン

マルタスが動揺し、バゼラードが押し下げられ刺突が来た。

マルタスの右手が、腰から抜き放った二本目のバゼラードで右にそらし、体を回しながら右回し蹴り。

がんっと重い衝撃で小手が受けた。

小手にしては重く大きい。

バックラーに近い防御。

そのまま長剣を流しながら右手の小手が滑り打突になる。

読んでいたマルタスがタイミングよく小手を蹴って間合いを取った。

さあっと月が薄雲を抜け、明るさが増す。

牽制の為に魔力も右手に乗せ、動きを封じたマルタス。

右手の魔法は緑の風魔法で、弾速重視のダブルキャストだ。

発動を保持し止めながら話しかける。

「まさか‥‥血縁か?いや‥‥そのものじゃないか?」

マルタスに殺気も押さえ視線の圧を掛けるのは、過去にマルタスが知る少女の面影。

いやその少女そのものだった。

茶色の明るい髪が風にさらりと揺れ、鳶色の大きな瞳が眇められ睨みつけている。

何度かしかないが、その少女に怒られた時の表情そのものだ。

見間違えようのないその少女そのもの。

年齢は別れた当時の年に近いので、娘ならこれぐらい。

それ以上血が離れては説明出来ない同様のかんばせ。

「名を聞こうか?」

マルタスの渋いバリトンが流れる。

魔法維持しながら会話をするのはかなり難しい。

「エーリス‥‥お前を殺す名だ」

くんっと大きくなるシルエットのような黒い装備。

蹴った重みは金属鎧だったが音は立てない。

「くう」

キキイン!

とっさに放った風の矢は、ひねって躱しながらあの小手が弾いた。

弾いた勢いがそのままのった長剣の刺突。

バゼラート一本で受けられない重さの突きだったので、左手に右手を添えて二本で上に跳ね上げる。

上げながら前蹴りを出したがするりとひねりのまま螺旋にかわされ長剣の柄が降りてくる。

マルタスも前に出て長剣を持ち右手の袖を捉え、左手もそえ腰を入れる。

相手の螺旋運動をそのまま使う投げ技だ。

マルタスのバゼラードは特殊な柄で、手を離しても落ちずに手首に止まるのだ。

近接戦闘重視のマルタスの工夫だ。

ズンと落としてバックステップ。

思ったより重く、距離を稼げなかったが詠唱時間は稼げた。

高速詠唱で中級の拘束闇魔法「ダークウェブ」を放つマルタス。

紫に光る網が賊をついに捉えた。

ほっと息を吐いた瞬間に遠距離から援護らしき射撃の気配。

剣も魔法も間に合わず、体術だけで急所を外した。

ズン

「ぐうう‥‥」

右肩の骨で心臓に来た弾を受けた。

風魔法と思われる弾速。

「ほう‥止めたか‥肩で‥‥」

月明かりに影が浮かんでいた。

すとっとエーリスを名乗る、戦士の横に降りた魔道士風の男。

無機質なテノールは無駄のないセリフ。

「英雄級‥‥その歳‥マスターマルタスだな?」

「‥‥」

「解るぞ‥隠せない‥‥動揺‥‥お前‥‥知っているな?このエーリスを」

「‥‥」

マルタスは表情も変えないのに、内心を読まれ焦りを感じる。

「ルメリナ‥マルタス‥動きはエルド‥‥ふふ‥‥まあいいここでは外様‥‥引くが追うなよ」

すうっと少女の横まで下がった。

下がる気配は捉えたが、追い打つ腕が足りない。

血を流す右手は今動かないのだ。

感情のこもらない高い声が告げる。

「追えば‥‥死ぬ‥‥あちらが」

ぞくっとしたマルタス。

「名乗っておく‥‥オルディクス‥‥」

月に影がかかり一瞬だけ暗くなる。

明かりが戻るともうマルタスしか残っていなかった。

久しぶりの敗北を喫したマルタスであった。

(チャラ‥‥無事かよ?‥‥)

あちらとは後輩ハンターしか居るまい。


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