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【第21話:王都の路地で】

学院寮でのミーナとの打ち合わせも済ませ、今日のハンター活動を終えた二人は、食べて帰ろうとなりお店を物色していた。

「ノアは揚げ物がいいな!フリットとかエビフライが食べたい!」

「ふむ。ノアはそうゆうの好きですねえ、今度ユアに教わるからお家でも作りますね」

「わーい、ノアうさぎ獲ってくるよ!!こないだすみれ館で食べたの美味しかった」

わいわいと女子学生と変わらない姦しさで繁華街に差し掛かる二人。

まもなく外壁という所だ。

ノアの目がすっと細まり、ラウマに告げる。

「ラウマ!影獣の気配がしたよ!」

きっと表情をひきしめるラウマも、ノアの視線の先を見る。

ここはまだ外壁内なので、影獣などありえないのだが、ノアの気配察知は最近冴えていて、ユアにせまるレベルだ。

ラウマでは足元にも及ばないので、隠蔽方式の探索魔法だけ詠唱して放つ。

ピーンと済んだ音が静かに鳴る。

いつの間にか抜いていたウッドロッドをおでこに近づけ、ディテクトイビルの魔力を放ったのだ。

アミュアから教わった隠蔽術式をダブルキャストで乗せている。

ノアも待機しラウマを護衛して待つ。

前衛と魔法職というバディの動きが身についてきているのだ。

「悪意はないですね‥あの路地ですか?ノア」

「うん、先行する!」

言うが速いか薄闇の路地に飛ぶような速さで走るノア。

これでまだ強化魔法なしだ。

ラウマも最近アミュアと毎朝走りこんでいたので、大分体力がついて走れるようになってきているが、まだ前衛の二人にはおいて行かれる。




セリシアは追い詰められている。

スリックデンで身柄を攫われ、施設に囚われていたのだが、その夜のうちに魔法で逃げ出した。

闇魔法の拘束で魔法も封じられたのだが、特殊スキルは封じられておらず、それで逃げたのだ。

セリシアは得意ではないが、レヴァントゥス達のように影に潜れるのだ。

短時間で短距離しかつかえず、姉のセルミアの技量には及ばない。

闇魔法併用重力スライムの拘束だったが、影を消す工夫はされなかったので逃げ出せたのだ。

その施設からはおぞましい汚穢の気配がして、セリシアをして肌を総毛立て、少しでも早く遠くへと離れたのだ。

スリックデンからは、かなりの腕前の追ってがかかり、なんとか隠れやすい地元の王都まで逃げてきたのだった。

追手は一人なのだが、一度も姿を確認できていないほどの手練れだ。

路地に潜み、また影に潜るセリシアは魔法を使わない周囲警戒をしばらくしている。

いつもこれでまいて来たのだが、いつの間にか追いつかれるのだ。

(いったい‥‥なにもの?気配が薄すぎて私では捉えられない‥‥)

視線だけを感じ取れるのだ。

近づく視線の圧も。

それから逃げながらの逃亡劇だった。

(うん‥‥見られていない‥‥もう少しだけ様子を‥‥?!)

別の気配が湧いた。

凄まじい速度は、これもかなりの手練れ。

真っ直ぐこちらに向かってくるのは、補足されているのかと慌てるセリシア。

「あれれ?!」

眼の前に急停止したのはノアだった。

声の後に髪の毛が降りるレベルの速度。

両手に影の爪を出している。

「消えちゃった??たしかに影獣の気配だったのに‥‥」

(アミュアそっくりの黒髪‥‥ノアね‥‥どうしよう‥)

名乗り出て巻き込むか、このまま隠れるか悩むセリシア。

脳裏にユアの言葉が蘇る。

『あたしの仲間を傷つけないで』

涙とともに落とされた言葉だった。

(ダメだ‥‥きっとユアが悲しむ‥‥)

今追手をかけてきている相手は、レヴァントゥスでも敬遠する相手。

姉のセルミアと同格の相手なのだ。

「ノア‥‥どうでしたか?」

声も気配も潜めてラウマが近づく。

「う~んここいらだったんだけど‥‥消えちゃったの」

「そう‥‥確かに少し残滓のような気配を感じますね」

ピーンと魔力が走る。

「悪意も見えないし‥‥ここは一端戻りましょうノア」

ディテクトイビルの魔法だった。

間近だったのでセリシアにも感じられたが離れたら気づけない高度な隠蔽レベル。

(同じ容姿の金髪‥‥この子がラウマね‥‥)

同じ魔法使いとして見逃せないレベルの使い手だと感嘆もするセリシア。

「うん‥‥ごめんね?わたしの勘違いだったのかな?」

「そうだったらとてもいいですね」

そういって笑顔で答えるラウマと、爪を消したノアが去っていく。

セリシアはもう少しだけと、影渡りを保った。

十分に離れたと確認し影から立ち上がるセリシア。

「ふぅ‥‥スキル使用時の気配を捉えられたのねきっと。ノアって娘‥かなり察知がするどいわ」

たまたま距離が近かったのも運が悪いセリシアであった。

施設から逃げてそのままなので、着衣は薄いピンク色の貫頭衣上下だ。

入院患者に着せるような服で、寝たままでも着替えさせやすい工夫のある服だ。

「壁を越えられたし‥‥もう大丈夫かな」

王都の壁には影獣を検知する隠蔽術式がいたるところに仕掛けられていて、レヴァントゥスの調べがなければセリシアも入れなかっただろう。

敵は姉と同格と警戒しながら、相手も同じ穴をぬけれると想像できなかったセリシア。

「あ‥‥」

至近距離の後ろに視線を感じた。

(近い‥‥やられたわ‥‥)

セリシアの背に嫌な汗が流れた。

囚われればまたあそこに戻されると恐れるのだ。

それほどに闇深い施設だったのだ。

足元に背後の建物の影がある。

セルミアが先ほど潜っていた建物の影だが、そこに人影が足されていた。

髪が長いのか風に揺れるシルエットが見える。

シルエット本体は細身だ。

(女だな‥‥)

そこで全く意識外から話しかけられた。

恨みを孕んだバスが流れる。

「女王の妹と言われ、奢ったかな?セリシア」

凍りついたセリシア。

気配がまったくなかったのだ。

自分の潜っていた影から立ち上がった者に気付けなかったのだ。

それは自分と同格以上の影獣にしかできない技だった。



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