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【第19話:オフィスに帰るまでが依頼です】

ノルヴァルドでのBランクハンター試験(個人・バディ共用)は無事終わり、雪も積もる前に戻り足となった。

スリックデンへの街道は比較的に大きく鉄道も並行してあり、設備も整っているのだが、ルメリナ側はちょっとさびれている。

さすがに夜はそれなりに危険と判断し、夜番を立てる事となった。

マルタスは除外して4人でと言ったが、「そんな気を使うな」とローテに入ってくれた。

アミュアが一番起きていられるかあやしいと、順番が最初になり、今は2番目のマルタスだ。

アミュアと交替するため出てきたマルタスに、少し話したいとアミュアが残った。

焚き火に並んですわる二人の間に、まだ会話はない。

マルタスは男性の中でも実は大柄で、女性の中で小柄なアミュアとは質量が倍ほどあるように見える。

ちいさなアミュアが、話し出す。

「これはユアに許可をもらっているので話すのです」

んっとアミュアをみたマルタスが無言で頷いた。

「ユアは自分の事を話すのをとても恥ずかしがるので、マルタスさんにちゃんと話してほしいと頼まれました」

「なるほど。あいつらしいかな」

にやと笑うマルタス。

ぱちりとまだ元気に燃えている焚き火がはぜた。

ちらちらと揺れる炎の中、アミュアがとつとつと説明していく。

ユアの経歴だ。

シルフェリア村の話しは大体聞いていたようだが、母親の手紙も見つけたことはまだ伝わっていなかった。

「ユアはとても我慢強いのです」

アミュアは悲しそうにそう告げた。

「そうだろうな、無理しているのは俺も気づいていたが‥‥こちらからきくわけにもいかんのでな」

これはオフィスの人には内緒ですと前置き、アミュアはそっと告げる。

父母ともに死んでいること。

シルフェリアに両親や村の仲間の墓を作ったこと。

村の地下でやっと声を上げて泣いたこと。

それからは時々涙を見せるようになったこと。

アイギスから父親の遺言を伝えられたこと。

アミュアが一度セルミアに殺されかけて記憶を失ったこと。

「そんなことが!?無事で良かった‥‥無理だと思う時には必ずこれからは俺に通せ」

じっとアミュアを見つめるマルタス。

「お前らだけがハンターじゃないんだぞ?」

最後ににやと笑うマルタス。

その記憶を取り戻す旅を二人でしたこと。

旅の中で激しい戦いがあり、その途上記憶が戻ったこと。

そういった事を、時間をかけて丁寧に話した。

話が終わりと見ると、マルタスがお茶を入れた。

ほれ、とアミュアのカップにもお茶を入れ渡す。

「あったまるが、しょんべんしたくなるから、してから寝ろよ?」

「セクハラですが?」

「ひぃごめんよお」

マルタスは時々とても素直に謝る。

それは大人には珍しいことなのでは?とアミュアは気づいていた。

そして口煩いのは、自分たちを心配してくれているのだとも。

そこにソリスの微笑みと似たものをアミュアは感じ取った。

「なんだかユアの言っていたことが少し解りました」

にっこり笑うアミュア。

お茶はまだ熱くて飲めないのでふーふー中。

「なんだよ?気になんだろ」

くすくすと笑うアミュア。

(ずいぶん普通に笑うようになったなアミュア)

にこりとマルタスも微笑む。

「そうゆう目が、ユアは好きなんだろうなと思ったのです」

アミュアが突然カミングアウト。

「あ!今のはないしょです!」

と付け足す。

にやにや笑いに切り替えて告げるマルタス。

「いいぜ、一つ貸しだな!アミュア」

「うぐぐ、わかりました。大人みたいな事言いますね?」

「大人だからな?!解ってるよな?冗談だよな?」

またクスクス笑うアミュア。

「なんだか私もマルタスさんを気に入りましたよ?目を逸らさない程度には?」

「お前結構ひどいこと言うよな?全部疑問形だしな」

「お前ではなくアミュアです」

「はいはい」

「返事に誠意がみあたりません、もういちど」

「そうゆうトコだからな!?」

ふふんとアミュアが間をとり笑う。

「でもこうして二人で話すのは何気に初めてですね?」

んっと考えてみたマルタス。

「いやマジでそうだな。え?俺が避けられてるんじゃないよな?」

あはは、とついに声をもらし笑ったアミュアであった。

それはマルタスが初めて見るアミュアの本当の笑顔だった。




アミュアがテントに行き、一人になるマルタス。

夜の焚き火は久しぶりで、昔を思い出していた。

子供の頃にルメリナを初めて訪れた旅を、懐かしく思い出す。

アミュアにあの時旅をともにした年上の少女の面影を見たのもあった。

(初めてアミュアを見たときは、本当に似ていて驚いたよな)

焚き火の向こう側に、あの日の幻影をみるマルタス。

(ラウマの祈り‥‥うん、まだ覚えているもんだな‥ちゃんと唱えられそうだ。今でも)

マルタスの見つめる幻影の先には暗闇。

その暗闇に溶けてマルタスを監視する影が有る。

マルタス程の達人であっても、暗闇が味方するのかそれには気づけなかった。





その後の旅は順調で、トータル12泊の長い旅が終わりルメリナが見えてきた。

「オフィスに報告するまでが依頼だからな!」

とマルタスに言われ、帰りも戦闘はすべてアミュアとユアで片付けた。

殆ど脅威となる敵は出なく、単調な旅の間いろいろと交友を深められた4人であった。

カーニャもアミュアと二人でテントに泊まり、アミュアは夜に語り合う楽しみを知った。

ユアとミーナがいないとアミュアは結構夜ふかしが出来て、カーニャとないしょ話が楽しかったのと、初めての寝坊を経験したのだ。

「ユアがいないと夜ふかしが可能だと解りました!」

「ええ‥あたしとも夜ふかししようよ?」

「う‥がんばるです」

とアミュアは新しい楽しみを知ったのだった。

暗闇の中では、安心して心をさらせてしまうという事を。

カーニャのアミュアを見る温度が少し変わり、眼差しにはすこしだけ暖かさが増すのであった。


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