【第18話:こころに恥じないこと】
ついに目標を発見した二人。
「アミュ!右に行くよ!!」
短いユアの指示を受けるアミュア。
長い連携と戦いは、最小限のやり取りで最大限の成果を出す。
ちらちらとカーニャの心配どおり小雪がちらついてきた。
いまだアミュアからは視認出来ないが、ディテクトの画面では赤赤と巨大な点が描かれている。
ユアが左から追い込み右に竜が動いたのだ。
ごうと横向きにブレスが吹かれたのが見える。
心配はするが信用もするアミュア。
指示通りに詠唱を始めているアミュアは、真紅の魔力をあふれさせ、身長よりも浮き上がる。
詠唱しながら、昨日の夜ユアと打ち合わせた話を思い出していた。
『明日はペルクールを封印していく。ラウマの身体強化は使うね』
『どうして今回だけ?』
『マルタスさんが見ているし、なんかそれでBに上がったらカーニャにずるいって思われそうで‥‥』
『そんなことカーニャはいいませんよ?』
『ちがうの‥あたしの中のカーニャが言うの』
『なるほど‥りょうかいです』
詠唱が最終段階に入り何時でも撃てる準備が整った。
(ではわたしも複合魔法は封印です!わたしの中のユアが寂しそうにするから!!)
組み上げた術式は『カルテットフレイム』カーニャの必殺魔法であり、アミュアの不得意魔法でもある。
丁寧に詠唱した式には、威力増大と発動時間延長を重ねた三重詠唱。
並のドラゴンなら消し炭にするレベルの魔力を込めた。
(これが複合以外で出せる限界火力!!)
アミュアの気合がピークにたっした瞬間、見えているかのようにユアが追い込んだ竜がアミュアの視界に入る。
「いくよ!!」
アミュアの叫びはユアに届かないが、気合としては十二分であった。
ピュン
木々の合間をピンホールでぬける火炎の螺旋が巨大な竜の胴に命中した。
『GHUAAAAAAWAAW』
巨竜が咆哮を上げて巨大な太陽の螺旋にさらされる。
アミュアの撃った螺旋はそこいらの家すら飲み込む大きさだが、竜の全身は隠せない。
それほどの大きな獲物だった。
螺旋状の巨大な火の柱がごうごうと上空まで伸びる中、竜の尾が高速で振り抜かれる。
予測していたアミュアはレビテーションで木の陰をつたい上空へ退避していた。
直後に足元を猛烈な冷気が駆け抜けた。
(決めそこねた‥‥)
太い木に隠れながらアミュアが上昇していき、枝に逆上がりのように上がる。
ズドン!!
ブレスを吹き終わり伸びた首にユアが上空から降ってきて切り下ろしを打ち込んだ。
二本の木を交互に蹴り、上空まで上がっていたのだ。
幹を蹴り自由落下を越える速度で体ごと竜に切り込んだのだ。
ズシャ!
着地したユアが地面を削る。
クレイモアは折れる手前で離して刺したまま置いてきた。
あれ以上の負荷がかかれば折れると判断したのだ。
素早く腰の短剣を抜き構える。
一瞬の間をおいて轟音が響く。
ズズウウゥゥゥウウウン!!
ついに力尽きたか長大な首がユアのそばに叩きつけられ赤い血がまきちらされた。
白い巨大な鱗を砕きながら、ユアの身長を超える大きさの傷を巨大な竜に刻んでいたのだ。
半身を炭に変えられながらも、追い打った竜も凄まじい執念であった。
まだ残心するユアの元にふってきたアミュアが、レビテーションでふわりと減速し着地。
にっこりアミュアが笑い掛ける。
ユアも残心を解き納刀した。
「いえーい!!」「やりましたあ!!」
パチンとハイタッチする二人。
ぱちぱちぱちとうしろから隠蔽を解いたカーニャが、マルタスを率いて現れる。
「お見事!文句なしよ!」
にっこり嬉しそうなカーニャ。
「大したもんだ。でかい竜なんて初めてだろうに‥‥?いや経験あるのか?」
本来はドラゴンの討伐レベルは最低でCまであるが、そんな小物では経験にならない。
今回の依頼は過小評価した依頼といえるであろう。
本来ならAクラス依頼でも良い程の大物だったのだ。
「前に戦った影獣が竜になって暴れたことあるんだよ」
ユアは正直にマルタスに報告。
カーニャは以前寝物語に、スヴァイレク戦をユアから聞いていた。
「なるほどな・・・俺も知らないことがまだまだありそうだな、お前らは」
じっとにらむマルタスにしゅんとするユア。
「まぁいい。いつか話したくなったら話せばいいし、そうじゃないならかまわん」
それだけ言うとくるりと背を向けるマルタス。
残った三人は顔をあわせて眉を下げるのであった。
ハンターオフィスで報告後、ホテルに戻った一行は一旦解散とした。
一人部屋を人数分準備してあるので、後は明日の出発まで自由時間となった。
ユアの部屋に3人で集まりカーニャとユア・アミュアで話し合う。
「マルタスさんは信用できると思う‥‥あたしの感情論だけど」
目を伏せていたユアがぱっと笑顔で顔をあげた。
「なんだかマルタスさんは怖いけど、嬉しい気持ちが感じられるの」
少し考える風にしていたカーニャも続ける。
「ルメリナのオフィスマスターでもあるしね、実績も私が調べた中におかしい所は無かった」
冷静なカーニャの意見に二人も頷いた。
「ひととおり説明して、協力をあおぎましょう」
アミュアも賛成意見となり、マルタスに影獣の件をすべて話そうとなった。
「ごめんね、ラウマ様とペルクール神の話はふせるね‥‥どうしてもって聞かれたら話すけど」
「そうは言わないでしょ」
にっこりカーニャも太鼓判であった。
じゃあ解散となったが、アミュアが残り何かいいたそうにユアを見る。
いつものじっとみる見方ではなく、ちらとみるのだ。
「どうしたの?アミュア」
ちょっと心配になり近づくと、アミュアは手を広げて待っている。
さっしたユアは笑顔になりきゅっと抱きしめて耳元に囁く。
「心配かけてごめんね、アミュア。大丈夫だよ」
目をとじユアのほほに自分のほほを添えるアミュア。
「心配ってわけじゃなくて、ちょっとさみしかったのです」
にこっと笑いながら強く抱きしめるアミュア。
ユアもぎゅっと抱き返し、ささやく。
「今日は一緒に寝ようか?」
「うん‥すぐねちゃったらごめんね」
ふたりの夜は大抵アミュアが先に寝てしまうのだった。
話したいことは沢山あるのに、安心感が眠気を誘うのだった。




