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わたしの手が届いたとき  作者: Dizzy
第1章
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【第1話:Cクラス昇格試験】

晩夏を迎えたが、まだまだ残暑きびしいルメリナハンターオフィス。

虫の声だけがうるさいくらいに響き渡っていた。

やたら気合の入ったマルタスが、裏庭にある訓練場で話し始める。

「・・・Cクラス昇級試験を始める。厳しく行くからな!甘えはゆるさん!」

虫の声に負けないよう、叫ぶような宣言。

同じ顔で並んだノアとラウマには緊張感がまったくない。

今日は三つ編みで背中に流す同じ髪型。

双子のような容姿で違うのは髪色だけ、ノアは暗い銀髪。

ラウマは明るい金髪だ。

ノアは薄手の鎧下に革の軽鎧、武器は最近ユアのマネで短剣だ。

ぴらぴらと黒レースに紫の差し色が映える洋服が鎧の下にある。

「ノアから行くねラウマ。アミュアを越える雄姿をやきつけるのだ!」

にこにこしながら、ラウマは落ち着いて返答。

ラウマは白ベースに黄色の差し色が映える薄手のローブ姿。

最近入手したかわいい木製のロッドを腰に差している。

ロッドの先端には鮮やかな緑の双葉が咲いている。

「アミュアは魔法職だから審査内容が違うと思いますよ?」

びっくり顔のノア。

「ええ?ちがうの?なんだつまんないなさっさと終わらそう」

「そもそも今日は見にきてないですしアミュア」

マイペースが過ぎるふたりに、何かを思い出しプルプルするマルタスであった。




「・・・・合格だ」

あっけない試験の終了。合格を告げるマルタスの顔に、深い皺と悲哀が滲む。

(なんでこいつらこんなに強いんだ‥‥ユアの仲間だから伝染るのか?)

あらゆる体力試験を軽々とクリアするノアに、最後の模擬戦でも先輩ハンターは歯が立たなかった。

「チャラ!…あとで超スペシャル訓練な!」

「イヤまじ無理スよマルタスさん!あの子も強すぎるって。短剣つかわないんスよ?!グーだけで殴られたし。」

「だから再訓練なんだよお前は!!」

マルタスに怒鳴られ、とばっちりの試験官ハンターも、泣きながら逃げていった。

模擬戦が終わってから「あ、これ忘れてた」といって短剣に気づくノア。




「おわりましたか?では次はわたくしが?」

「・・・・オホン。魔法職だな?ラウマ」

装備を確認し、たずねるマルタス。ゴゴゴゴという効果音をまとい説明を始める。

「くつくつくつ・・・魔法職で昇級試験はつらいぞ?まずはあの的をみろ!」

意地悪そうな顔でマルタスが指さす先には魔法戦訓練用的。

なんだかうれしそう。

「的の中央に命中弾がなければダメだし、刺さらなければそもそもダメだ!」

的はCランク用と書かれたもので防御結界2枚付きだ。

「がんばりまぁす」

にっこりのラウマがふんわり両手を胸の前によせてあげてプルンから構える、何かの遊びを始めるような緊張感の無さ。


ヒュオォーーードドドドン!


轟音とともに広範囲の空気が高速回転し横向きの小さな竜巻が現れる。

竜巻から的に、風の槍が一瞬にして4発叩き込まれた。

それは無詠唱のラウマが向けた木製ロッドから、高速で連射された真空の槍。

風魔法中級ドゥーススカルディヤの魔法は、4本とも見事に的の中心を貫通してオフィスの強化結界壁に突き立った。

的の中心にてんてんと穴が空いた。

ロッドの先で小さい双葉がゆれてかわいい。

開いた口をさらに開きながら、零れ落ちそうな眼で的を見るマルタス。

自然体にこにこのままなラウマとは対照的だった。

「えへ♡」などと最後はポーズまで決めるあざとさ。

ザワッザワッとどこからか湧いてきた観客ハンターたちが説明セリフを連発。

「ば…バカな・・中級魔法を4連射だと・・」

「おい?今詠唱していたか?」

「本来は中級魔法でも耐える強度を持つ的を貫通・・・」

「ハァハァ、ゆるふわがあふれてる・・」

「なんだと・・・あのあざとさ全開のポーズであの威力」

「あ、これ絶対怒られるやつだ…」

ちょっと違うのも混じっていた恐れもあるが、説明が終わると去っていく先輩ハンター達であった。

最後に背を向け震えるマルタスがこう告げた。


「・・・合格だ・・・」



しゃがみ込み地面にのの字を書きそうになり、踏みとどまるマルタス。

そう、昔の俺とは違うぞ感を無理やり出し立ち直る。

「つ・・次だ。まだバディ試験がのこっている!連携は短期間ではごまかせんぞ!」

すっくと立ち上がったマルタスが、だんだん元気になりつつ続ける。

バディ試験は個々の戦闘能力だけではなく、連携・作戦・相性など二人の総合力が問われる。

「それなら大丈夫!ノアにおまかせ!」

ラウマの試験の間にはじっこの地面に枝で落書きしていたノアが、戻って枝をかかげる。

意外に上手にノア達3人とユアを書いてあった。

「そうですね、わたくしもソコは信頼してますよノア」

少し含みがあるぽわぽわ笑顔のラウマ。ソコ以外はあまり信頼が無いようだった。


 ザワッザワッ

またしても先輩ハンター達。

「あの二人がバディだと・・・これは楽しみだ」

「あの異常な身体能力の前衛に、あの魔法・・・」

「こりゃあすごいのが見れそうだ」

「(*´Д`)ハァハァ」

すすすっと仕事を終え消えていくハンター達。最後のはまた通報されたようだ。

そろそろアカウント停止処分だろう。

そうして試験は続いていったのだった。




「・・・ゴウカクダ」

もうやめてマルタスのライフは0よ!的な表情で、ささやくように終わりが告げられたのだった。


「やったよ!」「やりましたね!」

パチンとハイタッチを決めるニコニコの二人であった。

「おいわいだ!…あ、でもアミュアにおこられるよ?」

「すぐ節約節約っていいますねえアミュアは」

「まいにち言われてるきがする?」

「まあこれでCクラス。アミュアともユアとも一緒ですね」

楽しそうにハンター登録証を手に去っていく二人。

こうして輝かしい成績で、二人はCランクハンターバディとなったのであった。


カウンターに佇み見送るマルタスには、対象的に表情がない。

(なんだこの敗北感‥‥もうあいつらの試験官いやなんだが)

その横に並んだ先輩ハンター。先ほどノアの相手をしてボコボコのチャラ先輩だ。

「マルタスさん・・・また飲み行きますか?」

マルタスの肩をだくチャラ先輩の脳裏には、翌日の二日酔いマルタスが浮かんでいるのであった。

ユア・アミュアの時と同じだなと。






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