【第17話:ノルヴァルドで竜をさがす】
ルメリナとスリックデン双方に街道を伸ばす北の果に、円形の城壁に囲まれた城塞都市がある。
城塞都市ノルヴァルド周辺は寒冷な地域で、夏でも避暑地として人気である。
「雪が降る前に終わらせないと、馬車を置いていくことになるわよ?」
馬車の運転席にカーニャとユアが並んで座る。
冬を前に深まる秋は、空気に気配を混ぜ込む。
雪の気配だ。
「大丈夫!見つけたら瞬殺だよ!アミュアが」
気軽なユアに、肩を竦めるカーニャ。
白い馬車は細い街道を丁寧になぞる。
ユアの魔導自走馬車である。
冬は時に身長を越える積雪も有り、雪に閉ざされるとルメリナ帰還は難しいであろう。
針葉樹林に囲まれており、林はそのまま広大な山地に流れ込んでいる。
「まあ討伐依頼を出してくるんだから、見間違いでしたとかは無いと思うけど」
討伐依頼は時に住民の見間違えや、勘違いでしたとの結果もある。
「ドラゴンは見間違えないでしょ?!でっかいって話だし」
ユア達は座学終了のタイミングで入った、Bクラス討伐依賴でノルヴァルドに向かっていた。
巨大なドラゴンが市街の近くにまで現れたと、緊急で依頼が入ったのだ。
これ幸いとマルタスが確保し、出動となった。
街道の先には、城壁外の民家が街道に沿って何件も連なる。
だんだんと密度が上がり、街が近いことがうかがえる。
「寒いけど、まだ雪はないんだね?」
すっかり冬物に衣替えのユアは、白い厚手のフード付きコートを着ている。
前は閉めず中にまだ秋物のセーターとスカートが見える。
軽鎧もコートの中だ。
「ホワイトドラゴンだって話だから。近づいたら雪も降ってくるかもよ、この寒さなら」
ホワイトドラゴンは成体になると周囲の気温をさげ、場合によっては降雪を促す。
カーニャは裾の長めな薄手の上着で、金属胸当てと、大き目の肩当てが上に装備されている。
レイピアも外に装備だ。
もちろん色は真紅で、鮮やかに明るい色をふりまく。
スカートは赤い膝上だが、黒い皮ブーツは膝まである。
鎧の留め具を含めて黒い革が、綺麗なコントラストになっている。
城壁がいよいよ見えてくる。
視界の端まであるそれは、思っていたよりも大きくみえる。
「おぉ!みえてきたよカーニャ」
伸び上がったユアが左右も見回す。
正面には大きな城門も見えてきて、この馬車なら4台は並べるような巨大な入口だった。
門以外の遮るものとて無く、すぐに城下にはいるのであった。
「まずはオフィスね。それから宿を押さえて‥‥観光はなしよ!遊びじゃないからね」
とはキョロキョロするユアに、きびしい教官風のカーニャ。
「うん!依頼が終わってから、皆でたのしもうね!ノルヴァルド観光」
ユアも終わるまでは、依頼に集中する気概だ。
終われば観光する気は満々だ。
城壁の中には潤沢に木材が使われた太い柱の建物が立ち並んでいる。
お揃いで塗るのか、白い外壁が赤茶色の無垢材とコントラスト。
限られた城壁内を、計画的に埋め尽くしたのか、隙間は殆ど見当たらない。
建物は木造ばかりで高くても4階建て程度で、石積の城壁を越えないようだ。
「ぴっちり建っているね?隙間風対策?」
「あはは、違うわよ。土地が限られているからね。王都の外壁あたりもそうじゃない?」
「ああ!そういえば。王都のハンターオフィス辺りと似てるね」
「その代わり防火対策はすごいわよ。法制度もここ独自のがしっかりあって、火事を起こさせない管理をしているわ」
消防設備や消火設備も、魔法士を常勤させ対策している。
建物はぴっちりだが、今進んでいるものを含め、十字に走る道は大通りで馬車も走行可能だ。
まっすぐハンターオフィスを目指す一行であった。
オフィスで色々とカーニャ・マルタスが手続きを進めている。
ユアとアミュアは依頼ボードを二人で見ていた。
「みてみてアミュア。トナカイの魔物っているんだね!」
「おおきいのですかね?ソリも曳かせるようにテイム依頼ですよこれ」
「テイムってどうやってするんだろう?」
「さあ?一般に知られている知識みたいなので、後で資料室でも見てみますか?」
街にあるハンターオフィスには、大抵資料室が開放されており、ハンター証があれば閲覧可能だ。
地域ごとの特定資料などもあるので、移動先では事前に調べるのが常だ。
「おまたせ、とりあえず届けは済んだし、宿も取ってくれてたわ」
「おまえらの馬車は一旦ここの駐車場だな。ホテルは歩いてすぐらしいぞ」
カウンターにいってた組も戻り、その日はすぐ宿へ移動となった。
前日にしっかりと探索計画が立てられていて、馬車は街に置いてきて徒歩での探索となった。
まずは街の背後の森林から探すことになった。
「みてみてアミュア!この辺に雪があるよ!」
ユアが呼ぶので見に来たアミュアも目を輝かせる。
「ふぉすごいです!つめたいですよ!ユア」
ペタペタ触ってアミュアが言う。
二人で探索する所から審査なので、少し離れてカーニャとマルタスが付いてきているはずだ。
付近の森林には生き物も豊富にいて、冬をこすのも困難ではない土地だ。
この土地では、豊かな森林資源と手仕事の伝統を生かし、木材や精巧な木工製品、さらには皮革や皮製品など、多彩な産物が生み出されている。
「よっし!がんばろうねアミュア」
「りょうかいです。ワンパンですよトカゲごとき」
舐めまくって余裕のふたりであった。
「あ!そういえば。資料室みてこなかったね?」
「ふふふ、ユアが起きてくる前にちゃんと調べておきました!えっへん」
「おぉ、さすがたよれる相棒!」
「テイムに関しては、特殊な装備が必要だそうですよ?街で売ってるらしいですが」
手が冷たくなったのか、スカートでごしごしするユア。
「そうなんだ、終わったらそれも見に行こうね」
「りょうかいです。そろそろ手も冷たいのでミトン装備です。ユアも装備してください」
ホワイトドラゴン対策でしっかり防寒装備を準備してきた二人であった。
だんだんと林の奥は気温が下がり、いよいよ怪しいぞと警戒を密にする二人。
ピーンと魔力が走り、アミュアのデティクトイビルが発動。
「敵意無しです」
「了解、先行していくよ」
短く答えて速度を上げるユア。
遅れじと加速するが、ユアはあっという間に見えなくなる。
アミュアはデティクトイビルの情報を確認しながら、進んでいく。
ここからは慎重にと切り替える二人であった。




