【第16話:うすくらやみの円卓】
薄暗い室内に大きな丸いテーブル。
10人ほどが腰掛けられそうな円卓であった。
中央に円形の空間を残した造りで、木製だが相当手の込んだ作りと風格がある。
数年程度ではこうはならない色合いで、つややかに仕上げられていた。
色は焦げ茶、厚塗りの仕上げは角度によっては鏡のように反射する。
七脚の同じ質感の立派な椅子が備えてある。
背もたれに複雑な木工が施され、つやつやと光を反射している。
席には二人の人物が掛けている。
深くフードをかぶり顔は見えないが、同じようなシルエットはどちらも男性。
あまり体格は良くないようだ。
一方が声を出した。
「エルヴァニスは遅れると聞いていたか?」
いがいに艶のある深いバリトン。
落ち着いた感情が伺えない声。
「来ていない、こちらには、特に」
無機質なテノールで答えが返る。
こちらは無感情ともいえる棒読みだ。
まるで機械のように正確な抑揚。
この部屋自体も円形。
壁は濃い灰色の石積みで、燭台に見立てた魔石灯がぽつぽつと七つかかっている。
正確に各椅子の真後ろだ。
入口は見た所対面して二つある。
二人は入口を背に対面で座っている。
入口の無い壁に旗が掲げてある。
黒字に金色の大きな円。
同じ金色で大きさが違う7つの星を、螺旋に似た繋がりで散らされていた。
よく観ると四隅のラインデザインは文字になっているようだ。
こちらも年代物とみえて、ガラスのなかに封じられた大きな額縁になっている。
「もう少しあのアストラルボディがほしいのだが。あれはエルヴァニスしか作れぬからな」
バリトンが無感情に話す。
「女王のコピーは、欲しい、こちらでも」
テノールは無機質に話す。
入口の無い反対側の壁には大きな地図。
それは現代には存在しないはずの世界地図であった。
楕円で描かれたそれは、幾つかの大陸と広大な海が書かれていた。
こちらは皮製で、比較的に新しそうである。
赤いピンが幾つも刺してある。
一方の入口から似た格好の人影が、無言で入ってくる。
二人は無言で招き入れる。
旗の前に座るシルエット。
薄暗い部屋でフードは二人と同じく深く被っているので人相は解らない。
「待たせたな、ヴァルキラス、オルディクス。ちと移動で手間取った。スリックデンと王都の間だけでも転移魔法陣を復旧させてほしいものだ。」
落ち着きのない早口のバス。
感情がもっとも豊かそうな声である。
3人が揃い沈黙の時間が少し流れる。
まるで何かを思い出すように、瞑想するようにうなだれた沈黙が有った。
「ではそろそろはじめようか」
「議題1:ルメリナでのサンプル供出の件。予定通り3名の新しいサンプルを準備した。引き続き供出可能か確認中」
「議題2:王都での王弟派閥掌握。現在の進行度69%。障害は排除されつつある。進行速度は想定の97%」
「議題3:公都エルガドール近辺でのセルミア残党狩り。92%完了。想定どおりレヴァントゥスは補足不能」
「議題4:・・・」
突如始まった報告会。
そこには声質も感情もすべて同一の声が繰り返し3人から流れる。
先程までの声質も感情も作り物であるかのように、規格化され聴きやすい滑らかな報告。
暗闇の中に同じ声が別の場所から流れ続ける。
「イレギュラー2:再調整のため鹵獲した女王コピーが逃走。現在追跡中ですが未捕捉」
「イレギュラー3:特定監視対象BとCの昇級却下が失敗」
「次は20:00:12:01:2115に開催となります」
突然報告の声が途切れる。
またしても重い沈黙が居座る。
うなだれていた3人が顔を上げる。
「さて、何か要望がきていたようだな?サンプルでもたりなくなったか?ヴァルキラス?、それとも戦力補充の相談かな?オルディクス」
イライラと恨みを孕んだようなバスでエルヴァニス話し出す。
「すまんなエルヴァニス。れいのアストラル体がもう少しほしい。2~3体融通できないかな?」
落ち着いた感情で艶のある深いバリトンのヴァルキラス答えた。
「すまんがあのサンプルは異常に繁殖確立が低いのだ、今育成中のが3体あるが、まだ生体に満たないぞ?」
棒読みで無機質なテノールが次は声を出す。
「ほしい、どうだ?ダースで、女王コピーは?」
「女王の卵巣は働きものでな、まだまだ増産可能だぞ。12体だな承知した。3ヶ月で次のロットが立ち上がるので、そこから融通しよう」
エルヴァニスの声に歓喜が交じる。
何か会話の中で琴線にふれたのであろうか?
その反応すらも先程の画一された態度の中にあるのか、外に作られたものなのか。
伺い知ることは誰にも出来ない。
入口といい、どこかに繋がっているような作りだが、この空間には出口は無い。
地下なのかはたまた塔の中なのか、外をうかがえる場所すら無い。
二つの出口の先には緑色の複雑な円形魔法陣がある。
先程エルヴァニス言った、転移魔法陣とはこれのことか。
魔法陣の先が何処につながるのかも、使用者以外には知るものはいない。
この3人であっても、互いの行き先を知らないのであった。
深い闇のそこか。
おぞましい深淵か。
そこに至ったものには、安らかな死さえ与えられないであろう。




